今日は、日本国憲法が施行されてから65周年を迎える日です。私は、東京の日本教育会館での平和フォーラム(代表:江橋崇・法政大学教授)が主催するシンポジウム「サンフランシスコ条約締結60年 今、日本は!-日米・日中関係から考えるー」にパネリストとして参加しました。江橋代表がコーディネータを務め、私の他には、渡辺美奈(女たちの戦争と平和資料館事務局長)さん、服部良一(衆議院議員)さん、大河原雅子(参議院議員)さんがパネリストとして参加されました。

 そこで、今日は、憲法に関する最近の動きについて、私なりの問題提起をしてみたいと思います。

1、憲法改正を巡る最近の動き

 最近の憲法を巡る主な動きとしては、3月に「大阪維新の会」が「船中八策」(維新八策)の中で憲法改正の提案事項を発表したり、先月に自民党が憲法改正試案を発表したりしています。

これらの提案を見てみますと、総括的に言えるのは、彼らが、憲法の本質を理解していないのか、あえて無視しているのではないかと思わざるを得ないということです。憲法とは、「国民が権力の側を縛る」のが本質なのですが、彼らの提案は、「権力の側が国民に行動や価値観を指示する」内容を目指しているからです。

例えば、自民党試案では、国旗・国歌尊重義務規定、表現の自由制限規定、緊急事態での国民の義務規定など、国民が拘束される規定を盛り込んでいます。また、維新八策では、「憲法改正」項目の中は統治機構の在り方(首相公選制、参院廃止)が中心となっていますが、その他の項目の中には、基本的人権に関わる問題のある提案が含まれています。橋下徹・大阪市長は、「選挙で選ばれた政治家は、その任期中はある意味で白紙委任された独裁者である。」と言って、基本的人権の侵害に繋がりかねない問題行動をとっていますが、維新八策の提案も、それと軌を一にするものであると考えられます。

憲法改正と言えば、最も関心が集まるのは「第9条改正問題」です。彼らの憲法第9条に関する提案については、「平和憲法」の理想を失い、むしろ目指すべき方向性を間違った改正を行おうとしていると言わざるを得ません。

 例えば、維新八策では、「領土を自力で守る防衛力の在り方を検討」とか、「自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸」としていますが、自国の安全保障政策について自国の軍事力を中心に据えて考えようとするのは時代錯誤的だと思います。国連がしっかりと役割を果たすことを目指すべきところなのに、その国連の役割をあえて無視しようとしていると言わざるを得ません。

 自民党の憲法改正試案では、「国防軍を保持」し、「自衛権の発動を妨げない」と規定しようとしていますが、この提案は、明らかに、現憲法では行使が認められていない「集団的自衛権の行使」を認めようとしています。現行憲法において、専守防衛のための必要最小限の実力部隊として位置づけられている自衛隊が、「自衛権発動の3要件」(我が国に対する急迫不正の侵害があり、これを排除するために他に適当な手段がない場合に、必要最小限度の実力行使に止める)の原則に従って行動することとしていることを放棄しようとするものです。これでは、日本が米国等に引きずられて「参戦」する事態も避けられなくなります。

2、野田政権下の安全保障を巡る最近の動き

 民主党では、現在、憲法第9条について具体的な改正が議論されているわけではありませんが、野田政権の下で、懸念される動きがあります。 

 例えば、先月27日に発表された「在日米軍再編見直しの中間報告」では、アジア太平洋地域で自衛隊と米軍が連携する「動的防衛協力」構想が打ち出されました。我が国が武力攻撃を受けた場合にのみ自衛権を発動する「専守防衛」の考え方から、自衛隊と米軍の連携をアジア太平洋地域での広域的な軍事協力(共同訓練の実施、共同訓練施設の財政支援等)にも拡大しようとするものです。「動的防衛協力」を導入することによって、「集団的自衛権の行使」につながる懸念が高まってきます。

 野田政権が十分な党内議論もなくこのような米国傾斜の動きを見せているのは、「自衛隊員の倅(せがれ)」を誇りとする野田総理の周辺に、「米国の意向にできる限り沿った自衛隊の活動や我が国の米軍支援を認めて行こう」とする政治家の一団があることは否定できません。このような「自衛隊と米軍との一体運用」論に偏った安全保障政策が、我が国が米国のグローバル戦略に巻き込まれてしまう虞を高めていくことを懸念します。

3、目指すべき日本の安全保障

 私は、我が国のあるべき安全保障政策は、国連憲章でも認められている地域的集団安全保障体制の構築を東アジア地域において目指すことであると考えています。その一つの構想が「東アジア共同体」構想です。この「東アジア共同体」構想には、必要があれば米国も参加することを否定するものではありませんが、仮想敵国を前提とする日米同盟の強化・深化ではなく、どの国も仮想敵国とせず、地域の安定と平和を乱す国に対しては他の国皆がそろって対処するという地域的集団安全保障体制を目指すことを目標とすべきと考えます。

 その目標を実現する道のりは険しいかもしれませんが、先ず現在の六か国協議を成功させることから始めて、東アジアの地域的集団安全保障体制を形成していくことが望まれます。また、その形成の過程の中で、民主党核軍縮促進議員連盟が提唱している「北東アジア非核地帯条約」を実現させて、地域の緊張緩和と信頼醸成を図っていくことも重要であると考えます。



 今や、EU(欧州連合)は、その域内各国の間では戦争が起こることは考えられない状況になっていますし、域内各国の軍備もその状況に応じて縮小してきています。東アジア地域において孫崎享氏(元外務省国際情報局長)の主張する複合的相互依存関係(経済、社会、文化、環境、人的交流等多くの分野で切っても切れない関係を築いていく)が形成されていけば、EUと同様の状況が生まれ、地域内の緊張関係が緩和され、軍拡競争に陥ることもなく、延いては、地域住民に大きな負担をもたらしている在日米軍基地の縮小・撤去も夢ではなくなると考えます。

(了)