昨日、小沢一郎・民主党元代表に対する政治資金規正法違反事件の無罪判決が、東京地裁で出されました。政治家が検察審査会制度で強制起訴されたケースとしても、権力の中枢にあった政治家の刑事訴追事件としても、検察の取り調べの在り方を巡る事件としても、色々な意味で注目された事件でした。今日は、改めて、この事件を振り返りながら、今後の課題についても考えてみたいと思います。

1、 無罪判決について

 今回の無罪判決は、「共謀」の立証の不十分さにあったようです。判決は、容疑事実として指摘されていた政治資金収支報告書の秘書による虚偽記載をあっさりと認め、その事実が小沢元代表に「報告・了承」されていたことも認めました。
 しかしながら、元代表が報告を受け、了承をしていたとしても、秘書に対し故意に虚偽記載することを指示した証拠はなく、秘書との間には意思の疎通がなかったとして、「共謀」関係を認めませんでした。


この点で思い出すのは、5,6年前国会で「共謀罪」を審議していた時のことです。「目くばせしただけでも共謀が成立する」との判例が引用されて、共謀罪の危険性が指摘されました。その事件は、暴力団の組長が配下の組員に「ヤッチマエ」という意味で目くばせをして指示したもので、その組長は、共謀関係を認定されて共犯として罪に問われました。


事件の性質も、違法行為が行われた状況も違いますので、同列に論じることはできませんが、一般の人には、「報告・了承」と「共謀」との違いが分かり難いのではないかと思います。
 いずれにしても、私が所属する政党に所属する国会議員が刑事事件で罪を問われていたのが無罪となった訳ですから、党の名誉のためにも、無罪判決を得たこと自体は歓迎すべきものと思います。


2、 道義的責任、政治的責任について


 しかしながら、今回の判決でも、小沢元代表の秘書による虚偽記載の事実は、はっきりと認定されました。昨年9月にも、東京地裁は、元代表の元秘書3人に対し、政治資金規正法違反で執行猶予付きの有罪判決を言い渡しています。そして、その判決の中では、ゼネコンとの間で集金システムを構築していたこと、ダム工事受注に絡み裏献金1億円を受け取っていたことを事実認定しています。


 このように、元秘書3人が一審段階とはいえ有罪判決を受けたことについては、その管理者としての責任は、法的な責任と言うより、道義的責任、政治的責任と言うべきものでしょうが、その責任を逃れることはできないと思います。。また、元秘書が有罪判決を受けた事件については、現在、控訴中であり、裁判所が認定した事実関係について争われていますが、元代表としては、道義的責任、政治的責任を認識したうえで、これらの事実関係について説明責任を果たすことが必要であると考えます。


3、 党員資格停止処分について

 小沢元代表は、本事件で強制起訴されたことを踏まえて、昨年2月に「判決確定まで党員資格停止」処分を受け、現在も、党員資格が停止されたままになっています。今回の無罪判決を受けて、この「党員資格停止」処分をどのようにするかが問われています。


 形式的に言えば「判決確定まで」の処分であり、一審判決が出ただけ(判決は確定していません)で処分を見直すのは、筋違いのようにも思えます。しかし、前にも申し上げたように、「無罪判決」は党としては歓迎すべきもので、これに基づいた行動を早くとることが望まれるとともに、今回の起訴は、政治の世界ではこれまで例のなかった「強制起訴」によって行われている点にも配意する必要があると思います。元々、検察の判断では不起訴になっていたものが、検察審査会の判断で起訴されたという、ある意味では異例の起訴でした。資格停止処分を解除することについて説明ができる状況であると思います。


 ただし、本事件については、指定弁護士が控訴しない可能性もあり、もし控訴しなければ「判決確定」となりますので、以上の議論は、結果的に不要なものになってしまうかもしれません。

4、 検察改革について


 本事件では、「小沢元代表は、有罪か、無罪か」という点が注目されただけでなく、検察審査会の審査に基づく強制起訴の在り方や、検察当局の取り調べの在り方についても、大きな関心を呼びました。

 このうち、検察当局の取り調べの在り方については、従来から、「取り調べの可視化」の問題として議論されてきており、本事件によってその議論が加速されたように思います。私も、野党時代から「取り調べの可視化」については積極的でしたので、法務大臣就任時にも、「捜査当局の取り調べの可視化は、どの範囲のものを、どのように進めていくのか」と良く問われました。

 実は、検察庁では、現在、取り調べの録音・録画の試行を行っており、近いうちにその試行結果を分析・評価したものが検察当局から出されることになります。試行している事件としては、①裁判員制度対象事件(つまり、殺人事件など重大な犯罪事件です。)で身柄拘束下における取調べに係る事件、②知的能力等に起因する一定の事情が認められる被疑者(つまり、捜査官の誘導に乗せられやすい人たちです。)の事件、③検察官による独自捜査事件等(典型的には、本事件のように地検の特捜部が直接捜査する事件です。)があります。


 冤罪事件が起こっているのは、検察の捜査よりは、むしろ警察における捜査に問題があるケースが多かったと思います。国家公安員会でも、国家公安委員会委員長主催の研究会で検討していますが、検察庁よりも「取り調べの可視化」に消極的です。国民的議論を行いつつも、政治主導による取り組みも必要であると感じています