「取調べの可視化」に暗雲か

(法制審の試案)

昨日(430日)、法制審議会の特別部会が、取調べの可視化(録音・録画)に関する試案を示しました。試案では、取調べの録音・録画(可視化)をする場合には、原則、逮捕から起訴までの全過程で行うよう義務付けることとした一方、取調べの可視化が義務付けられる対象事件を極めて限定したものとしています。

具体的には、録音・録画を義務付ける事件については、A案「(警察、検察ともに)裁判員裁判対象事件」と、B案「A案に加え、全ての逮捕事件での検察官の取り調べ」の2案が示されました。しかしながら、これでは、裁判所も繰り返し批判してきた、誘導や脅しで自白を迫る警察、検察の取り調べを防ぐことが十分にできません。

(私が法務大臣として目指したもの)

私が法務大臣に就任した時の記者会見(201192日)では、「(取調べの可視化の在り方については、)費用の問題、効率性の問題等が相互に絡み合っていて総合的に考えていく必要があるが、」「理想とすべき,目指すべきところは,全過程であり,全事件である。」と答えています。このメッセージは、当時の法制審にも伝わっていたと思います。

(今回試案では不十分)

これまで取調べの在り方が問題となった事件は、今回の試案ではカバーできません。特別部会委員の一人の村木厚子・厚生労働次官が冤罪になりそうだった郵便不正事件は、裁判員裁判対象事件(殺人、傷害致死、放火など)ではありませんし、選挙違反容疑で過酷な取り調べが行われた(鹿児島県)志布志事件は、警察での取調べでした。

捜査当局は、取調べの可視化による捜査への影響を心配し、電話や電子メールを傍受できる犯罪の大幅追加など、捜査手法の強化を求めています。しかし、捜査する側でも「取調べの可視化によって捜査がむしろし易くなった」との声が国内外にありますし、「自白の任意性」に関する公判での争いも少なくなるという利点もあります。

捜査当局は、「取調べの可視化」の必要性が取り上げられてきた原点をシッカリと踏まえて、もっと前向きに積極的に取り組んでほしいと考えます。

(了)