安倍晋三首相が設置した有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、5月の連休明けにも首相に報告書を提出する見通しとなったことから、安保法制懇が最大の検討の対象としている「集団的自衛権」の話題がマスコミを賑やかせ始めました。

 安倍首相や安保法制懇が集団的自衛権の行使として例に挙げるものの中には、「個別的自衛権」(我が国が武力攻撃を受けた場合に反撃する権利)の行使や、警察権の行使(例、海上保安庁の活動)で説明できる活動もあると指摘されています。にもかかわらず、安倍首相は、なぜ「集団的自衛権の行使」にこだわるのでしょうか。

 それは、安倍首相が「アリの一穴」を目指しているからだと思います。「とにかく、今回は、どんな活動であっても集団的自衛権の行使の範疇に入るものとして認めることが最優先だ」と考え、先ずは「集団的自衛権」の枠(拘束)を取り外そうとしているのです。そして、その後徐々に、行使可能とされる活動の範囲を拡大していこうとしているのです。

 そのため、安倍首相周辺では、「集団的自衛権」を何が何でも認めようとする理屈が色々と考えられています。

先ず、第1は、砂川事件の最高裁判決を根拠としようとする動きです。自民党の高村正彦・副総裁は、砂川判決が、「必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然」と判じ、「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の区別がされていないことを根拠にして集団的自衛権の行使容認の根拠にしようとしています。

しかしながら、この点について、宮崎礼壹・元内閣法制局長官は、「判決が(個別的自衛権に)限定していないから、集団的自衛権を容認しようという議論は聞いたことがない」と言っていますし、砂川判決後の政府見解や国会審議でも、高村副総裁のような主張は展開されたことはありません。「古証文」に基づく主張です。

 第2は、「集団的自衛権の行使」の要件を限定することによって容認しようとする動きです。報道によれば、内閣法制局は、集団的自衛権の行使要件を「放置すれば日本が侵攻される場合」などに限定した案を内々とりまとめたそうです。この内閣法制局の案は、従来からの見解を大きく転換するものと受け止められています。

 

 これまでの我が国の自衛権発動3要件は、その一つとして「我が国に対して急迫不正の侵害がある場合」を掲げていました。「放置すれば日本が侵攻される」状況なら、「放置」することなく、外交的努力によって我が国が侵攻される事態を防ぐことが本来すべきことです。それを武力行使によって防ごうとするのは、正に憲法が禁止していることです。

第3は、憲法9条第1項が規定する「国際紛争」の定義を変えようとする動きです。憲法第9条第1項が武力行使を禁じる「国際紛争」について、それは全ての国際紛争ではなく、「日本が当事者である国際紛争」となる場合に限定しようとしています。日本の領土問題などが絡まない国際紛争に対処する多国籍軍なら参加できることにしようとしています。

しかしながら、我が国が多国籍軍に参加して武力行使をする事態に至れば、それ以前は「日本が当事者である国際紛争」ではなかった国際紛争が、正に、「日本が当事者である国際紛争」になってしまうのではないでしょうか。とんでもない御都合主義の憲法解釈としか言いようがないと思います。

(了)