今日(2日)から4日まで、長崎市内で第5回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキが開催され、私は、明日(3日)行われる第1分科会「非核の傘・非核兵器地帯を広げよう」のパネリストの一人として参加します。私が国会議員当時に取組んできた核軍縮・核廃絶に向けての活動が評価されてのご招待です。

 第1分科会では、最初に、4人のパネリストがそれぞれ10分程度の冒頭発言をした後、パネル・ディスカッションが行われます。4人のパネリストには、私の他、水本和美・広島市立大広島平和研究所副所長、ウォード・ウィルソン英米安全保障情報センター上級研究員などがおられます。

 このうち、ウィルソン上級研究員は、「核兵器に関する5つの神話」という著書でノルウェー外務省から39万ドルの賞を獲得して、現在国際的にも注目されている核兵器問題の研究者です。私は、民主党の核軍縮促進議員連盟の役員として、これまで「北東アジア非核地帯条約」の締結に向けての活動をしてきました。

以下に、明日の第1分科会の冒頭の私の発言内容をご紹介しますので、読んでみてください。少し長い文章ですが、世界の核軍縮の動き、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化の動き等がある程度分かって戴けると思いますので、頑張って読んでみてください。

『北東アジア非核地帯についての国会議員の取組みと可能性』

(始めに)

 私は、元法務大臣・前衆議院議員の平岡秀夫と申します。私は、昨年末の総選挙で衆議院議員としての職を失うまでは、PNND(核軍縮・核不拡散議員連盟)日本支部の会長代行とPNNDのグローバル共同議長を務めていました。現在も、次回総会まではグローバル共同議長を務めています。

PNND」というのは、国際的に核不拡散・核軍縮に取り組む超党派の議員連盟のことで、日本国内でも活動しています。

現在、グローバルPNNDとしては、核兵器禁止条約(NWC)や、中東地域・北東アジア地域の非核兵器地地帯化に力を入れています。PNND日本支部も同様の活動をしていますが、参加議員の数が減少しています。以前は60名を超える議員が参加していましたが、昨年末の総選挙、今年7月の参議院議員選挙の結果、現在30数名の議員に減少してしまいました。北東アジア非核兵器地帯については、PNND参加議員に加えて、日韓の超党派の議員93名が支持表明をしてきました。私自身も、韓国国会議員と何度か協議を行ったり、2010年NPT再検討会議のサイド・イベントで紹介したり、色々な取り組みをしてきました。

(2010年NPT再検討会議)

 核軍縮・核廃絶の機運は、2000年以後一時停滞していましたが、2008年10月、韓国出身の藩基文・国連事務総長が国連シンポジウムで「国連、そして核兵器のない世界における安全保障」と題する基調演説を行い、また、2009年4月、オバマ・米国大統領がプラハで「核なき世界」を演説したことから、核不拡散・核軍縮の機運が再び高まってきました。その中で2010年5月にニューヨークで2010年NPT再検討会議が開催され、この再検討会議では、失敗に終わったと評される2005年の再検討会議とは違って、最終文書がコンセンサス採択されました。

しかしながら、残念なことは、中東の非核兵器地帯を含め、多くの地域における非核地帯条約が最終文書において言及されたにもかかわらず、北東アジア地域については、北朝鮮に対し2005年の6ケ国協議の履行を求めたこと以外には、最終文書では何らの言及もなかったことです。詳しくは、後述しますが、2015年NPT再検討会議では、その最終文書の中に「北東アジア非核地帯」という文言が何らかの文脈の中で入るように、何とかしたいものです。

(北東アジアの非核化に向けて)

以上のような国際的動向を踏まえつつ、これまで、私たちは、あくまでも「核兵器のない世界」を目指すという目標に立った上で、その目標と矛盾することなく、核廃絶に向けてより実現性の高い部分的又は段階的アプローチを模索することも重要であると考えてきました。その中で取り組んできたのが、北東アジア非核地帯条約の締結へ向けての取り組みです。以下、順を追って振り返ってみたいと思います。

2010年NPT再検討会議前の動き

「北東アジア非核地帯条約案」は、岡田克也衆議院議員(その後、外務大臣、副総理大臣を歴任)が会長、そして私が事務局長を務めていた民主党核軍縮促進議員連盟が、08年9月9日の長崎の「原爆の日」の前夜に、長崎市で発表しました。

この条約案は、既存の非核兵器地帯条約や、既にNPO法人「ピースデポ」等によって作成されたモデル案を参考として作成されており、その内容の基本的枠組みは、次の通りです。即ち、「韓国、北朝鮮、日本の3カ国の地帯内国家と、米国、中国、ロシアの3カ国の近隣核兵器国家が非核地帯条約を締結するという方式、すなわち『スリー・プラス・スリーの方式』をとり、地帯内国家は核兵器を保有しない、持ち込まないことを約し、近隣核兵器国は地帯内国家に対し核使用や核による威嚇をしないという『消極的安全保証』を提供する。」という枠組みです。

