今通常国会で「最初の山場」と言われる第二次補正予算(特に「定額給付金」)とその関連法案については、一昨日(13日)、与党による賛成多数で衆議院を通過しました。しかしながら、その採決を巡っては、自民党内でも造反の動きが見られ、それが、総選挙に向けて今後どのような動きに発展するのか関心をもたれています。本日は、今年秋までに必ず実施される総選挙について、今後の政局を占ってみたいと思います。

(「定額給付金」を巡る混乱)

 「定額給付金」については、麻生総理の「迷走」もあって、世論調査では、国民の7割程度が反対をしています。そのため、一昨日の採決では、自民党内でも、渡辺喜美・衆議院議員が本会議の採決前に離党して採決を棄権し、松浪健太・内閣府政務官が採決を棄権して政務官を罷免されました。この二人の政治家の行動が今後どのように拡大していくのか関心がもたれます。

 「定額給付金」を巡る混乱は、一昨日の採決の時よりはむしろ、60日後に訪れるであろうと言われている「衆議院での再議決」の採決の時にあるのではないか、と予測されています。渡辺議員を含めて17人の造反議員が出れば、衆議院での3分の2以上の再議決ができなくなり、麻生総理は、①麻生内閣が総辞職するか、②解散・総選挙で国民の信を問うか、の選択を迫られることになるからです。

 今後の国会審議日程に関しては、本日、一旦は、「来週中にも参議院で第二次補正予算とその関連法案の採決を行う」旨国対委員長レベルで合意されました。もし、そうなれば、衆議院での再議決で造反可能性のある議員でも、「もし解散された時には、総選挙でどう闘うのか」を準備する時間的余裕はありませんから、多くの造反者が出ることは期待できません。ただし、その後、その合意は、小沢代表の指示で撤回されましたので、今後の動向が注目されます。

(解散の可能性はあるのか)

 そもそも、麻生総理は、既に、衆議院を解散をすることはできなくなっているのではないでしょうか。数日前の世論調査では、既に、内閣支持率は20%前後に低下し、不支持率は70%前後に上昇しています。頼みにしていた麻生総理の個人人気も、小沢・民主党代表に大差をつけられてしまっています。今後、この状況をひっくり返すような大転換(奇跡)が起こらない限り、麻生総理は、解散・総選挙に打って出る可能性はないと考えられます。

 今後、「3年後の消費税率引上げ」を盛り込んだ税制改正法案や、道路特定財源を一般財源化する法案の取扱いを巡って、自民党内で造反があるのではないかとの憶測もあります。その造反の結果として、麻生総理が解散に追い込まれるのではないかとの予測をする人がいます。しかしながら、その可能性も、公明党が重視する東京都議選挙の日程と重複することや、造反議員の選挙戦略の見通しが立ち難いことから、薄いのではないかと思います。

 麻生総理の今の心境としては、「何とか、7月のサミットまでは総理を務めたい。その後は、党内の大勢の意見に従ってもよい。」というものになっているのではないでしょうか。9月10日が衆議院議員の任期満了日になっていますから、解散がなければ、その満了の日前30日以内(8月11日から9月10日まで)に総選挙が行われることになっていますが、麻生総理は、総選挙の時には新しい自民党総裁に代わっていることも甘受するのではないでしょうか。

 つまり、自民党総裁の任期は、9月30日までなのですが、その任期終了前に総裁選挙を前倒しにして実施し、自民党総裁を交代することもあり得るということです。ただし、後述するように、臨時国会の召集時期や衆議院の解散の時期によっては、自民党総裁選挙を本来の総裁選挙日程に近い日程で行うこともできますから、それ程日程を前倒ししなくても済むということもできそうです。

(総選挙の枠組みはどうなるか)

 ところで、「自民党総裁が麻生太郎から誰か他の人に代われば、自民党や与党が総選挙に勝てるようになる」とは、今のところ誰も思ってはいないと思います。自民党総裁が誰になっても、自民党の候補者は厳しい戦いを強いられる可能性は高いと思いますし、特に、選挙基盤の弱い「小泉チルドレン」などの若手議員は、何とか生き残る道を必死で探求することになるでしょう。

 その場合に若手議員が乗ってきそうな可能性があるのが、一昨日離党した渡辺喜美議員などが中心となるであろう「新党」設立の動きではないでしょうか。ただ単に、自民党の一部若手議員が渡辺議員に合流して「新党」を設立するというだけなら、それは、有権者の皆さんからは、「自民党の内紛」としか受止められずに、自民党が分裂して選挙に臨むことと余り変わらないでしょう。

 「自民党の内紛」と受止められないためには、自民党の外部の政治勢力と結びつく必要があります。その場合の外部の政治勢力には、①民主党の一部、②改革派首長(元首長)、③脱藩官僚などの可能性が考えられます。ただし、民主党の議員は、今、「一致団結していることが大切な時期だ」との意識が浸透していますので、民主党の一部議員が自民党の一部議員と結びつく可能性は乏しいと思います。

 そして、「新党」設立は、衆議院の任期満了近くになればなるほど利点があります。即ち、自民党が「刺客」候補者を擁立する時間的余裕が余りなくなるからです。問題は、自民党公認候補者でなくなると、自民党から公認料を含めて選挙資金の支援が得られなくなることです。しかし、これも、新党が選挙後に自民党や公明党と連立を組む可能性があるのであれば、財界などからの資金的支援も期待できなくはないでしょう。

 問題は、以上のような枠組みを作る力を持っている人材が「新党」サイドにいるのかどうか、ではないでしょうか。

(総選挙はいつか)

 以上のような状況から「衆議院の解散は秋までない」とすると、総選挙は、限りなく任期満了に近い日に行われることになりそうです。衆議院議員の任期は憲法で決まっていて、4年間(憲法45条)で、これを超えることはできませんが、選挙期日は、公職選挙法(第31条等)で、衆議院議員の任期満了後に行われる事態も想定しています。

 即ち、例えば、①任期満了の9月10日を超えて国会(例えば、8月末に召集する臨時国会)が開会されている時は、その国会閉会の日(例えば9月11日)から24日以後30日以内(例えば10月11日)に総選挙を行う、②任期満了による総選挙の期日(例えば9月6日)の公示がされた日(例えば8月25日)後に解散された時は、解散の日(例えば9月4日)後40日以内の日(例えば10月11日)に総選挙を行う、こととされています。

 もし、これらの公職選挙法の規定を活用すれば、自民党総裁選挙の日程を余り前倒しにしなくても実施できることになります。今の自民党なら、「勝つためには、どんなことでもしたい」という心境かもしれませんが、自民党がそこまで自分中心の総選挙日程を組むことになるとすると、国民の見る目は大変厳しいものがあるのではないかと思われます。