「集団的自衛権の行使」の合憲性に関する内閣法制局の新・旧長官の発言を巡って、菅義偉官房長官は、前内閣法制局長官の山本庸幸・最高裁判事が憲法改正の必要性に言及したことに対し「極めて違和感を感じる」と批判した。

しかし、「違和感を感じる」のは、むしろ、菅氏の発言であり、小松一郎・新内閣法制局長官の発言の方だ。この二人は、現行の日本国憲法が何を規定しているのか、十分にわきまえていないのではないか。

菅氏は、真っ先に、憲法第99条(憲法尊重擁護義務:注)を読むべきだ。そして、国務大臣たる菅氏は、安倍政権が、現行憲法の確定的な解釈を変更して(憲法解釈を捻じ曲げて)、憲法を台無しにしてしまおうとしていることに気付くべきだ。

(注:憲法第99条;天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。)

小松氏は、「内閣法制局が最終決定権を持つかのような誤解が世間にはある。最終的には内閣全体として結論を出していく。」と言っているが、これでは、憲法解釈の最終決定権が内閣にあると誤解しているのではないかと疑いたくなる。

法令や処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するのは、最高裁判所である(憲法第81条;違憲審査権)。内閣法制局は、法令や処分が最高裁によって「憲法違反である」とされた時の混乱を防ぐために、内閣提出の法案や内閣が行う処分について予め憲法適合性を検討しているに過ぎない。

 山本氏の「何らかの法規範が現状に合わなくなったら、その法規範を改正するのが一番クリアカットな解決だ。集団的自衛権を実現するには、憲法改正をした方が適切だし、それしかない。(憲法改正を)するかどうかは国会と国民のご判断だ。」という発言は、至極当然な発言だ。

菅氏は、安倍内閣が行おうとしていることの問題点を山本氏が指摘したからこそ、その発言を批判したのだろう。しかし、その前に、安倍内閣が憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反する行動をとろうとしていることの方が大問題であることに気付くべきだ。