田母神空爆長の論文問題について、石破・前防衛大臣は、雑誌「文芸春秋」09年1月号の中で、「私は、この問題の本質はあくまで『文民統制とは何か』ということだと考えている。」と記述し、田母神問題が、文民統制(シビリアン・コントロール)への危機をはらんでいることを指摘しています。他方、私は、本日の衆議院・決算行政監視予算委員会で、別の問題でやはり文民統制の危機が発生していることを指摘しました。

 文民統制(シビリアン・コントロール)とは、民主主義国において、「政治の軍事に対する優先」を確保するための原則であり、我が国では、国防組織である自衛隊は、法律、予算等による国会の民主的コントロールの元に置かれ、その最高の指揮官である総理大臣や防衛大臣も文民であるべきとされています。この原則の下で、当然、自衛隊や自衛隊員は、法律に基づき、政治的行為をすることを制限されています。

 本日の決算委員会で私が指摘した問題は、昨年7月の参議院議員選挙(全国比例)おいて、自民党公認で立候補し当選したS氏に関する問題です。S氏は、「ひげの隊長」として、自衛隊のイラク派遣で第一次復興業務支援隊長を務め、昨年の1月11日に陸上自衛隊を退職し、同月29日に自民党の参議院比例区支部長に就任しています。

 そのS氏は、自分のホームページで、「自衛隊を退職した後、自衛隊内で200箇所講話を重ねた」ことを明らかにしていました.。自衛隊法などによれば、「参議院議員選挙において、特定の候補者を支持するために、国の庁舎、施設等を利用し、又は利用させてはならない」こととなっていますが、参議院議員選挙に出馬することが決まっている人が、国の施設である自衛隊の施設内で講話をすることが許されるのか、大いに問題があると思います。

 そこで、先ず、「S氏が、昨年1月以降自衛隊内で講話や講演を行った事実を、防衛省としてどのくらい把握しているのか。」を質問しました。

 浜田防衛相は、「今把握できているものとしては、昨年5月の陸自・八戸駐屯地、昨年7月の空自・芦屋基地がある。その他は、現在、各部隊に照会中である。」旨答弁をしました。この答弁で挙げられた事例は、私が、昨日の質問の事前説明において、インターネットに載っているものとして指摘したものに限られていましたが、自衛隊内でS氏が講話を行っていた事実は、当局としても公式に認めたわけです。

 そこで、「どのような手続を経て、自衛隊の施設内でS氏の講話をすることが認められたのか」と尋ねましたが、その答えは、「特に手続のようなものを定めてはいない。それぞれの部隊の長が、その適否を判断しているに過ぎない。」というものでした。このように、各部隊でバラバラに判断しているために、どこの自衛隊施設でS氏が講話を行ったのかを調査するのに、各部隊に照会せざるを得ない状態になっているようです。

 次いで、「S氏に自衛隊内で講話させることは、自衛隊法で禁止している政治的行為に該当するのではないか。」と尋ねましたが、その答えは、「S氏は、法令で禁止の対象となっている『参議院議員選挙の特定の候補者』には未だなっていなかったし、自衛隊員教育の観点から有益である知見(イラクでの自衛隊の活動等)を隊員に講話することを認めただけでは、禁止される行為としての『特定の候補者を支持する』ものには当たらない。」というものでした。

 しかし、S氏が、間近に迫った参議院議員選挙の特定の政党の候補予定者に既になっていることは、自衛隊員なら誰しも知っていることであり、そのS氏の話を、自衛隊の施設が提供されて上司の指示で隊員が聞かされることは、実質的に「支持をしている」ことと評価されると思います。そこで、「それでは、S氏の他に、自衛隊内で(半年間に)2百回も講話の機会を与えられている人はいるのか、調査して欲しい」として、防衛相に要請をしました。

 このS氏には、昨年の参議院議員選挙の直前である同年6月に、あの田母神空爆長(当時)を始め制服組トップを含む7人の現職自衛官が、合計46万円の政治献金をしていることも明らかになっています。こうしたことと合わせ考えてみると、自衛隊又はトップクラスの自衛官が、特定の政治家への支援や選挙の応援を通じて、文民統制に挑戦しようとしているのではないかとの懸念を感じます。