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 本日、15日(月)、16日(火)の二日間モスクワで開催された「新しい日露関係・専門家対話(2010)」に出席をして帰国しました。この「専門家対話」は、日本側は「安全保障問題研究会」(会長:袴田茂樹・青学教授)とNPO法人「ユーラシア21研究所」(吹浦忠正・理事長)、ロシア側は「ロシアの世界基金」(ニコノフ理事長)と「ロシアのための統一基金(ニコノフ総裁)が主催して行われていますが、今年で28回目を迎える歴史ある会議です。

 私は、民主党国際局長の藤田幸久・参議院議員のお声がけで、この「専門家対話」に出席させて頂きましたが、日本側からは、袴田会長、吹浦理事長のほか、木村汎・北大名誉教授、佐瀬昌盛・防大名誉教授、兵頭長雄・元ベルギー大使、御厨貴・東大教授、伊奈久喜・日経新聞論説副委員長、清水美和・東京新聞論説副主幹、青木保・前文化庁長官、宮越光寛・衆議院議員(自民党)などのロシア、政治、経済、文化などの専門家が出席しました。

 ロシア側も錚々たるメンバーが数多く参加していたのですが、基調報告を行ったのは、モロトフ・元外務大臣の孫であるニコノフ理事長・総裁のほか、コジョキン・元ロシア戦略研究所長、ディンキン・ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所所長、ロマネンコ・露日協会会長等です。

 専門家対話では、露日の主催団体を代表して、ニコノフ理事長と袴田会長の挨拶、続いて河野雅治・駐ロシア日本国大使の挨拶の後、、今回のテーマとなった①日露の国内政治情勢における新たな側面と両国間関係への影響(日本側報告者:御厨教授)、②中国の台頭と日露関係(同:清水副主幹)、③経済金融危機と現代社会(同:伊奈副委員長)、④日露関係における文化の役割(同:青木元長官)について、2日間にわたって議論を行いました。

 興味ある議論が行われ、私も各テーマに関して積極的に発言したのですが、ちょっと専門的にもなり過ぎますので、今日は、ロシアの現状や日露関係の状況が良く判る2人の挨拶(ニコノフ理事長、河野大使)をご紹介したいと思います。

 【ニコノフ理事長】

 「この一年、米国が発端となった金融危機でロシアも苦しんだ。ロシアは暴落した金融商品を余り持っていなかったので影響は少ないと考えられていたが、その評価は間違っており、先進国のみならず、途上国やロシアも悩まされた。しかし、その危機によって、世界的な力のバランスに変化があった。欧州ではギリシャやスペインの危機が深刻となり、逆に、中国、インドやロシアの役割が高まった。

 「危機」で名前を挙げるべき人は、先ず鳩山総理である。日本の民主党政権の登場には、危機が影響したと思う。あれ程までに日本の国の債務が大きくなければ、自民党政権は終わらなかったと思う。鳩山政権での構図も、政治家主導の政治が行われつつあるし、外需から内需に重点を置く政策が採られつつある。日本の国のあり方が変わりつつあるのか教えて欲しい。日本の政党を含め政治体制がどう変わるのかも教えて欲しい。

 もう1人の「危機」で名前を挙げるべき人は、オバマ米国大統領である。最もリベラルな人であるが、最も苦労している人である。巨大な債務と二つの戦争を抱えて外交・内政政策に十分な力を注げないからだ。今年2月の「外交ドクトリン」では、ゲーツ国防長官の主導の下で冷戦後初めて財政事情から軍事費が削減されたし、医療保険改革も更なる限界を迎えそうである。

 しかし、多くのリセットがある。70年代のキッシンジャーによるソ連包囲網を作る政策と類似した政策の下で世界的なライバルと接近していていたことを変えようとしている。NATO(北大西洋安全保障機構)拡大によるロシア包囲を諦め、ポーランドやチェコへのMD(ミサイル防衛)の配備も諦め、米ロ間のSTART(戦略核兵器削減)条約も大きく前進しようとしている。重要なのは、軍縮・軍事管理を強化できるチャンスが出てきていることだ。

 米・日関係でも多くの面白い点がある。普天間基地移設の問題や、密約(特に、核の持込み密約)の問題(日本の非核3原則と抵触する虞がある)がある。米国にとっては、北東アジアでは日本は重要な戦略的なパートナーであるが、ロシアと米国の関係が接近してくれば、米日関係にも影響が出てくるであろう。

 中国は、チャンスをうまく利用できている。米国に対する大債権国になり、世界の外貨準備の半分を保有している。世界的に積極的な投資や貿易活動を行い、国内では60億ドルの景気対策を行い、全世界的にも政治、経済の面で大きな役割を担ってきている。軍事予算の伸び率が久し振りにGDPの伸びを下回ったが、これは、一応軍備が整ってきたことを意味するのかもしれない。

 露日関係にも大きな変化が目立っている。日本の政権交代で対ロシア政策にリセットの期待があったが、その兆しはまだない。期待がある一つは、経済関係である。日露の貿易関係では、サハリン・プロジェクトでのLNG(液化天然ガス)工場建設によって、日本のタンカーで液化ガスを運搬する。投資では、日本の業界がロシアの大規模工場に新たな投資を行い、日本のメーカーにも恩恵のある自動車に対する援助プログラムも作成された。

 今回の我々の「対話」が、信頼関係に基づいた対話となることを期待する。」

 【河野駐露大使】

 1年前に赴任したが、1年前は、世界中が経済危機にあり、ロシアも危機だった。そんな中で、サンクトペテルブルグでの日産工場開設では悲壮感があり、過去5年で5倍になっていた日露貿易は昨年半減したが、日本の企業は、忍耐強く、将来を見越して頑張って活動し、この1年間では若干の改善もした。これからも種はある。コマツ新工場や横浜ゴムは経済特区で、ユニクロは、中国物資の移入手続が遅れているが、モスクワで開設が予定されている。

 クレムリンの友人の話であるが、昨年は「この経済危機を何とか乗り越えたい。8年ぶりの財政赤字の中で、年金対策に財政支出が必要だ。」と言っていた。それが、今年は「ロシア経済の近代化の年だ。」、数日前は「近代化も重要だが、イノベーションが大事だ。」と言うようになったように、新しい局面が次々と生まれている。

 文化・人的交流では、この1年間は、シンボリックな面で進んでいる。昨年末は、日本の野口飛行士がロシア飛行船で宇宙に行ったし、昨年9月には、50年の交流を経て日本のバレー団がボリショイ・バレー団と一緒に踊った。今年は、バンクーバー・オリンピックで日本の女性がロシア国籍でフィギア・スケート男女ペアで出場したし、数日前は、柔道の山下選手がサンクトペテルブルグで柔道の指南を行った。

 鳩山新政権では、日露の政治対話が進んでいる。鳩山総理とメドベーチェフ大統領の会談は増えており、タンデム体制(メドベーチェフ大統領とプーチン首相の2頭体制)は強固であるが、ナショナリズムの傾向が強まっていることを心配している。両国間の最大の関心事項は、平和条約と領土問題であるが、具体的な進展がない。これらの問題も含め、核セキュリティー・サミット、G20などをどのように活用するのかも、今回の「対話」で議論して欲しい。

 鳩山総理・メドベーチェフ大統領間では、政治と経済は「車の両輪」であることで合意をしたが、「車は四輪」であって、政治と経済に加えて、文化と国際社会での協力(中国、APECなど)についても、今回の「対話」で議論して欲しい。」



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