本日、都内のホテルで、日経新聞社と米戦略国際問題研究所(CSIS)の共催による「米新政権と日米同盟の課題」と題するシンポジウムを開催されました。時宜を得たシンポジウムだったのだと思います、会場には1000名を超える聴衆(応募は2500名以上あって抽選で入場者を選んだそうです。)が集まり、4時間半に及ぶシンポジウムを殆どの人が最後まで聞き入っていました。

 本日のシンポジウムに参加したCSISのメンバーも、オバマ次期大統領の出身である米国民主党の外交・安全保障政策にも深く関与している、又は関与することになろう人達であったことも、聴衆が多くなった原因だと思います。以下、参加者の基調講演やパネル・ディスカッションでの発言の主なものをご紹介したいと思います。オバマ政権のこれからの外交安全保障政策を占うことができるかもしれません。
 
1、ジョン・J・ハムレ(CSIS
所長、元国防副長官)

  オバマ新政権が直面する3つの重要課題は次の通りである。世界規模の経済危機を克服できるか、②核兵器の拡散を防げるか、③様々
なグローバルな問題(環境、エネルギーなど)に対する国際的な協力機関の再構築。これらの課題は、米国が世界で尊敬される指導者にならなければ、解決できない。その意味で、今回の大統領選挙は、米国民の選択の結果であり、その結果は良かった。

 
日米関係は良好であるがエキサイティングではない。これは、「レストランに行っても会話をしない老夫婦」のようなものだ。中国も新しいチャンスがあって大事だが、日米関係が絶対に重要な基盤であることを理解すべき。自動車産業のあるデトロイトは大きな危機に直面しているが、日本の自動車メーカーを責めていない。新しい関係に入っていると言えるが、このような良好な関係が未来永劫続く保証はない。

2、ジョセフ・ナイ(ハーバード大教授、CSIS理事、元NIC
(国家情報会議)議長)

 オバマ政権の新外交政策のジレンマは、ブッシュ大統領の負の遺産である。それは、①経済危機、②二つ(アフガン、イラク)の戦争、③テロとの戦い、④中東問題である。これらの過去の問題に対処しつつ、新しい課題に取り組んでいかなければならない。(以下、箇条書き的に発言をご紹介します。)

 ・ブッシュは「グローバルなテロとの戦い」と言っているがこれは逆効果を生んでいる。アルカイダは、これを「グローバルなイスラムとの戦い」とし、「文明の衝突」を想起させようとしている。

 ・これからは、「スマートパワー」の時代である。「スマートパワー」とは、ソフトパワー(文化、経済、技術など)とハードパワー(軍事)の賢い組み合わせで、相手に働きかけをする力のことである。

 ・政策は、「ハードな押し付け」より「ソフトな牽き付け」が重要。
 ・「リベラルなリアリスト的政策」が世界秩序の実現につながる。
 ・
対日政策は、超党派的政策なので、米国が民主党政権になっても対日関係が悪化することはない。
 ・
最近、米政府高官による北京訪問がたびたび行われているのは、米中間で解決すべき問題が多いから。

 ・
日米が共同して、中国の台頭を管理する必要がある。中国は問題のある国であり、国際社会における「責任あるステークホルダー」にすることが、米日の共通の課題。
 ・ミサイル防衛に対する日本の協力を評価する。海賊対策には海上自衛隊による貢献が望ましい。国連平和維持活動(PKO)
に対し、もっと参加すべき。もっとできることがあるはずだ。

3、カート・キャンベル(CNAS(新米国安全保障研究所)CEOCSIS前・副所長、元国防副長官補)

 ・日本は、ODAなどを通して世界の安定に大きく貢献している。
 ・米国は、困難な問題(2つの戦争、経済危機、気候変動など)を抱えているので、日本に対し支援と励ましを求めている。
 ・日米間にオープンな対話が必要。アフガニスタンにさらに焦点が向けられる。アフガニスタンの問題を解決する上で、日米間に尊敬しあう関係が生まれることを期待する。

4、マイケル・グリーン(CSIS
上級顧問、元大統領補佐官)

 ・
対北朝鮮政策について民主党、共和党の間で戦術的な差はあるが、戦略に差異はない。
 ・「
日本は要」という米国の戦略は変わらないが、米中関係は成熟した関係にはならない。
 ・日米同盟に枠組みの中で、日本側がYes, we can.と言うべき。No, we won’t.と聞こえてしまうことがある。日本の海上自衛隊はとても優秀で評価が高い。インド、ブリュッセル(NATO)、オーストラリアは日本がさらなる役割を果たすことを歓迎する。海賊対策については、日本が主導的な役割を果たすべき。
 
 ・集団的自衛権に関する議論についてであるが、戦略が先ずあるべき。集団的自衛権はツールの一つである。アジアの地域戦略を日米間で作成する必要がある。
 ・自衛隊は、ソフト、ハード両面で素晴らしい活動をしている。
 ・自衛隊は、国連平和維持活動(PKO)に対し、もっと参加すべき。

5、ジェームズ・ケリー(CSIS上級顧問、元国務次官補、元6カ国協議米国首席代表)

 ・超党派の5つのシンクタンク、150人が関わっている「東アジア戦略概観」は来年1月に完成し、オバマ政権にも影響を与えるであろう。
 ・日米同盟は米国のアジア太平洋における基盤。「核の傘」が機能している。
 ・
在日米軍という形での米軍の前方展開戦略は、今後も重要な役割を果たす。

 ・米国は、中国に対するリスクヘッジとしてアジアに兵力を維持している。兵力の維持は、中国に対し、軍事紛争を許容しないという姿勢を示している。
 ・北朝鮮は、自らが核を保有することによって、国際的地位を高めることを期待している。
 ・対北朝鮮関係については、外交も失敗したが、圧力を掛けることも失敗している。
 ・
核問題に関し十分に検証可能な枠組みを構築できれば、拉致問題の解決にも結び付くことになる。

(私のコメント)自衛隊の海外活動のあり方、核の傘の有用性など、考え方が必ずしも一致しないところがあり、シンポジウム終了後に、彼らと意見交換をしました。お互いに理解不足のところもあると思われ、訪米などの際に引き続き意見交換の場を持つ機会を見出して行きたいと思います。