小沢・民主党代表の在日米軍再編を巡っての最近の発言が波紋を呼んでいます。マスコミでも各社が大きく取上げているほか、麻生首相を含め自民党の有力国会議員も、「防衛に知識のある人ならそういう発言はしない」等と、鬼も首を取ったかのように小沢発言を批判しています。実は、私のところにも、マスコミの幾人かの記者から、「小沢代表の発言に同意できるか」との問合せが来ています。

 小沢代表の発言で批判されている主要部分は、マスコミ報道によれば、「(米海軍の)第7艦隊が今いるから、それで米国の極東におけるプレゼンス(存在)は十分だ。あとは、日本が極東での役割をしっかりと担っていくということで話はつく。」、「日本の安全保障、防衛に関連することは、日本が自分のことなんだから果たしていく、ということだ。」というものです。

 結論的に言えば、報道されている小沢代表の発言については、発言自体の示す方向性(在日米軍の縮小)は、私も同感です。問題は、東アジア地域における安全保障のあり方の将来的目標をどこに置くのかということと、その目標達成までの時間軸をどう考えるかであると思います。この点については、私も、3年前の月刊「世界」06年3月号に寄稿していますので、それを適宜紹介しながら、説明したいと思います。

 その前に、皆さんに是非知っておいて欲しいことがあります。それは、在日米軍基地は、ソ連と中国という強大な軍事力を持っていた国と対峙していた冷戦時代と、冷戦が終焉し具体的な脅威が沖縄県の半分の経済力しかない北朝鮮が中心となっている今とで、その規模がほとんど変わっていないという事実です。その背景には、在日米軍の役割が、「日本を含む極東」から「北東アジアから中東までの地域」への対処に拡大してきていることがあります。

 この点についても、同じく、月刊「世界」06年3月号で、次のように説明しています(分りやすくするために、文章を若干編集し直しています。)。

 「
①その活動範囲が地球面積のほぼ半分を占める米陸軍第1軍団の司令部のキャンプ座間移転については、06年に新設が予定されている自衛隊の「中央即応集団」(自衛隊の海外活動や国内テロ対応を目的とする部隊)の司令部をキャンプ座間に置いて第1軍団司令部と連携させることとしている。

 ②
横田基地を拠点とする米国第5空軍司令部の残留
については、航空自衛隊が、東京都府中市にある航空総隊司令部を横田基地に移設し、横田基地に残すこととした第5空軍司令部と一緒になって、横田基地を、北東アジアから中東までをカバーする米軍と自衛隊の「共同戦略輸送センター」とすることが企図されている。」

 本題に戻します。東アジア地域における安全保障の目標と、その目標達成までの時間軸については、月刊「世界」06年3月号では次のように言っています。


 「この欧州の例(注:
NATO(北大西洋条約機構)が集団防衛機構から地域的集団安全保障の機構に移行した。EU域内においては、「相互防衛」条項においてEU加盟国間の集団防衛を明確にした。)を見ると、日本の安全保障について私たちが進むべき道は、アジア地域内において、「米国との同盟関係の下で我が国の軍事的役割を拡大するため、集団的自衛権の行使を容認していこう。」という方向ではありません。

 
NATOが実質的に地域的集団安全保障の機構に移行してきていたり、EUが国境を消滅させることによってEU諸国間での武力紛争の可能性をなくしつつあったりするのと同様、我が国周辺諸国を含むアジア諸国(米国を排除するものではない)との「地域的集団安全保障」(国連憲章第8章の「地域的取極め」又は「地域的機関」に該当するものです。)の確立、延いては、EU憲法条約の教訓を活かした「アジア憲法条約」の成立を目指すことではないでしょうか。」

 「
以上のような方向に私たちが進んでいけば、小泉首相に「立派な軍隊じゃないですか」と評された自衛隊が、ドイツ連邦軍の兵力削減(冷戦期最大50万人であった兵力を2010年までに25万人に削減)が実現しているように、名実ともに「自衛のための必要な最小限度の実力」と評価されるものとなる途も開けてくるというものです。」
 
 小沢代表が発言したことを今すぐに実行しようとしたら、在日米軍がいなくなった穴を自衛隊が埋めることになると考えてしまいそうですが、それは短期間でできることではありません。東アジア諸国間の相互信頼を高めつつ、東アジア地域における地域的集団安全保障を築くことで、在日米軍が削減されても自衛隊の増強に繋がらないようにすることも十分可能だと思います。

 いずれにしても、安全保障の問題は、目標を掲げることは重要ですが、その目標をどのような時間軸で、どのような過程を経て実現するかは、政権を取ってからでないと詰められないことだと思います。これ以上具体的な話は、私たちが政権を取ってから、十分な情報を踏まえて詰めるべき話だと思います。