本日の新聞報道で、民主党の鳩山代表が、新政権の人事の一角として、菅直人・代表代行を新設ポストである「国家戦略相」に内定したことが明らかにされました。「国家戦略相」は、首相官邸に設けられる「国家戦略局」のトップですが、その内閣における具体的な役割は、これから詰められていくべきものがかなりあります。その意味で、今日は、「国家戦略局はどのような役割を果たすべきか」について、私の考え方を述べてみたいと思います。

(既報の国家戦略局)

 そもそも、民主党のマニフェスト(政権政策)に示された「国家戦略局」とは、「官邸機能を強化し、総理直属の『国家戦略局』を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する。」(「政権構想5策」の第3策)とされているだけです。具体的な構想は、それ以上に党によって示されたものは承知していませんが、マスコミ報道においては、次のように紹介されています。

 6日付読売新聞では、「新政権で予算の骨格策定などに当たる首相直属の国家戦略局について、国家戦略相とこれを補佐する国会議員5人と党職員5人の計10人程度による『準備室』としてスタートさせる。準備室が助言を得るため、10人程度の専門家による有識者会議も設ける。秋の臨時国会か来年の通常国会で『国家戦略局』を設置する法案成立を目指し、準備室を『国家戦略局』とする。戦略相は、党政調会長を兼務する。」と報じています。

 13日付の「サンデー毎日」では、「脱官僚政治を目指す鳩山政権にとって、外交など国家の基本方針や予算編成を決める首相直属機関の『国家戦略局』の役割が重要。国家戦略局長となる担当相は政調会長が兼務し、国会議員や民間の有識者、官僚ら約30人のスタッフが配置される。『国家戦略局を短期間でスムーズに立ち上げることができるかが政権の命運を握る、と言っても過言ではない』(政治ジャーナリスト)。」と報じています。

(私の考え方)

 国家戦略局は、「政権構想5原則」に示された原則の中で、特に、第1原則「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」、第2原則「政府と与党を使い分ける二元体制から、内閣の下の政策決定に一元化へ」及び第3原則「各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ」に密接にかかわる組織だと思います。その意味からも、国家戦略相は、党の政調会長を兼務することが前提とされているのだと思います。

 更に、菅・戦略相は、新聞報道によれば、副総理を兼ねるそうです。菅さん個人に着目して副総理なのか、戦略相というポストに着目して副総理なのか、明確ではありませんが、少なくとも、鳩山政権の発足に当たっては、戦略相(国家戦略局)が新政権の目玉ポストであることは間違いありません。そして、そのポストに副総理格の人材を配置することも目玉人事と言えそうです。ならば、新政権での戦略相は、それに応じた役割を担うべきものと思います。

 そこで、戦略相(国家戦略局)の担うべき役割について、もっと具体的に検討してみたいと思います。

 第一は、政権構想5原則に示された「政治家主導」や「官邸主導」に関する役割です。つまり、国家戦略局が「政治家主導」や「官邸主導」の政治を実現するためには、先ず、その前提条件として、そのような政治を行っていくために必要な体制・組織を構築する役割を担う必要があると思います。そして、その中には、公務員に関して、政治家との接触原則、天下りを前提としない再就職の原則等を含む「公務員行為規範」を策定することも含まれると思います。

 第二は、既発表のマニフェストに関する役割です。新政権に対する国民からの評価の中心は、マニフェストに示された各約束項目がどの程度実現されたのかにあると思います。従って、マニフェスト実現の進行管理を行っていくことは、国家戦略局の重要な役割になるべきであると思います。

 ただし、マニフェストにおける各約束項目も、「子ども手当」や「高速道路無料化」のように、具体的中身が比較的決まっているものから、「東アジア共同体の構築」や「後期高齢者医療制度廃止(後の制度設計)」のように、これから具体的中身を詰めていかなければならないやや抽象的なものもありますので、各約束項目に応じて、国家戦略局の役割も違ってくるものと思います。

 例えば、具体的な中身が比較的決まっている約束項目については、その詳細な制度設計は、所管省庁に委ねることもできますが、その財源など他の省庁にも影響が生じる部分は、国家戦略局が関与する必要があります。まさに、その部分が、「各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ」(原則3)であり、その場合の国家戦略局の関与にあり方は、「政治主導で予算の骨格を策定する」(第3策)という位置づけの中で行われることでよさそうです。

 他方、具体的中身をこれから詰めていかなければならない約束項目については、その具体的検討は、関係する数多くの所管省庁(大臣等の政治家が主要な役割を担うことは当然です。)を巻き込みながら、国家戦略局が、タイミングを見ながら戦略的に進めていくべきであると考えます。副総理である戦略相が、総理に代わって、各省庁(各大臣)をリードしていく役割を担うことが期待されます。

 第三は、既発表のマニフェストでは余り触れられていない「戦略」に関する役割です。政権構想第3策では、「官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、・・」とされており、国家戦略局は、既発表のマニフェストにこだわらずに幅広く活動することを当然に想定しているように思えます。正に、「総理直属」の「総理の智恵袋・アイデアマン」と言ってもいいでしょう。

 この場合、国家戦略局の役割は、無限です。「開発・成長戦略」、「エネルギー・環境戦略」、「平和構築戦略」、「セーフティ・ネット構築戦略」、「教育戦略」、「地方再生戦略」など、「・・戦略」と名付けるのに相応しいものは全て対象にして良いように思います。逆に言えば、国家戦略局の役割を上記の第一や第二の役割に限定してしまったのでは、国民に「名前倒れ」の印象を持たれる虞もありそうです。

 以上のような私の考え方は、いささか「大風呂敷」のように思えるかもしれませんし、報道されているように、「国家戦略局は、10人や30人程度のスタッフの組織」では全く不十分な組織のようにも思えます。その点については、まだ未成熟な「戦略」については、戦略相が兼務する政策調査会長の下にある党の政策調査会が調査・研究することとし、ある程度考えがまとまったところで、国家戦略局が担当することとするなどの工夫が必要かもしれません。

 いずれにしても、初めての経験ですので、ある程度、「走りながらの検討」も必要なのではないでしょうか。