1、 経緯と今後
 オスプレイ(オスプレイV22)は、米軍(空軍、海軍、海兵隊)の新型輸送機で、回転翼の角度が変更できる垂直離着陸機です。愛称となっている「オスプレイ」は、タカに似た猛禽類の「ミサゴ」を意味します。
 1989年3月に試作機が初飛行した後、開発・試験段階で墜落事故を4回起こし、機能追加や再設計など事故原因への対策を行い、2005年9月に米国政府が量産を決定しています。量産決定後の主な事故としては、07年11月のニューリバー基地周辺飛行中でのエンジン部からの出火、10年のアフガニスタン作戦任務中の空軍オスプレイの墜落、今年4月のモロッコでの演習中の墜落事故等がありましたが、昨日(現地時間では13日午後7時前)フロリダ州で訓練中に墜落事故を起こしています。
 私の記憶では、06年の在日米軍再編決定時にはオスプレイの沖縄配備は噂では出ていましたが、当時の自公政権は「聞いていない」という態度であったと思います。その後、政府がオスプレイの沖縄配備を昨年5月に公式に認めたことから、沖縄県普天間基地の移設問題とともに注目されてきました。
 オスプレイの沖縄配備に当たっては、日米両政府は、沖縄の県民感情を配慮して、今年に入って米軍岩国基地への一時駐機を大筋合意したと伝えられましたが、今年3月、地元山口県知事の反対があったり、地元の強い抵抗が予想されたことから断念されていました。
そして、今回、再度、岩国基地への一時駐機案が浮上してきたのです。一時駐機案は、「沖縄県の負担を軽減するため」、7月末までに岩国基地にある港湾施設を利用してオスプレイ(プロペレ部分をたたんだ状態)を搬入し、1週間程度で試験飛行を実施して安全を確認した後、8月中旬までに普天間基地に配備することを目指しているようです。


2、 政府の姿勢
 米軍岩国基地を巡る米軍再編等については、自公政権には許しがたい「背信行為」があったと思います。SACO(沖縄特別行動計画)においてKC130空中空輸機12機を岩国が受け入れることで進められてきた「岩国市役所建替え補助金」の交付が、途中で、「岩国市が、厚木基地にいる空母艦載機59機の岩国基地移駐を認めない以上は、補助金を交付しない。」との言いがかりをつけて打ち切られてしまったのです。総額45億円程度が見込まれていた補助金が、残り35億円程度を残して打ち切られたのです。このため、当時の岩国市長は、結局、自ら辞任して出直し選挙を行わなければならない事態に追い込まれてしまいました。私も、当時の自公政権に対しては、国会の場、選挙の場等で、この点を厳しく批判しました。
 今回は、このような愚行は行われていませんが、政府の姿勢には色々な疑問があります。その最たるものは、未だモロッコでの墜落事故の原因について正式の報告がなされていないのに、配備の手続きを進めていることです。報道によれば、元々オスプレイの普天間配備は今年10月頃と見られていたのが、米軍の運用上の都合で8月の配備に前倒しとされたことで、拙速な手続きの進め方となったのかもしれません。
 米国では、本来、法務官が事故原因を解明する調査報告書を出すことになっているのですが、本件に関するこの調査報告書は、「今年遅くに終了する」ことになっているそうです。本来は、この調査報告書で確認をしたうえで、我が国への配備の是非を判断するというのが筋だと思いますが、日本政府は、7日に、米国政府から「機体の安全性には何ら問題はない」との通知を受けて、受け入れ自治体との手続きを進めようとしています。
 この点については、私も、防衛省に対して、「米国政府から、どのような方法で、どのような内容の通知があったのか。」の説明を求めています。これまでに分かったことは、何らかの方法(多分、口頭)で米国政府から在米日本国大使館職員に通知があって、それが公電で外務省に連絡されてきたという事実です。この程度のやりとりだけで、安全性を確信するというのは、無責任だと思います。米側は「航空機事故安全調査を通じ確認されたデータによれば、機体に機械的な不具合はなかったと断定された」としているようですから、少なくとも、その調査結果について責任ある者からの文書でキチンと確認をするのが、本来あるべき姿勢だと思います。
 ちなみに、09年6月の米下院監視・政府改革委員会において、証言を求められた専門家は、「オスプレイは、オートローテーション機能を欠いている。」と証言しています。オートローテーションとは、「ヘリコプターが空中でエンジンを停止した際、落下時の下方からの気流を利用してローターを回転させて揚力を得ることによって安全に着陸するための機能と操縦技術」のことです。


