民主党代表選挙の争点2


  18日付の「今日の一言」で始めた「民主党代表選挙の争点」の第2弾です。本日(24日)は、第1弾の最後にご紹介した争点のうち、「政策面での争点の第三:原発を含むエネルギー政策をどうするのか」と「政策面での争点の第四:(今回の代表選挙ではあまり注目をされてはいませんが、)日本の安全保障政策をどのように構築するのか」について考えてみたいと思います。なお、今回は、本日行われた「社会保障と財源を考える会」が開催した「政策による代表選をめざす意見交換会」で私が提出した政策提言を基にお話しします。


1、原発を含むエネルギー政策


  マスコミ報道によりますと、代表選挙に出馬を表明したり、出馬に意欲を見せていたりする議員の中では、「原発によるエネルギーの安定供給は不可欠」(海江田議員)、「40年間は原発に依存しながら代替エネルギーを求める」(前原議員)といった意見があります。しかしながら、原発の抱える問題を考えたとき、「多少の負担はあっても、原発依存から脱却したい」と思っている国民は、多いと思います。そんな気持ちがあるうちに、「脱原発」への道筋をつけることが大切であり、「脱原発」に伴う再生可能エネルギー設備投資の促進が現在のデフレギャップを縮小する有効な経済政策にもなると思います。


 以下は、上記の意見交換会で提出した私の政策提言をご紹介します。


(1) 原発政策の経緯と民主党の対応


・  これまで進められてきた原子力発電は、原子力の平和利用とエネルギー安定供給の両面から魅力あるものとして進められてきました。しかしながら、その安全性や放射性廃棄物の処理について国民の納得が十分に得られなかったことから、原発立地交付金などの利益誘導措置とともに進めざるを得ない状況にありました。これにより、立地する地域の中において、「推進派」と「反対派」の拭い難い対立を生むなど、地域住民の尊厳を傷つける事態まで生じさせています。
・  このような状況から、民主党は、その結党時の「1996年総選挙政策:未来との契約」では、原子力発電を「過渡的エネルギー」として位置づけて、その技術的安定性、安全性、環境的合理性、経済性、代替性などを総合的に評価することを約束し、2000年総選挙時以来、原子力の安全性をチェックする機関として「独立性の高い組織として、国家行政組織法第3条に基づく『原子力安全規制委員会(仮称)』を設置することを提言してきていると共に、2009年総選挙マニフェストでは「原子力利用について着実に取り組む」との姿勢を示していました。
・  しかしながら、政権交代後の民主党政権は、「原子力安全規制委員会」の設置に向けて具体的行動をとることもなく、2010年6月のエネルギー基本計画第2次改定では、民主党内で十分な議論もないままに、「原子力発電を積極的に推進する」として原子力発電所の新増設、核燃サイクルの実施などを含む基本計画を閣議決定しました。そのような経緯を経て、本年3月11日、東日本大震災が発生し、福島第1原発の事故が引き起こされたのです。この福島第1原発の事故は、周辺住民への大きな被害をもたらしただけでなく、国民全体に大きな恐怖を与えると共に、国民経済にも大きな悪影響を与えています。


(2) 脱原発について


・  原子力発電の在り方については、政府の「エネルギー・環境会議」が7月29日に取りまとめた「中間的な整理」では、「原子力発電については、…依存度を下げていく。」が、今後3年の対応として「原発への依存度低減について、国民的議論を深め、対応を決定する。」としています。このことは、原発の将来の取扱いの決定を先送りしたと言わざるを得ないものです。
・  原子力発電は、一旦事故が起これば無限大の被害が発生する可能性があり、かつ、放射性廃棄物の最終処理が確立できていない、或いは仮に確立できたとしても、1万年から10万年の管理が必要とされる(今から1万年前、10万年前を想起してください。とても、できることではないと思います。)ものであることから、技術的、経済的に可能な範囲でできる限り早期に「脱原発」を実現するべきであると考えます。このことは、原発による被害を受ける可能性が高いのは、原子力発電の利益を享受している現世代の人々よりも、事故のリスクに晒され、放射性廃棄物を大量に抱え込むこととなる「未来の世代」の人々です。現世代の国民が膨大な借金を積み上げて利益を享受し、その借金返済の負担を未来の世代が負う構図に似ています。今意思決定することのできない「未来の世代」に膨大な付けを回すべきではない、と考えます。

