衆議院選挙改革の行方


 ここ2週間(7日、14日)にわたって、民主党・政治改革推進本部の総会において、衆議院の選挙制度の改革問題が議論されました。岡田・幹事長の発言によれば、現執行部体制の下で改革案がまとまる可能性はほとんどなさそうですが、最高裁判所が現在の選挙制度を「違憲」と判決した以上、このまま放っておくことはできません。今日は、現行制度の何が問題で、その問題を解決するためにどんな案があり得るのか、を考えてみたいと思います。


1、現行制度の問題点


 現行の衆議院選挙制度は、「小選挙区比例代表並立制」と呼ばれ、小選挙区選挙(300議席)とブロック別比例代表選挙(180議席)との両者が合わさってできています。その内、小選挙区選挙については、その各都道府県内の選挙区の数は、「各都道府県にあらかじめ1を配分したうえで(いわゆる1人別枠方式)、これに、残り253議席を人口比例により配分した数を加えた数」とすることが法律で定められています。その結果として、前回(2009年)の総選挙では、選挙区間の投票価値の格差が最大で2,304倍に達し、格差2倍以上の選挙区の数も以前より増加してきていました。


 この点について、最高裁判所大法廷は、今年3月23日に、次の理由で、現行制度は「違憲」であり、できるだけ速やかに立法的措置を講じる必要がある、との判決を出したのです。すなわち、『投票価値の格差を生じさせている「一人別枠方式」は、新しい選挙制度を導入するに当たって人口の少ない県で定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政の安定性、連続性の確保を図る必要があった等の事情があって採られた方策である。しかし、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がなされるようになった現在は、その合理性は失われている。』と言うのです。


2、幾つかの改革案


 そこで、選挙制度をどのように改正するのが良いかが議論されることになったのですが、最高裁判決の要請(一人別枠方式を廃止し、投票格差を2倍以内にする)を満たす案がいろいろ出されていますが、いずれも、なかなかまとまりそうもありません。以下に、最高裁判決の要請を満たすであろう提案で総会で出てきたもの等についてご紹介します。


①小選挙区定数を300とし、日本全国の人口約1,3億人の30分の1である約42,7万人を小選挙区当りの人口(=基準人員数)として各都道府県別に選挙区を割り振る案:この案では、小選挙区のうち、最大の人口となるのが鳥取県(約58,8万人)で議席は1(現行2)に減少するのに対し、最大の人口を誇る東京都は、議席数は31に増加(現行25)に増加する上に1選挙区当りの人口は42,5万人(鳥取県より少ない!)となってしまいます。これは、ちょっと国民感情に反しているように思います。


②現在の「小選挙区比例代表並立制」を廃止して、以前の中選挙区制度に戻す案:この案は、最近、自民党の加藤紘一議員や民主党の渡部恒三議員も主張しているようです。確かに、中選挙区制にして、一つの選挙区の定数を2から4議席とでもすれば、投票格差は2以内に抑えられそうです。しかしながら、選挙による政権交代が実現する制度として、長い政治的抗争を経て実現した現在の制度を、短期間のうちに元に戻すのは容易なことではないように思います。


3、私の提案


 以上の提案とは別に、私は、次のような案を提案したいと思います。既に、民主党・政治改革推進本部には提案済みですが、「小選挙区比例代表並立制」を維持しつつ、最高裁判所の要請である①「一人別枠方式」は廃止する、②投票格差を2倍以内とする、という条件を満たすものです。


 私の案の大前提は、①最少人口県(現在は鳥取県)の議席は、歴史的経緯や人口少数地域への配慮等から、2を維持することと、②各選挙区間の投票価値の格差は、都道府県単位で1,75倍以下とする、ということです。


 この大前提に立って考えますと、小選挙区数300という数の制約があるならば、人口が少ない県の1小選挙区当りの人口(=基準人員数)を少なくし、人口が多くなればなる都道府県ほど基準人員数を段々に多くすることになります【注】。例えば、鳥取の人口を60万人とすると、鳥取県の基準人員数は30万人、東京都など人口の多い都道府県の基準人員数は、その1,75倍の52,5万人となります。この場合、鳥取県の選挙区数は2、東京都は25選挙区(現行と同数)となります。


【注】興味のある方のために、ある県の基準人員数(X)を計算する計算式をご紹介します。
   X=A/2+(Y-A)÷(B-A)×0,75A/2
  (A=最少人口県の人口、B=最大格差1,75倍を適用する人口多数県の中で最も少ない都道府県、Y=当該県の人口)


 人口が鳥取県と東京都の間にある道府県については、人口が増えるにつれて基準人員数も増えていき、その道府県の人口をその基準人員数で割り算した値(商)が議席となります(端数が出る場合には、一定の基準で処理することになります。)。問題は、この計算によって得られた議席の数の合計が必ずしも300議席になるという保証がないことです。東京都のみを投票格差1,75倍の地区とすると合計小選挙区数は330程度になってしまいます。


 そこで、一工夫して、投票格差1,75倍とする都道府県を、東京都だけでなく、人口第2位の神奈川県、第3位の大阪府なども含めていくことが考えられます。それでも、ぴったり300になるわけではありませんが、人口第4位の愛知県まで含めれば、合計小選挙区数はほぼ300になります。「小選挙区比例代表並立制」を前提とすると、「全議席数(480)から小選挙区議席数を控除した議席数を比例代表議席数とする」という割り切りも必要となりそうです。


 今後、どのように議論が展開していくのか注視して戴きたいと思います。