放送オールデジタルの時代


 いよいよ、明日(24日)、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県を除き、テレビ放送の完全デジタル化が完了します。2001年の電波法改正で、デジタル化へ10年間の移行期限が定められた後、政府(総務省)、放送事業者、メーカー、視聴者などの関係者が一丸となって進めてきた大事業が、一部の地域を除き、完了するのです。私は、総務省の副大臣として、この大事業の最後の10か月間を担当してきましたが、これまで歴代の大臣、副大臣等のご努力に敬意を表します。
(なお、上記の被災3県については、6月に成立した特例法に基づいて、来年3月31日に完全デジタル化になる予定です。)


(デジタル化の理由)


 これまで約60年間の歴史を有してきたアナログ放送ですが、テレビ局での設備投資、視聴者のテレビ買換えなど大金をかけてまで、これをデジタル放送に代えていくことについては疑問に思う人がいるかもしれません。先ずは、その理由を説明したいと思います。


 第1は、放送サービスの高度化です。高画質の映像を楽しめ、デジタル化で可能となるデータ放送では様々な情報を入手できます。その中には、例えば、被災地における避難者支援情報があったり、県域単位での地域色豊かな情報があったりします。また、ワンセグ(放送電波の一部を携帯端末等で受信できる仕組み)視聴も可能となり、移動受信時でも乱れない鮮明な映像で視聴できます。


 第2は、周波数の有効利用です。テレビ放送のデジタル化によって、テレビ放送に使用する周波数を35%節約することができます。携帯電話などの急増で周波数利用が逼迫している中で、節約された周波数の有効利用が可能となります。例えば、携帯電話、ITS(高度道路交通システム)、新しいデジタル放送であるマルチメディア放送、警察・消防等のネットワーク強化などに使用することが見込まれています。


 第3は、放送と通信との融合化です。放送も通信も、無線と有線どちらでも行われますが、放送と通信とがデジタル化されることによって、無線では周波数の有効利用、有線ではインターネットの爆発的普及と相まって、放送と通信とが相互に連携し易くなります。このような動きに対応できるよう、今年の電波法の改正では、これまで1つの無線局は放送か通信かどちらかにしか使用できなかったのを、1つの無線局を通信・放送の双方に利用できるようにしています。


(オールデジタルの活用例)


 そこで、皆さんに、(テレビ)放送がオールデジタルになればどんなことが起こるのか、周波数の有効利用や放送と通信との融合化の具体例としてご紹介してみたいと思います。


 先ず、テレビのデジタル化での空き周波数を利用して行われるマルチメディア放送です。テレビのVHF帯であった電波帯域の一部を利用する放送ですが、高い周波数帯域を利用するV・ハイと、低い周波数帯域を利用するV・ローに分けて導入が進んでいます。利用内容としては、ニュース・スポーツなどのリアルタイムな情報提供、音楽・ゲームなどの視聴サービス、電子書籍・電子教材の提供、デジタルでのラジオ放送などのサービスを、リアルタイム型放送や蓄積型放送(夜間に大容量の番組等を送信して受信機に蓄積させ、ユーザーが任意の時間に視聴する)で提供しようとするものです。

 このうち、V・ハイは、全国を放送対象地域として、全国一律の放送で携帯端末等に配信することを予定しています。既に、昨年9月に設備事業者(ハード事業者)としてジャパン・モバイルキャスティング社が決まり、現在、番組事業者(ソフト事業者)の選定作業が行われています。来年春には、東名阪からサービスが開始される予定で、順次、全国にサービスが拡大されていきます。

 一方、V・ローは、まだ制度の在り方について構想段階ですが、研究会報告書では、県域単位の放送として、地域色を有する道路交通情報、災害関連情報などの提供を音声やデータで行うことを提言されています。今年2月に制度枠組みに関する意見募集と参入希望調査が実施されていますが、来月には、参入希望事業者からその事業計画等についてヒアリングを実施する予定となっています。


 次いで、放送とインターネットとの連携の動きです。既に、NHKは、過去に放送した番組を有料でインターネットによって配信する事業を「NHKオンデマンドサービス」として実施しています。更に、東日本大震災後には放送局の災害報道がインターネットでも同時配信されていますし、NHKは今年9月からラジオの同時配信サービスを開始する予定としています。このように、放送とインターネットとの連携が拡大しつつあります。

 しかし、課題もあります。基本的には、NHKが「放送と同時に」インターネットで番組を配信することは、放送法で認められていません。民放の事業者は、NHKがテレビ番組をインターネットを利用して同時配信することに対しては慎重に考えていますが、NHKを含む放送事業者が、これからのオールデジタル時代にインターネットとどう付き合うのかは重要な課題です。既に、米国では、アップルTV、グーグルTV、ネットフリックス、フールーなどが流行っています。我が国での動向が気になるところです。


(地デジ化対応へのお願い)


 以上のような動きのある中で、先ずは、私たちがいつも見ているテレビの地上デジタル化への対応をお願いしたいと思います。地デジ化への対応については、特に、高齢者世帯などを中心にして取り残されている可能性があると指摘されています。現在、電話相談を受けるために、「地デジ・コールセンター」(電話0570-07-0101)に1200台余の電話で24時間受け付けをすると共に、全国約1600ヶ所の「地デジ臨時相談コーナー」を設置しています。地デジ対応がまだの人や、どうしたらよいか分からない人などは、早めに相談をしてみて下さい。