(3) 脱原発と再生可能エネルギーの推進について


・  大事なことは、大きな目標を立て、その大目標達成のための分野別目標を立て、その工程表を作ることです。そして、その目標・工程表を実施するための政策手段を用意し、その政策手段に必要な試験・研究・開発、初期投資などに必要な財源を覚悟することです。
・  大きな目標は、核燃サイクルと高速増殖炉を直ちに中止すると共に、技術的、経済的に可能な範囲でできる限り早期に(できれば10年以内を目標に)「脱原発」を実現することです。また、その間でも、30年廃炉を基準とするなど「原子力安全規制委員会(仮称)」(後述)によって新たに設けられる厳しい安全基準を基に安全管理を行っていきます。「脱原発」の期間については、以下に述べる政策誘導によって、できる限り短縮していく努力をしていきます。
・ 核燃サイクルと高速増殖炉の中止に関連して、使用済み燃料管理は、乾式中間貯蔵を基本として対策することによって、当面の運転に支障のない措置を取ります。
・  当面ピーク時の需給が厳しい電力は、効果的なピークカットと省エネ投資、自家発電の活用、天然ガスコジェネ・天然ガスコンバインドサイクル発電の増設、定置利用型蓄電池等の蓄電池の開発・普及等によって対応することとします。
・ その上で、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度を適切に活用することによって、再生可能エネルギーが原子力発電エネルギーに代替していくことを促進し、2020年度には総発電電力量の20%超(発電量固定ベース)を目指します。再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度は、必要な財源調達そのものが仕組み(電力の買取価格)の中に組み込まれたものですが、さらに脱原発を促進していくために、公的資金を追加投入(設備投資への低利融資等)していきます。
・  再生可能エネルギー全量固定価格買取制度は、その活用により、我が国のデフレ経済を脱却させる有益的かつ効果的な手段(10年間累積で、実質設備投資額25兆円規模、就業誘発数280万人規模)ともなります。かつてのマスキー法による排ガス規制が、大気の浄化という便益を人類にもたらすと共に、排ガス規制クリア車両の販売による景気拡大に効果があったことと似たような状況が期待できるのです。 
・  発電分野以外のエネルギー分野においても、温熱分野と燃料分野の政策を拡充します。例えば、温熱分野では太陽熱利用や地中熱ヒートポンプ、燃料分野では藻類について、「オーランチオキトリウム」と「ボトリオコッカス」など実用化が期待されるオイル生産技術開発などについても、積極的な支援を行っていくべきです。
・  国民合意によって一旦目標を掲げれば、その目標達成のために国民的努力が行われるのは、我が国の強みです。このことは、地デジ放送への完全移行の課題を、先進国の中でも当初の目標通りに達成した唯一の国であることでも立証されています。


(4) 脱原発達成までの間及び達成後の安全管理等

・ 原子力発電の安全管理、原子炉の廃炉管理などについては、独立性(政治的独立性、技術的独立性)の高い国家行政組織法第3条に基づく「原子力安全規制委員会」(仮称)を設置します。この「原子力安全規制委員会」は、独立性・専門性・公平性を確立できる体制を構築した上で、これに適合する委員長および委員を国会同意により任命するとともに一定の身分保障を与えます(政治的独立性)。また、委員会の事務局は、技術的独立性(独自に高い専門性を持つ)を確保するための専門家をノーリターンルールにより採用するとともに、行政職については独自採用の職員や環境省プロパーの職員を中心に構成します。ただし、「原子力安全規制委員会」を設置するためには委員の適切な選抜を必要とするため、新組織の設置の緊急性に鑑み、当面、政府提案の「原子力安全庁(仮称)」でスタートし、できる限り早期に「原子力安全規制委員会」へと移行させていきます。
・ 政府、電力会社等関係者が一丸となって、脱原発が完了した場合でも引き続き問題となる放射性廃棄物の管理・中間貯蔵、最終処理方法を確立します。
・ 原発事故に関する情報も含め、原子力発電に関する情報公開を徹底します。』


2、日本の安全保障


 今までのところ、代表選挙で大きな争点とはなっていませんが、民主党政権になってから昨年12月に「防衛計画の大綱」の見直しが行われています。その際、「集団的自衛権の一部行使容認」、「武器輸出3原則の見直し」、「自衛隊海外派遣の恒久法化」など、これまでの民主党の公約やマニフェストとは異なる意見が、党の安全保障担当部局から示されていました。その意味では、民主党代表選挙においても、「日本の安全保障の在り方」についてもしっかり政策論争すべきだと思います。


 以下、同じく上記の意見交換会で提出した私の政策提言をご紹介します。


(1)我が国の安全保障政策の基本方針について


・  民主党は、政権交代以前より我が国の外交・安全保障政策の基本方針について活発な議論を行い、その過程で、安全保障政策の基本方針について、「自衛権は、・・・専守防衛の原則に基づき、わが国の平和と安全を直接的に脅かす急迫不正の侵害を受けた場合に限って、憲法第9条に則り、行使する。それ以外では武力を行使しない。」(2006年「政権政策の基本方針(政策マグナカルタ)」)との考えを、そして、外交政策の基本姿勢について、「『東アジア共同体』の実現をめざし、中国・韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力をあげます。」(2010年参議院選挙マニフェスト)との考えを示してきました。
・ 今我が国に求められている安全保障政策は、「対立構造型の安全保障」からの脱却を図るとともに、マニフェストで示した考え方を踏まえ、将来の方向性として、米国を含めた東アジアにおける地域的集団安全保障体制の構築を目指す外交・安全保障政策であると考えます。そして、我が国の安全保障政策については、「日本国憲法が掲げる平和主義の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、文民統制を確保するとともに、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備する」(2004年「防衛計画の大綱」)との方針を基本的に引き続き堅持していくこととすべきであり、1996年民主党結党時に公約された「安全保障基本法」を制定する中で、これらの事項を法定化すべきです。


