その1からの続き

3、NPT運用検討会議の各種サイド・イヴェント

  (1) 非核地帯に関する市民社会フォーラム(429日午前10時~午後1時、午後3時~午後6時)

平岡秀夫のブログ「至誠通天」-npt1

このフォーラムは朝から始まっていたのですが、私たちは、当日午前11時前にニューヨークに到着したため、午後からのセッションである第3セッション「新しい非核地帯の提案」と第4セッション「非核地帯から核のない世界へ向けて」に参加しました。

3セッションでは、中東、北極、北東アジアの各地域の非核化が討議されましたが、北東アジアについては私が基調報告をしました。「日本、韓国、北朝鮮の3カ国からなる北東アジアの非核化に先立って、日本と韓国の2カ国による非核地帯化はできないか?」といった問いかけもありましたが、結果的には、この市民フォーラムの勧告では、「中東、北東アジア、北極、中欧における非核地帯の設立に向けての可能性を探求することを支持する」との文言を使うこととなりました。

4セッションでは、4人の報告者の一人として、秋葉広島市長も登場し、「ヒロシマ・ナガサキ・プロトコール」の促進の必要性を訴えました。市民フォーラムの勧告としては、NPT参加国に対し「核兵器禁止条約」の交渉をすること、2010NPT運用検討会議で「核兵器禁止条約」の準備プロセスに合意することを要請する内容となりました。

  (2) 2回非核地帯条約締約国会合(430日午前9時~午後5時)

この会合は、各種(南極、南太平洋、中南米、アフリカ、東南アジア、中央アジア)の非核地帯条約に参加している国々と「非核化宣言」をしている国(モンゴル)が正式のメンバーになっており、2005年のメキシコ会合に続いての2回目の会合になっています。

日本は、この会合の正式なメンバー国ではないのですが、オブザーバーとして参加していました。私は、政府の一員ではないので、この会議に参加する資格はなかったのですが、「北東アジアの非核地帯化」を目指す一人としてこの会議を傍聴しました。

上記(1)の市民社会フォーラムが、他の地帯の非核化と並んで「北東アジア」の非核化の可能性探求を支持することを勧告していたことから、その内容がこの締約国会合でも採用されることを期待していましたが、結局、締約国会合の合意文書では、「北東アジアの非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」という表現が使われるに止まっていました。

  (3) ドイツ国連代表部等主催円卓会議(55日午後1時~午後245分)

この円卓会議は、ドイツ国連代表部と独FESが、「核のない世界に向けて:NPT運用検討会議の成功を支援するドイツ議会人」とのテーマで開催したもので、私も、発言者の一人として招かれました。

テーマには「核のない世界」が入っているのですが、彼らの関心は、彼らが関係の深い地域における核兵器の地勢学的戦略上の役割です。特に、NATO(北大西洋条約機構)の新戦略と核兵器の役割低下、欧州からの戦術核兵器の除去、中東の非核地帯化の見通しに関心があることが示されていました。

その中で、私に期待されている役割は、彼らに馴染みの浅い北東アジア地域における非核化の動きを紹介することだったと思います。北朝鮮のこれまでの動向にも触れながら北東アジアの非核化について話をしましたが、残念ながら、他の面会約束があったため、議論に参加する時間が私になく、私にとってはただ説明するだけに終わってしまいました。

  (4) NGO主催ワークショップ「北東アジア非核地帯」(56日午前10時~午後1時)

このワークショップは、日本からはピース・デポ、ピース・ボート等、韓国からはピース・ネットワーク、ノーチラス・アリ等のNGOが共催して行われました。昨年のNPT運用検討会議準備会合サイド・イヴェントでも同内容のワークショップが開催され、それに私が参加して民主党の「北東アジア非核地帯条約案」を紹介したことが、今回の私の参加につながっています。

今回のワークショップの特徴としては、主催者である各NGOからの報告があったことは当然として、①地方自治体の首長の参加、②日韓両国の国会議員の参加があったことだと思います。

地方自治体の首長としては、日本からは、平和市長会議の副会長であり日本非核宣言自治体協議会会長である田上・長崎市長、同協議会副会長である海老根・藤沢市長、竹内・枚方市長らが、ニュージーランドからはハービー・ワイタケレ市長が参加し、それぞれ、被爆(ニュージーランドは核実験での被害)の悲惨さ、核廃絶へ向けての活動状況、北東アジア非核地帯への期待などを述べられました。

