本日から、「北朝鮮特定貨物の検査等に関する特別措置法(以下、「貨物検査特措法」と言います。)」案の委員会質疑が始まり、私も本日質疑を行いました。この法案は、先月12日に国連安保理が、5月25日に北朝鮮が実施した核実験に関して決議(第1874号)を採択したことに呼応するものとして、その決議の中で要請された北朝鮮輸出入禁止品目の疑いのある貨物の検査を実施するためのものです。

 なお、この安保理決議は、その主な内容として、北朝鮮が実施した核実験を非難し、北朝鮮に対し更なる核実験や弾道ミサイルの発射を行わないことを要求し、全ての弾道ミサイル計画関連活動の停止と核兵器・既存の核計画の放棄等を決定すると共に、北朝鮮に対する制裁措置として、武器禁輸の強化、決議違反の疑いのある貨物の検査強化、金融資産の移転の抑止、新規援助や貿易関連金融支援の禁止要請を含んでいます。

 本法案では、貨物検査等の活動は、「我が国の警察作用に属するもの」として、海上保安庁と税関が実施するものとされ、自衛隊は、貨物検査等の活動に関して海上保安庁のみでは対応することができない特別な事情がある場合に限って、現行の自衛隊法に基づく海上警備活動等を行うことに限定されています。その意味では、北朝鮮と我が国との武力衝突の虞はないと思われますが、幾つかの問題点があります。

 私が本日質疑のポイントとした主な点は、三つあります。その第一は、海上保安庁等が行うこととされた貨物検査等(貨物検査、貨物提出命令、回航命令など)の国際法上の法的性格は何なのかです。その第二は、貨物検査特措法を踏まえた海上保安庁と自衛隊の活動方針がどうなっているのかです。その第三は、本法案が貨物検査に関する国連や国連加盟国の動向をどれだけ踏まえたものになっているのかです。

 先ず、第一の点については、これまでの政府答弁では「安保理決議に基づく船舶検査活動は、集団安全保障措置の一環である」としていましたが、今回は、「本法案の貨物検査等活動は、我が国の警察権の行使である」と説明されています。実は、そう説明せざるを得ないのは、既に、北朝鮮に関する安保理決議1718号に基づく立入り検査を領海内では実施してきているからだと思います。

 しかしながら、本法案に関して疑問に感じるのは、我が国の法令で違法とされる行為をしているわけでもない「公海上にある外国船舶」に対して何故に我が国の警察権が行使できるのかです。政府は、「旗国の同意」があれば我が国の管轄権や警察権を行使できるとしつつも、その警察権の行使が「国連決議による禁止措置の実効性を担保するため」のものであるから認められるとしています。つまり、貨物検査が「集団安全保障措置の一環」であることも認めているのです。

 政府は、今回の貨物検査等活動を「集団安全保障措置の一環」ではなく「我が国の警察権の行使」であると位置づけることで、「集団安全保障措置の下では武器使用の基準をどのようにすべきか」という問題を避けたのではないかとも思います。そのため、国連決議が「旗国の同意」を前提としない貨物検査を要請するような事態が起こったときにはどうするのか、という課題が残されているように思います。

 第二の点については、貨物検査等特措法に基づく海上保安庁及び自衛隊の活動について、政府は、「我が国の近海を中心に貨物の検査を行うことが想定される」としつつも、「法律上は活動海域を限定していない」としています。また、自衛隊の活動内容についても、「現行自衛隊法による海上警備行動をとる自衛隊は、準用する海上保安庁法第17条の規定に基づいて、貨物検査をすることができる」と説明されています。

 しかし、もしそうであるならば、自衛隊が海上警備行動として海賊対処のためにソマリア沖に派遣されたときのことを思い起こして欲しいと思います。「遠方に海上保安艦を派遣することが難しい」等の理由で自衛艦が派遣されましたが、貨物検査においても、同じようなことが言われる虞があります。疑惑のある船(例えば、ミャンマーに行こうとしていた北朝鮮籍船カンナム号)が遠方にいるので、自衛艦を派遣して貨物検査させようという可能性があります。

 従って、このように遠方で自衛隊が国連決議に基づく貨物検査を行うような場合には、総理大臣の承認を得ての防衛大臣の命令だけでなく、内閣による基本計画の策定や国会の事前承認によってシビリアン・コントロール(文民統制)を働かせることも必要ではないかと考えます。

 第三の点については、今回の国連決議に基づく貨物検査について、関係主要国(米、中、韓、英、仏、独、インドネシアなど)は、その実施のあり方に関して「現在検討中」としています。特に、貨物検査に積極的な米国でも、先日面談した米国のシンクタンクの幹部は、「港での貨物検査には、国連のオブザーバーの立会いをさせることを検討している。」と言っていました。貨物検査の透明性、公正性を確保する意味からも傾聴に値する考えだと思います。

 本来、国際的な協力の下に行われるべき国連決議に基づく貨物検査をどのように実施するのかは、国連や関係国連加盟国と歩調を合わせる必要があると思います。その意味で、今回の法案の中身も、諸外国の動向を踏まえたものにする必要があると共に、運用・実施に当たっても諸外国と協議・協調する仕組みが整備されてしかるべきだと考えます。それらの点が、今回の法案作成において不十分であったように思います。