民主党代表選挙の争点

 民主党の役員会は、菅首相の後継首相の衆参両院での指名選挙を今通常国会の会期末である今月31日まで行うこととし、そのため民主党代表選挙を今月28日頃にも行うことで岡田幹事長に一任することを決定しました。国会の状況が不透明な部分もあり、若干の予定変更もあり得るかもしれませんが、近いうちに民主党代表選挙があることは確実でしょう。そこで、何回かに分けて、民主党代表選挙における主な争点について考えてみたいと思います。


 先ず、政策面での争点の第一は、東日本大震災復興のための財源をどう調達するのか、についてです。復興基本方針では、五年間の「集中復興期間」においては、復興のための事業規模は19兆円程度、その財源は第一次・第二次補正予算で手当てされたものを除いて13兆円程度が必要とされています。この財源については、早期の事業着手を可能とするための一時的なつなぎ資金として「復興債」を発行することで異論はありません。


 問題は、その復興債の償還財源をどう調達するのかです。政府が策定した復興基本方針では、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯して負担を分かち合うことを基本とする」とした上で、「基幹税(消費税、法人税、所得税)などを多角的に検討する」としています。


 しかしながら、「次世代への負担先送り」禁止論については、疑問があります。復興事業は、現世代だけでなく次世代にも便益をもたらすものですから、いわゆる「建設国債」と同様の取扱い(60年償還ルールの適用)を認めてもよいと考えます。「償還財源の当てのない国債の発行は、国債市場における国債の信認を失わせる」と主張する人がいますが、それは、国の財政全体の問題であり、かつ、国債管理政策の問題です。ルールに則って償還されることを示し、それを守っていくことが大事です。


 「基幹税での検討」については、以上の前提に立って、どれだけの増税がどれだけの間必要かが精査される必要がある他、他にどのような財源が考えられるのかを鋭意検討すべきです。復興基本方針でも示されている特別会計の見直しの他、JT株式の更なる売却、郵政改革法成立後の日本郵政株の売却、現在検討されている電波の周波数オークションの実施等、色々な手段が検討されなければなりません。また、これらの手段については、ここ数年間で実施すべきものと言うより、復興債の発行から償還までの期間を考えますと、15年間程度で実施されれば良いということになります。


 政策面での争点の第二は、「社会保障と税の一体改革」における消費税率の引上げを行うのか、行うとすればいつにするのか、についてです。「社会保障と税の一体改革」は、持続可能な社会保障制度や持続可能な財政を確立していくために必要な改革だと思います。その中で、財源をどう確保するのかが重要な課題なのですが、現政権での議論は、消費税率の引上げに重点が置かれ過ぎているように思います。国民負担の在り方を考えるならば、所得税や資産税の累進性の回復による財源調達を優先的に検討すべきだと思います。


 その上に立って、消費税率の引上げが検討されるべきですが、消費税率の引上げに関しては、論点は大きく2つあります。その一つは、消費税の逆進性に対する対策です。この点については、低所得の方々や福祉が必要な人々など逆進性の影響を強く受ける人々には、たとえ増税してもより大きな給付等が回ってくるという仕組みであるならば、問題は少ないと考えられます。事実、この点については、一定の理解が進んでいるようで、党内的にも、国民的にも、あまり問題視されていないように思います。


 もう一つの論点は、消費税率の引上げが経済に与える影響についてです。経済学的には、短期的には当座の景気に対する影響はあるが、中・長期的にはそれほど大きな影響はないという実証研究もあります。民主党の中でも、「影響がある」という立場からは、例えば、「デフレ経済を脱却して安定した経済成長に移るまで、実施すべきではない」などの意見があります。しかしながら、その意見は、「どのようにして、いつ頃までにデフレ経済を脱却するのか」という問題に処方箋を示さなければ、問題の解決につながらないと思います。


 むしろ、「一体改革」の中で示された「段階的な税率の引上げ」方式を取った場合には、「今のうちに高い商品を買っておこう」という駆け込み需要による需要前倒し効果が数年間にわたってなだらかに発生することも考えられます。現在のデフレは、需要が不足していることによって起こっているので、税の面で需要を刺激することが期待できるかもしれません。ただし、その場合、消費税率引上げのを完了した時点での反動減にどう対応するのかといった経済政策が重要です。これから、この経済政策も合わせた「社会保障と税と経済政策の一体改革」を一体的に議論する必要があると思います。


 以下の「争点」については、次回以降の「今日の一言」に考察してみようと思います。


 政策面での争点の第三:原発を含むエネルギー政策をどうするのか
 政策面での争点の第四:(今回の代表選挙ではあまり注目をされてはいませんが、)日本の安全保障政策をどのように構築するのか
 政権運営面での争点の第一:民主党の党内運営をどのようにしていくのか(民主党の衆院選マニフェストをどうするのか(見直すのか否か)を含む。)
 政権運営面での争点の第二:参議院での「ねじれ」に如何に対処していくのか