日韓両国の国会議員としては、韓国からはイ・ミギョン議員(民主党)がビデオ参加し、日本からは私(平岡)が参加しました。イ議員も私も、これまで日韓両国の国会議員が一緒に取組んできた活動(昨年11月の韓国国会での協議、今年2月の東京での協議と日韓国会議員による共同声明の発表)を紹介し、北東アジア非核地帯の実現にはまだ道のりは遠いが、市民社会、NGO、政府、国会議員などの協力で実現に向けて努力する決意を示しました。

特に、私は、①今回のNPT運用検討会議に向けて、日本政府に北東アジア非核地帯の提案を行うように努力をしてきたが、その努力が実らなかったこと、②非核地帯条約締約国会合の成果文書には入らなかったが、締約国会合に勧告をした市民社会フォーラムでは「北東アジアの非核化の可能性探求を支持すること」が勧告されたこと、③米国クリントン国務長官が、53日の演説で、米国が非核地帯条約の批准(南太平洋、アフリカ)や署名(東南アジア、中央アジア)に向けて努力していくことを表明したこと等を紹介し、②及び③について将来の可能性を感じていることを発言しました。

4、ワシントンに所在する大学やシンクタンクの研究者との面談(53日、於ワシントン)

  (1) L.ゴードン・フレーク「マンスフィールド財団」所長

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フレーク氏は、朝鮮半島問題の専門家ですが、韓国の研究者の勧めでお会いすることとなり、今回が初めての面談となりました。

新たに韓国の哨戒艦の沈没事件が発生した後の6者協議の再開の可能性、6者協議の中での5者の調整と協力の在り方(特に、拉致問題を抱える日本の対応の在り方)、北東アジア非核地帯の実現の可能性等について、意見交換をしました。

私たちが示した北東アジア非核地帯構想については、「北朝鮮を核保有国と位置付けての交渉になる惧れがあるのではないか」との問題意識から、消極的な意見を持っていたようです。

お互いに、中身のある意見交換ができたという印象を持ち、今後の継続的な交流を約束しました。

  

(2) シーラ・スミス米外交問題評議会(CFR)上級研究員

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スミス氏は、日本で暮らしたこともあり、日本語もかなりできる日本通の国際問題研究者です。日本でも一度お会いしたことがあり、今回は2度目の面談となりましたが、当方のことをよく覚えておられました。

スミス氏は、日本のマスコミにも時々登場しており、最近では、普天間問題や北朝鮮の核・ミサイル問題について発言しています。普天間問題が国内で過敏に取り上げられている状況を心配し、「もっと大きな視野で対応する必要があるし、米国も責任を持って一緒に取り組むべきだ」との考えを示していました。

 

 (3) チャールズ・カプチャン「ジョージタウン大学」準教授

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カプチャン氏は、安全保障問題に詳しい日本の元外交官に勧められてお会いすることとした国際問題の研究者で、お会いするのは今回が初めてです。

特に、鳩山新政権とオバマ新政権との関係について「オバマ政権は、鳩山政権が日米関係を新たなものにしようとしていることをもっと歓迎すべきであり、鳩山政権とより健全で成熟した関係を築くべき」としており、今後の日米関係のあるべき姿について意見交換しました。

北朝鮮問題についても、大きな問題(核)よりも先に小さなこと(食糧、燃料など)から信頼関係を築くことが大事だとの基本的考え方を示していました(彼が具体的な方策を考えているわけではありません。)。北東アジア非核地帯条約については、大変強い関心を示してくれ、今後、この問題に詳しい仲間と検討してくれるようです。

  

(4) マイク・モチヅキ「ジョージ・ワシントン大学」準教授

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モチヅキ氏は、日本では有名な日米関係の研究者です。日本語も堪能で、私達との意見交換も、時々難しい単語に英語を使う程度で、ほとんど日本語で行うことができました。

日本に関する話題は極めて豊富で、この日も、日本の「地域主権」の方向性、郵政改革、成長戦略、日米安全保障体制などに話が及びました。最後に、沖縄問題については、今年3月に出版された「日米中トライアングルと沖縄クエスチョン」(共著)を贈呈して頂きました。