昨年11月2日付の「今日の一言:ソマリア沖の海賊対策」で、麻生総理、マスコミ等のの言動等を紹介しましたが、その後、先月28日に、浜田防衛相が、ソマリア沖の海賊対策として海上自衛隊に対して海上警備行動を採る準備をするよう指示を出しました。犯罪行為である「海賊行為」に対処することは必要ですが、「ソマリア沖の海賊」を単に「犯罪者」として見るだけで良いのか疑問に思っています。

 疑問の発端は、浜田防衛相が指示を出した日に私が政府に対して提出した質問主意書に対する政府の「答弁書」(今月6日付け)の答弁が、極めていい加減だったことにあります。

 例えば、私が、「ソマリア沖の海賊の実態(どのような人達がどのような目的で組織しているのか、組織数、組織別の人数等)を明らかにされたい」と質問したのに対し、「ソマリア沖の海賊について、実態の詳細は把握していないが、例えば、母船と小型ボートを使用し、自動小銃やロケットランチャーを保有しているものがあることは、報道等により承知している。」と、表面的な海賊の行動しか答えていません。

 また、「ソマリアの領海内及びソマリア沖の公海上の海賊行為及び武装強盗行為」を抑止するために必要な措置を採ることを各国に要請した一連の安保理決議に関し、「一連の安保理決議は、ソマリア沖の海賊はどのような実態(組織、団体、人の集まり等)であるとの認識に立って、なされているのか。」との質問に対しても、ソマリア沖の海賊がどのような人達によって組織されているのか、全く答えていません。

 そんな中、本日、私たちの勉強会で、毎日新聞のヨハネスブルグ特派員であった白戸記者から、ソマリア問題についてお話を伺う機会がありました。そのお話の中で、「ソマリア沖の海賊は、実は、単なる盗賊ではなく、ソマリアのイスラム穏健派(米国、エチオピアが支援)と過激派(原理主義者)との内戦、延いてはイスラム過激派勢力と欧米諸国との戦いが続く中で生まれてきた国際的な密輸シンジケートの一部である可能性が高い」ことが指摘されました。

 そして、ソマリアのイスラム過激派勢力は、歴史的に、国際的なアルカイダ・ネットワークと関係を持ってきているのです。ソマリアに安保理決議に基づき93年から95年当時派遣された多国籍軍に打撃を与えた勢力の核心は、国内外のイスラム原理主義過激派だと言うのです。イランの革命防衛隊、レバノンのヒズボラ、ビンラディンにリクルートされたアフガン帰還兵が、多国籍軍をソマリアから敗走させています。

 つまり、我が国が純情無垢に「犯罪集団である海賊対策だ」として海上自衛隊の艦船を派遣したつもりが、実は、イスラム社会の人にとっては、「日本は、海賊対策に名を借りた米軍有志連合に加わってきた。」と受止められる虞があるのです。このことは、アフガン戦争の中で、我が国がテロ特措法に基づいてインド洋に自衛隊の給油艦を送ったことに対して、アフガンの人達が「日本は米軍に協力した」と思ってしまったことと似ているように思います。

 しかも、政府の対応には「出口戦略」(いつ、自衛艦は帰ってこれるのか。)が見えません。遠くソマリア沖まで出かけていくことに対して、質問主意書で「ソマリア沖に派遣する自衛艦は、どの程度の期間派遣されるのか」と質問しましたが、政府は「お尋ねの点については、現時点でお答えすることは困難である。」としか答弁していません。白戸記者も、「ソマリアの内戦が収束しない限り、海賊は存在し続ける。その内戦は、何時終わるか分らない。」と指摘していました。

 給油艦をインド洋に派遣することだけでも、1年か2年の期限付きの特別の法律(テロ特措法、給油特措法)の制定について、その是非を巡って国会で激しい審議が行われました。ソマリア沖での自衛艦の海上警備行動は、「海外での武器の使用」を前提としての活動(既に、その訓練も行われています。)であるにも拘らず、国会が全く関与することもなく、延いては国民に十分な情報が提供されることもない状況で行われるという恐ろしい事態になりそうです。

  「ソマリア沖の海賊」の実態について政府が答弁書で言明したように「報道等で承知」している程度にしか知らずに自衛艦を派遣するとすれば、全く無責任です。もし、その実態を知っているのであれば、それを国会や国民の前に明らかにした上で、自衛艦の派遣の是非を問うべきであると考えます。実態を良く知らずに、或いは、実態を国民に隠し通したままで、自衛艦を派遣することは、決して許されるものではありません。