その後、国際的には、09年5月、私が、民主党核軍縮促進議連の事務局長として、ニューヨークで開催された2010年NPT再検討会議の準備委員会のサイド・イベントにおいて「北東アジア非核地帯条約案」を国際的に発表したほか、09年11月に韓国で、そして10年2月に日本で、日韓国会議員等によって、北東アジアの非核化について協議を行いました。このうち、日本での協議においては、両国国会議員による共同声明を発表し、日本の国会議員では86名、韓国の国会議員では7名がそれぞれ、北東アジアの非核化に賛同しています。

また、日本国内では、09年6月に行われた民主党代表選挙において、岡田克也候補が、本条約案の実現を公約に掲げるとともに、それに触発されたもう一人の代表候補・鳩山由紀夫氏も、やや抽象的な表現ではありましたが、自らの公約に取り入れました。そして、政権交代をかけた09年8月の総選挙では、マニフェスト(政権公約)に「北東アジアの非核化を目指す」との政策を示した民主党が勝利し、政権交代が実現しました。しかし、残念ながら、政権交代後の民主党政権下では、「北東アジアの非核化」については、首脳レベルでの演説、会談等で触れられることはありませんでした。

2010年NPT再検討会議で残された課題

ニューヨークで開催された2010年NPT再検討会議においては、「北東アジア非核地帯」について様々な動きがありました。そのうち、同年4月29日に開催された「非核地帯に関する市民社会フォーラム」では、「中東、北東アジア、北極、中欧における非核地帯の設立に向けての可能性を探求することを支持する」と総括され、北東アジア非核地帯化が明記されましたが、同月30日に開催された「第2回非核地帯条約締約国会合」やその翌月28日に採択された再検討会議本会合の「最終文書」では、「朝鮮半島の非核化」が言及されただけでした。

なお、NPT再検討会議のサイド・イベントとして NGOが同年5月6日に開催したワークショップ「北東アジア非核地帯」においては、私から民主党の「北東アジア非核地帯条約案」を詳しく紹介し、参加者の皆さんと熱心に協議を行いました。

2010年NPT再検討会議のその後

一昨年(2011年)のMH,ハルペリン氏の提案、「核軍縮・不拡散のためのアジア太平洋指導者ネットワーク(APLN)」の発足等の状況を踏まえ、PNND日本支部では、昨年(2012年)5月17日、同支部に所属する超党派の国会議員をメンバーとする「北東アジア非核兵器地帯促進ワーキングチーム」を創設しました。そのワーキングチームでは私が座長となって、PNND・日本支部が提案すべき「北東アジア非核地帯条約案」の作成作業を行ってきましたが、その後私が議員の職を失ってからは、作業があまり進展していないと聞いています。大変残念に思っています。

(今後の取り組み)

先ほど申し上げましたように、2015年NPT再検討会議において、「北東アジア非核地帯」が本会合の最終文書で明示的に取り上げられるように、各方面において、これから積極的な活動をしていかなければならないと思っています。

その点で、今年(2013年)5月のNPT再検討会議第2回準備委員会の議長総括において、参加国は、6者協議の場を含めて、朝鮮半島非核化並びに朝鮮半島及び北東アジアの平和と安全を維持することの目標を達成するため、平和的な外交上の解決策を見出す努力を続けることを誓約した。」(パラ77)とされたことは今後の手掛かりをつかめるものであり、更に議論を発展させていかなければならないと考えています。

 最後に、北東アジア非核地帯構想を、その実現に向けて2015年NPT再検討会議を含めた政治日程に上がらせるために、私たちがどのような取組を行うべきかについて、述べたいと思います。

非核兵器地帯は、外から求められたり、強いられたりして成立するものではなく、当事国自らのイニシャティブによって形成されなければならないと考えます。その観点に立って、先ず、先ほど述べたPNND・日本支部の「北東アジア非核兵器地帯促進ワーキングチーム」によって、できる限り早期に「北東アジア非核地帯条約案」を作成してほしいと願っています。その上で、それを材料として、韓国をはじめ「6か国協議」構成国の国会議員との協議を行うとともに、それらの国会議員が、「日本政府を始めとする関係国政府が公的な意思を表示し、関係国政府同志で交渉を開始すること」を働きかけることが必要と考えます。そして、そのような状況を生み出す環境を作っていくためには、NGOや政治家(国会議員)がリードして市民社会全体と連携していくことが極めて重要と考えます。

今回の「地球市民集会ナガサキ」が、第1分科会において「非核の傘・非核兵器地帯を広げよう」をテーマにパネル・ディスカッションをおこなうことは、その環境づくりにも資するものとして大いに評価したいと思います。

(了)