3、 岩国への先行搬入
 「岩国基地にオスプレイを先行搬入することは、沖縄の負担を軽減することになるのだから、沖縄の人たちのためにも引き受けるべきだ。」との意見もあります。しかし、本当にそうでしょうか。
 確かに、仮に沖縄に配備されるとなると、試験飛行による事故のリスクを沖縄がかぶることになりますから、その点を、三方が海である岩国基地で試験飛行をするのであれば、沖縄の負担を軽減することになるでしょう。また、防衛省から、「SACO(沖縄特別行動計画)で、KC130空中空輸機を岩国が受け入れてくれることを表明したことに対しては、沖縄県の人々は感謝しています。」と聞いたことはありますが、これはあくまでも、既に沖縄に配備されているものを岩国基地が引き受けたものでしかありません。
今回は、沖縄が配備に反対をしており、未だ沖縄に配備されていないものを岩国が先行的に引き受けようとするものです。沖縄県の人々にとっては、「岩国が要らぬおせっかいをして、オスプレイの沖縄配備を実施しやすくした。」と思えてしまうのではないでしょうか。岩国で試験飛行をすれば、後は、オスプレイは空路で普天間基地に直接入ることができるのですから、沖縄県の人々にとっては、抵抗を示す手段が限られてしまいます。岩国への先行搬入の是非を判断すべき人は、政府を通じてか、あるいは直接に、沖縄県の意見を聞いてみたらいかがでしょうか。


4、 フロリダ州での事故後の対応
 森本敏・防衛相は、もともと、オスプレイの配備には積極的でした。大臣就任時にも、田中直紀・前防衛相が、モロッコでの事故について配備前にその原因を公表すると約束していたのに対し、森本防衛相は「(事故)調査報告と配備のタイミングの相関関係は決まっていない」として、原因究明前の配備の可能性に言及し、事実上の方針転換を行ったと言われています。
 さすがに、フロリダ州での事故があったことから慎重になったのではないかと思ったら、どうも、そうではないような雰囲気です。政治家である藤村修・官房長官は、14日の記者会見で「詳細がわからない限り、何ら新たな行動を起こさない。」と語ったと報じられているのに対し、森本防衛相は、次のような発言等をしたと報じられています。
『森本防衛相は14日、アメリカ軍の新型輸送機「オスプレイ」の普天間基地への配備前に一時駐機を要請している岩国基地を抱える山口県の二井知事と会談し、オスプレイの配備について、現段階では「計画通りに進めていきたい」との考えを伝えた。』
『これ(二井・山口県知事が「いくら安全性について説明されても、私としては反対せざるを得ない。今回の一時駐機の申し入れは棚上げしてほしい」と伝えたこと)に対し、森本防衛相は、現時点では事故の原因がわからないため、今すぐに配備計画を変えることは難しいとの認識を示した。』
 森本防衛相は、民間人からの防衛相への就任に当たって、「政治家でない防衛大臣は、如何なものか」と指摘されたことに対して、米国国防長官の例を挙げながら反論したと聞いています。しかし、フロリダ州の事故を受けての発言を聞くと、「実務家」、「専門家」としての発言しかできていないのではないかと危惧します。オスプレイの配備についての必要性は米軍並みに専門的に説明できても、配備に伴う地域住民の安全性についての懸念に対する思いというのに欠けていると感じます。地域住民や国民に支えられて初めて有効な安全保障政策が成り立つことを肝に銘じてほしいと思います。
(了)