NHK経営委員の恣意的任命)

 8日、衆参両院は、それぞれNHKの経営員5人の任命(4人が新任、1人が再任)に同意しました。NHKは、「政治的な公平」(放送法4条)を求められている放送事業者の中でも公共放送としてとりわけそれが求められているにもかかわらず、NHKの最高の意思決定機関である経営委員会に、安倍首相の再登板を明示的に支持してきた2人や安倍首相の家庭教師を務めた1人が委員に任命されたことには、問題が残ると思います。

(菅官房長官の影響力)

 今回の経営委員の任命については、安倍首相の意向も強く働いていると思いますが、忘れてはならないのが、菅義偉・官房長官の存在です。菅官房長官は、NHKを所管する総務省において、総務副大臣や総務大臣を経験した人であり、与党の自民党国会議員としてNHKに深くかかわってきた人です。私が総務副大臣を務めていた時も、総務官僚達が菅氏の存在を強く意識していることを感じました。「NHKを支配したいと考えている人」と言っても良いでしょう。

(安倍首相のNHK番組介入問題)

 今回のNHK経営委員の人事騒動を見て思い出すのが、2001年1月にNHKで放映された番組「『戦争をどう裁くのか』の第2夜『問われる戦時性暴力』」に対する安倍首相(当時は、官房副長官)と中川昭一・経産大臣(当時)の番組編集に対する介入問題です。放映後になって、番組編集時に圧力があったのかどうかが争われましたが、安倍氏からNHKに対してこの番組に関して何らかの接触があったことは間違いのない事実です。

NHK番組介入からNHK人事介入へ)

 このような経験をした安倍首相は、政治家や閣僚としてNHKの番組編集に介入してはならないことは十分に承知しているはずです。そのため、今回は、自らの権限である人事権(経営委員の任命権は首相にある。)を行使して自分の考えに近い人を選ぶことで、NHKに対する影響力を強めることとしたのです。そして、NHK経営委員会は、「NHKを代表し、その業務を総理する会長」を選任する権限を有しています。

NHK会長人事の行方)

 NHKの松本正之会長は、来年1月に任期を迎えますが、自民党や財界から「原発問題、領土問題等でNHKは偏向している」といった批判(ネットでは、「売国奴」とも中傷されています。)があることから、安倍政権内には会長交代を求める声が出ていると言われています。



しかし、松本会長は、民主党政権下で私が総務副大臣時代に会長に選任された人ではありますが、JR東海で、保守派の論客である葛西敬之氏の次の社長を務め、葛西氏が会長時代に副会長を務めていた人です。松本氏も、特に自民党や財界から離れた考えを持っているとは思えません。



今回の経営委員会人事は、一部報道で伝えられるように、松本会長の再任を阻止することを目指しているのかもしれませんが、少なくとも、松本会長を安倍政権寄りの立場に立たさせることを目指していることは間違いないでしょう。

(了)