先日、山口県内のある方から、「自分の住んでいる衆議院議員選挙区内に掲示してあるポスターは、他の選挙区内に掲示してあるポスターと違って、衆議院議員選挙の立候補予定者が大きく載っているが、問題はないのでしょうか。」との問合せを受けました。このポスターは、いわゆる「2連ポスター(二人の弁士の場合)」とか「3連ポスター(3人の弁士の場合)」のことですが、実は、これらのポスターには、作成のルールがあるのです。

 作成のルールは、公職選挙法の第143条(文書図画の掲示)の規定に基づくものです。条文の規定を分り易くお話しますと、「衆議院議員の総選挙では、任期満了の日の6ヶ月前の日又は解散の日の翌日から告示の日までの間(以下、「特定期間」と言います。)は、政党の政治活動用ポスターは掲示しても良いが、立候補予定者の個人の政治活動用ポスターは掲示してはいけない」となっており、「個人の政治活動用ポスターであるのか否か」が問題となります。

 もし、「個人の政治活動用ポスター」を公職選挙法の規定に違反して掲示していると、同法第147条の規定によって、選挙管理委員会から撤去処分が下され、それに従わなかった者は、2年以下の禁固又は50万円以下の罰金に処されます。そこで、「個人の政治活動用ポスターであるのか否か」の認定がどのような基準で行われるかですが、建前としては、ポスターの内容、記載の態様等、個別具体的な事例に則して総合的に行うこととなります。

 しかしそれでは当事者の判断が区々になる虞がありますから、一応、総務省(選挙部)から「解説選挙関係実務判例」という形でその基準が示されています。以下、「政党の演説会告知用ポスター」に関して示された一般的な外形的判断基準についてご紹介します。

 第一に、当該ポスターで紹介された弁士が一人である場合には、最も強い個人性が認められると見られ、弁士を紹介する部分の大きさ如何にかかわらず、「個人用」であると解されることになります。このため、特定期間に掲示される名前入りのポスターは、一人ではなく、二人以上の複数の弁士が載っているポスターとなります。そして、二人以上の弁士についても、その掲載のルールがあります。

 第二に、複数の弁士の掲載のルールですが、「複数の弁士の全ての者を同等に取り扱う必要がある」とされています。つまり、弁士が複数の場合に、弁士のうち特定の者(問題となるのは、立候補予定者です。)を他の者と異なって殊更目立つように特別の取扱い(普通は、掲載面積が広くしてある)をしているときには、その目立たされている者(立候補予定者)についての「個人の政治活動用ポスター」と解されてしまうのです。

 第三に、複数の弁士を同等に取り扱っている場合でも、ポスターに掲載された政党の演説会告知部分を含む政党の記載部分が、各弁士の紹介に関する部分よりも小さくてはいけないとされています。例えば、政党の記載部分がポスター全体の2割で、残りの部分(8割)に、二人の弁士が夫々4割ずつ掲載されている場合には、個人の政治活動用ポスターの共同使用と何ら変わりがないと解されています。

 以上を総合してみると、結局、2連ポスター(二人の弁士)の場合には「3分の1ルール」となり、1枚のポスターの中で、二人の各弁士の紹介部分が夫々3分の1ずつ、政党部分が3分の1の掲載部分を占めることとなります。同様に、3連ポスター(3人の弁士)の場合には「4分の1ルール」となります。

 このルールに反したとして今年3月に問題となったのが、石破茂・農水大臣(衆議院鳥取1区)のポスターです。報道によれば、2連ポスターを石破大臣と舛添・厚生労働大臣とが載る形で作成したのですが、二人がポスターに占める割合が夫々45%位あって、政党部分が10%位しかなく、鳥取県選管委から注意を受けたそうです。鳥取県選管委によれば、問題のポスターにはシールを貼って違反状況を解消したそうです。

 2連ポスターの作成ルール違反の状況が、冒頭の山口県内選挙区にも発生している可能性があります。石破大臣のケースのように、ルールを良く知らなくて起こったことかもしれませんが、違反しているのならば、早急に違反状況の解消に努めるべきと考えます。そうでなければ、同じ選挙区内の他の立候補予定者と不公平なことになってしまうからです。