明日韓国国会内で開催される「朝鮮半島の非核化と北東アジア非核地帯のための日韓国際会議」に出席するために、本日、韓国に向けて出発します。この国際会議は、日韓両国の国会議員とNGO(日本のピースデポ、韓国の平和ネットワーク等)が参加して行われます。韓国の国会議員はイ・ミギョン氏(民主党)、チョ・スンス氏(進歩新党)等であり、日本からは、民主党核軍縮促進議員連盟の事務局長である私が出席します。

 会議の様子は、いずれご報告したいと思いますが、私は、この国際会議で「冒頭挨拶」と「パネルディスカッションでの提言」を行う予定となっています。そこで、今日は、これらの挨拶等を合わせた「私が今回の韓国との国際会議で述べたいこと」を、以下ご紹介したいと思います。

『北東アジアの非核化を目指して』
 

(始めに)


 私は、日本国の衆議院議員・平岡秀夫と申します。現在、PNND日本のメンバーであると共に、今年8月末の総選挙で政権与党となりました民主党の核軍縮促進議員連盟の事務局長を務めています。本日、韓国国会においてこのような機会にお話をする機会を戴きましたことを心から光栄に存じます。


 さて、本題に入ります前に、私と原爆との出会いを少しだけお話したいと思います。


 私は、原爆が初めて人類に向けて投下されたヒロシマから約40キロメートル離れた岩国市という町で、1954年に生まれ育ちました。私が、原爆の恐怖をハッキリと認識したのは、私が小学校6年生の時に広島の平和公園に遠足で行ったときのことです。その際、広島平和公園の中にある「原爆資料館」を訪問し、その中にあった展示物や写真を見て、子供心に大変なショックを受けました。写真や展示物で見たものは、まるで地獄そのもので、その夜は、怖くて怖くて眠れなかったこと今でも鮮明に覚えています。


私が成人して分ったことですが、私の父親は、原爆投下当時、陸軍の兵器部隊の下士官として爆心地から5キロメートル離れた町に駐屯しており、直接被爆はしませんでしたが、被爆者救済のための活動を行ったそうです。戦後、父親は、被爆者手帳をもらいましたが、被爆者に対する偏見や社会的差別の問題もあったためか、間接被爆の体験も語らず、被爆者手帳を持っていることを子供にも教えず、原爆のことは語りたくなかった様子です。


今年で86歳になった私の父親も含めて、被爆者の高齢化が進んでいますが、現在の日本において、ガン、白血病、白内障、肝硬変、狭心症等に罹った人達に対する原爆症認定基準の緩和の問題、被爆2世・3世に対する原爆放射線の影響に関する実態調査や原爆症関連疾患の治療補助の問題などが存在しています。

 このように、核兵器は、それが投下された直後の被害だけでなく、その後何十年もの間、無垢の人々を苦しめているのです。人道的にも「使ってはいけない兵器」です。様々な危機を乗り越えて近代社会を作り上げてきた人類は、自らの手でこの世に誕生させた「悪魔の兵器・核兵器」を自らの手でこの世から葬り去る責任を有していると思います。


(世界的な核軍縮に向けての機運)


 本題に入ります。はっきり言って、この10年間は、核不拡散・核軍縮に関しては、「失われた10年」であったと思います。2000年のNPT再検討会議では、核不拡散・軍縮に向けて意欲的な内容を含む「最終文書」がコンセンサス採択され、大きな進展がありました。

 しかしながら、その後、米国では、ブッシュ政権がCTBT批准を拒み、国際的にも、01年の米国での同時多発テロ、02年のイランによるIAEA未申告ウラン濃縮実験の発覚、03年の北朝鮮によるNPT脱退宣言などがありました。このため、05年のNPT再検討会議は、散々な結果でした。「2000年NPT
再検討会議の最終文書よりも後退した内容の最終文書になるくらいなら、無い方がましだ。」という結果に終わったのです。


その後も、06年に北朝鮮は地下核実験を行ったことを発表し、08年にはインドの核保有を助長することとなる米・印原子力協力協定が調印され、今年6月には北朝鮮は再び地下核実験を行いました。


 しかし、このような状況の中にありながら、改めて、世界のトップリーダーから核不拡散・核軍縮に向けての意欲が示され、核不拡散・核軍縮の機運が高まりつつあります。その最大のものは、今年1月に大統領に就任したオバマ大統領の4月のプラハでの演説「核なき世界」ですが、韓国出身のパン・ギブン国連事務総長の昨年10月の国連シンポジウムでの演説「国連、そして核兵器のない世界における安全保障」や、我田引水かもしれませんが、今年9月の鳩山由紀夫首相による国連安保理首脳会合での演説です。