(2)我が国の防衛力のあり方について


・ 昨年12月の「防衛計画の大綱」の見直しでは、中国海軍の動きの活発化等を理由に、南西方面の島嶼防衛を主眼に「動的抑止力」の向上を目指すべきとの議論の下、これまでの特定された地域への部隊配置による「静的抑止力」から、平素からのパトロールや統合実働演習などによる牽制、危機の際の即応・機動力に重点を置いた「動的抑止力」への転換が図られました。
・ しかしながら、平素からのパトロールなどは、警察活動として海上保安庁が中心となって行うべきものであり、むしろ、これらの措置は、近隣諸国との緊張関係を高めることに繋がり、結果として日本の安全保障を危ぶませるものになると考えます。具体的には、自衛隊による「牽制」を含む政策に転換することは、「専守防衛」の理念からはみ出し、憲法第9条が禁じる「武力による威嚇」に繋がるものであること、また、自衛権発動の三要件(急迫性、必要性、均衡性)が守られない事態の安易な発生に結びつくことを深く懸念します。
・ 最近の東アジア情勢を見るとき、我が国を巡る安全保障環境が憂慮すべき状況にあると認められますし、更に、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応する能力を持つことは当然重要なことと考えますが、基本的に、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基盤的防衛力構想」の枠内で、我が国防衛力の即応性、機動性、柔軟性および多目的性の向上を図ることによって対応すべきであるとともに、事態回避や事態修復のために外交的努力を尽くすことが先決であると考えます。


(3)武器輸出三原則について


・ 「最先端技術へのアクセスを確保し我が国の防衛産業技術基盤を維持するために、防衛装備品をめぐる国際協調に参画することは喫緊の課題である。」として、武器輸出三原則見直しへの議論が進んでいる。また、武器輸出三原則の下では、「装備品をめぐる閉鎖的な現状が調達コストを押し上げており、納税者に対し著しく説得力を欠くものとなっている。」との指摘も行われている。
・ しかしながら、非核三原則と並び武器輸出三原則を国是とすることによって、我が国が軍備管理・軍縮の分野において国際社会で発言力・影響力を発揮してきた事実を考えると、一面的な分析・認識から武器輸出三原則の見直しを図ることは外交上の損失に繋がると考え深く憂慮します。
・ むしろ、問われるべきは、海外からの完成品調達、ライセンス生産、国内開発生産等をどのように組み合わせ、いかに「節度ある防衛力整備」を行っていくか、です。また、「納税者の視点」を挙げるのであれば、まず、重厚長大な自衛隊の装備体系そのものについての抜本的検討が行われるべきであり、加えて、装備品の調達費を抑制・削減するための目標数値が設定されなければ説得力がない、と考えます。
・ 参議院選挙におけるマニフェストにおいても、「防衛生産技術基盤の維持・活性化を図るため、平和国家としての基本理念を前提としつつ、防衛装備品の民間転用を推進します。」としか言及されていません。武器輸出三原則の見直しが、国際共同開発・生産への参加を促進することを目的として行われるとすれば、それは、国民にとって許容しがたい著しい背信行為であると考えます。
・ 武器輸出三原則をめぐる現行の制度が基本的に引き続き維持されることを強く求めます。


(4)国際平和協力活動への取り組みについて


・ 今後の我が国の国際平和協力活動については、自衛隊の海外派遣に係る課題として、国政の中で最も慎重な議論を要する分野であり、「包括法(一般法)制定ありき」の拙速な議論に反対です。まず、我が国が国際社会においてどのような役割を果たすべきか、それが国際社会においてどのように評価されることになるか等の慎重な議論を行った上で、必要性を踏まえPKO法の改正等を慎重に検討すべきであると考えます。自衛隊の、海外派遣の要件を一般的に緩和しようとする考え方には強く反対します。


(5) 米国そしてアジアとの係わり


(ア) 日米安全保障条約は、現下の東アジアを巡る国際情勢においては維持することが必要であると考えますが、本来の目的(日本の安全、極東地域の平和と安定)に沿った運用を行うことを再確認する必要があります。1996年の民主党結党時には、「『常時駐留なき安保』も選択肢の一つとして、将来、軍装備の事前集積制度(POMCUS)を活用して大規模な米軍配備を必要としない体勢への転換をすすめる」とも提言しています。その中で、米軍再編は、国民的視点に立って、その必要性と妥当性を改めて再検証するべきです。特に、喫緊の課題として普天間基地は辺野古への移設をすることなく閉鎖することを目指すと共に、沖縄の基地負担の軽減を目指します。
(イ) 6者協議の枠組みを「北東アジア安全保障機構」へ発展させていくと共に、「北東アジア非核兵器地帯条約」の締結に向けて努力します。長期的には「東アジア共同体」の形成を目指し、米国の参加も認容する東アジアにおける地域的集団安全保障体制を築いていくこととします。』