NPT再検討会議に向けて)


 世界的な核不拡散・核軍縮の機運の高まりを現実の成果に結び付けていくのが、来年5月にニューヨークで開催される2010年NPT再検討会議です。既に、この会議に向けて色々な動きが始まっていますが、その中の一つに、日本の福田首相(当時)と豪州のラッド首相の提案で発足したICNND(核不拡散・核軍縮に関する国際委員会)の報告書作成があります。


 ICNNDは、今年10月の広島会合を最後の国際的会合とし、現在、共同議長であるエバンス・元豪州外相と川口・元日本外相の手によって、「核の脅威を消滅させるための包括的行動計画」と題する報告書を作成中であり、来月のラッド首相の訪日の際にも、日・豪両国首相に対して報告書が提出されるかもしれません。


 この報告書に対しては「内容的には、まだまだ不十分である」との批判も聞こえてきますが、オバマ大統領の演説の中にあった「おそらく、私が生きている間には(核廃絶の達成は)できないだろう」との言葉が正しいものとならないように、少なくとも報告書に示された具体策の実現を目指して、我々も努力していかなければならないと考えます。


(北東アジアの非核化に向けて)


 このように私たちが成功を期待する来年のNPT再検討会議のアジェンダにも、「非核地帯」が入っています。パン国連事務総長の昨年10月の国連シンポジウムでの演説の中でも、非核地帯の重要性について触れています。しかしながら、残念なことに、北東アジア(朝鮮半島・日本列島)の非核化について具体的に触れてはいません。

 新政権の誕生した日本でも、新政権の中心となっている民主党が、マニフェスト(政権公約)に「北東アジアの非核化を目指す」との政策を示しましたが、鳩山首相の国連での演説や国会での所信表明演説でも触れられることはありませんでした。


 しかし、私たちは、世界的な核不拡散・核軍縮の機運が高まっているこの機会を決して逃してはならないと思います。私たち、民主党核軍縮促進議員連盟は、昨年の長崎原爆の日の前夜、88日に「北東アジア非核地帯条約案」を長崎の地で発表し、今年5月のニューヨークでのNPT再検討会議準備会合でのサイド・イベントの中で国際的にも紹介いたしました。


本議員連盟の当時の会長は、鳩山新政権で外務大臣になった岡田克也氏です。岡田氏は、本年6月の民主党代表選挙でも、本条約案の実現を公約に掲げ、それに触発されたもう一人の代表候補・鳩山由紀夫氏つまり現在の総理大臣も、やや抽象的な表現ではありましたが、自らの公約に取り入れていました。


2人とも、北朝鮮の核問題が解決されれば、北東アジア地域の非核化に向けて具体的行動を起こす意図を有していると、私は理解しています。しかし、私は、北朝鮮の核問題を解決していくためにも、日本と韓国がこの構想を積極的に北朝鮮に示していくことが有用であると個人的に考えています。「北朝鮮が核を保有しなくても核で攻撃されることはない」、「北東アジアを非核地帯から相互安全保障の地帯に発展させていく」このようなメッセージを北朝鮮に示していくことが大事だと考えるからです。


 以下、私たちの策定した北東アジア非核地帯条約案の6つの特徴をお示ししたいと思います。なお、本条約案は、本日も参加されている日本のNGO「ピースデポ」の案を大いに参考にさせていただいたものです。

 1の特徴は、条約の枠組みにあります。本条約案は、「スリー・プラス・スリー」と呼ばれる構成に基づいています。条約締約国には、先ず「地帯内国家」としての韓国、北朝鮮、日本の3カ国があり、そして「近隣核兵器国」としての米国、中国、ロシアの3カ国があります。地帯内国家には非核国家としての義務を課し、近隣核兵器国には核兵器国としての義務を課しています。上記関係当事国6カ国が現在の「6
カ国協議」のメンバーと重なっていることは、本条約案の将来実現性を示唆するものと考えています。

 2の特徴は、
地帯内国家に対しては、近隣核兵器国から核兵器による威嚇や攻撃が行われないことについて法的拘束力をもった「消極的安全保証」が与えられているということです。

 3の特徴は、第2の特徴と関連しますが、
「核兵器に依存しない義務」を設けていることにあります。「自国の安全保障政策のすべての側面において、核爆発装置に依存することを完全に排除する。」こととなっていますが、これは、いわゆる「核の傘」政策の放棄を意味します。北東アジア非核兵器地帯が成立した時、前述の通り、地帯内国家には「消極的安全保証」が与えられており、核兵器による「核の傘」は無用となります。

 4の特徴は、核兵器を搭載している艦船および航空機の寄港と領海通過に関し、近隣核兵器国に事前協議を義務付けていることにあります。これまでの非核地帯条約では、艦船および航空機の寄港と領海通過に関しては、個別国家の判断に委ねる方式が取られてきました。本条約案によると、「持ち込み禁止」を含む、日本の「非核3
原則」が形骸化されるという批判もありますが、日本が採っている事前協議制度を基に、近隣核兵器国に対し事前協議の義務を課すこととしています。

 5の特徴は、
地帯内国家の領域内にある近隣核兵器国の軍事基地にも本条約が適用されることにあります。韓国と日本に多くの米軍基地が存在することから、本条約の実効性を担保するためには、領域内の外国軍基地への適用は不可欠と考えます。

 6の特徴は、
核軍縮に関する教育についてです。日本は唯一の被爆国であり、北朝鮮と韓国には、広島や長崎での被爆者が今でも多く存命です。この点を考慮し、これまでの非核地帯条約には無い特徴として、核兵器が人間や社会に及ぼす被害の実態を、現在および将来の世代に伝承することを含む核軍縮教育の努力義務が本条約案に付加されております。

(北東アジア非核地帯条約の意義)


 次に、北東アジア非核地帯条約の国際関係における意義について、3点簡単に触れたいと思います。

 
先ず、北東アジア非核化構想の議論そのものが現行の6カ国協議の進展と北朝鮮の核兵器放棄の促進に大きく寄与するものと考えられることです。6カ国協議の参加国が「スリー・プラス・スリー」の構成による非核化構想の関係国と同一であることは偶然ではありません。

 現行の6カ国協議においては5つの作業部会が設けられましたが、そのひとつが、中期的な地域安全保障体制をテーマとする「東北アジアの平和及び安全のメカニズム」作業部会です。北東アジア非核化構想がこの作業部会の絶好の議題になることは言うまでもなく、ひいては6カ国協議の進展に繋がると考えられます。
 
 6カ国協議の最大の目標が北朝鮮の非核化です。しかし、北朝鮮以外の参加国は、「北朝鮮は本当に核を放棄するのか?」といった懸念を持っています。その一方、北朝鮮は日韓が米国の「核の傘」の下にありながらも、自国が非核化を迫られていることに不満を持っていることは否めません。非核地帯構想は、こうした相互不信状態を脱する環境作りに大きく寄与すると考えます。

 
次に、北東アジア非核化構想の議論が地域の軍事的緊張緩和に大きく寄与するという点です。日本の防衛力増強そして日米同盟強化の理由として、北朝鮮そして中国の核を含む軍事力が増強されていることがたびたび挙げられています。東北アジアの非核化が相互信頼の下で実現すれば、いずれ、北東アジア地域における集団安全保障体制の確立に向けての機運も生まれて来ることが期待でき、中国や北朝鮮を理由に軍事力強化を図る必要がなくなります。また、北東アジアにおける米軍の役割も低下するとともにその質も変化(極東地域の安定を米軍に依存する必要がなくなる)することによって、日韓両国における基地問題の解決にも繋がると考えます。

 
最後に、言うまでもなく世界の核兵器廃絶に大きく貢献できるということがあります。北東アジアが非核化されても、米国、ロシア、中国の核保有は変わらない、という議論もあります。しかし、核廃絶の達成の大前提として、核兵器保有国のみならず全ての国が「核兵器を必要としない安全保障政策」に転換することが求められているのです。「核の傘」の名の下、他国保有の核兵器に頼る安全保障政策を取っている日本や韓国が北東アジア非核地帯となることは、世界的な核廃絶機運をさらに高めることになると考えます。



(終わりに)


 最後に、北東アジア非核地帯構想を政治日程に上がらせるために、私たちがどのような取組を行うべきかについて、述べたいと思います。


非核兵器地帯は、外から求められたり、強いられたりして成立するものではありません。当事国自らのイニシャティブによって形成されなければなりません。よって、「地帯内国家」のいずれかから最初の提案がなされることが必要であり、日韓両国政府が共同で非核地帯設立を目指す政治宣言を発することが望ましいと考えます。


そのためには、先ず、日韓両国のNGOや政治家(国会議員)がリードして、日韓両国の市民社会全体が連携することとなり、両国政府が政策として非核地帯構想を追求できる環境を作っていくことが重要と考えます。


本国際会議がこの取組の第一歩となることを祈念し、私の提言とさせていただきます。