本日、医事評論家の李啓充氏(元ハーバード大学医学部助教授)の「世界(そと)から見た真実」という演題の講演を聞きました。日本の世の中で「常識」と考えられていることが、実は、政府やマスコミの世論誘導であったりすることがあるわけですが、本日の李氏のお話は、日本の世の中では「常識」されているものが、世界(そと)から見れば真実ではないこともあることを指摘するお話でした。

 実は、李氏のお話は、一部私たちが国会等で指摘しているにも拘らずマスコミ等によって国民に伝えられていない話でったものであったと思います。そのことを前置きして、李氏の本日の講演の中から、特に、医療に関係の深い部分をご紹介してみたいと思います。なお、以下のお話は、私が私なりに整理したもので、李氏の真意と異なるものがあるとしたら、全て私の責任であることを予めお断りしておきます。

『1、「国民負担率」のごまかし

 「国民負担率」とは、「国民所得に占める租税と社会保険料の割合」を言うが、日本だけで使われている言葉である。1997年の財政構造改革法で国民負担率が5割を超えないことが「当面の目標」と決められたことがある(その後、財政構造改革法は事実上廃止されている。)。現在「先進国の中でも国民負担率が低い」と言われている日本と米国は、各々35,9%、32,6%と米国の方が低いが、実は、「国民負担率」は、負担の実態を反映していない。

 例えば、日米の国民負担を、「50歳、自営業、四人家族、課税収入700万円、08年度納付額」のケースで比較してみると、日本では、所得税97万円、住民税70万円、国民年金17万円、医療保険62万円、合計248万円であるのに対し、米国では、各々99万円、37万円、115万円、242万円、合計493万円であるが、米国の医療保険242万円は民間保険であるため、社会保険料負担に含まれていない。米国は、「国民負担率」は低いが、「国民負担の額」は高い。

  2、日米の医療保険制度の比較

 日本は、国民全体が何らかの健康保険に入る国民皆健康保険であるが、市場経済原理主義者が手本とする米国は、総人口291百万人のうち、民間医療保険が198百万人、メディケア(高齢者・障害者向けの公的医療保険)が40百万人、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)が38百万人、無保険者46百万人となっている。そして、日本の医療費と、「民」の医療保険を中心とする米国の医療費を比較すると次のようになる。

 日本と米国は、夫々、GDPに占める医療費の割合は15,8%と8,0%、一人当たり医療費は60万円と22万円、そのうち、民間負担が33万円と15万円、税負担が27万円と8万円である(米国保健省調べ、03年、1ドル=100円で換算)。このように、日本の医療費は、世上言われているように高額となっているわけではない。また、米国では、「民」による「いいとこ取り」によって、公的保険に有病者が集中してその負担が増すという悪循環に陥っている。

 米国の無保険者については、保険の適用がなく全て自己負担となるという問題の他に、別の問題がある。それは、病院等からの医療費請求額について保険会社による値引き交渉が行われないことである。例えば、自分(李)が昨年9日間入院したケースでは、病院と医師達からの請求額は554万円であったが、保険会社の値引き交渉で支払額は90万円となった。無保険者は、このような値引きが受けらず、医療費借金地獄に陥っている例が多い。

 3、混合診療の是非

 「混合診療」とは、「保険診療」と「自由診療(保険の適用を認められない診療)」を混合して診療をすることであるが、現在の日本では認められておらず、もし「混合診療」をすれば、全ての診療(保険診療も含めて)に保険が適用されなくなる仕組みとなっている。日本政府の規制改革会議では、「国民がもっと様々な医療を受けれるようにする」との観点から、「混合診療」を導入しようという動きもあるが、それは許すべきでない。

 即ち、混合診療は、①財力による医療利用の不平等を容認する、②自由診療という形を取って公的審査を経ない似非医療が横行する、③治療効果のある医療でも医療請求額を高くできる自由診療に留めようとして、保険医療が空洞化する等の問題が発生する。1980年代始めに混合診療を導入した中国では、公的保険は基礎的医療にしか適用せず、高価な検査・治療を患者にセールスする医師・病院が増えているという問題が起きている。

 「混合診療」は、問題のすり替えが行われているのである。即ち、治療効果が明らかな診療行為は保険診療に含めるのが本来の筋であり、「混合診療が認められていない」ことが問題なのではなく、「必要な治療が保険診療に含まれていない」ことが問題なのである。

 4、病院の株式会社化の問題

 米国の「年次改革要望書」は、郵政民営化改革が終わったことから、次のターゲットを医療改革(混合診療と株式会社の病院経営参入)としている。しかしながら、米国での営利病院(株式会社病院)では、①競争相手の病院を買収後閉鎖することによる市場寡占化、②ベテラン看護師の解雇などの合理化、③非営利病院よりも高い医療費の請求、④組織的診療報酬不正請求や不必要な手術の実施など、営利追及から色々な問題を引き起こしている。

 また、1984年から95年までにかけての全米3645病院の調査によれば、非営利病院から株式会社化された病院(133病院)では、患者一人当たりの入院費は上昇(84万円から108万円へ)するとともに、入院1年後の死亡率が上昇(0.266から0.387へ)している。逆に、株式会社病院から非営利化された病院(81病院)では、患者一人当たりの入院費はほとんど変わっておらず(72万円から75万円へ)、入院1年後の死亡率は下がっている(0.256から0,219へ)。

 5、まとめ

 米国型の「民」の医療保険は、不平等・不公平であるだけでなく、社会全体の医療費負担も高くついている。他方、西欧型や日本型の「公」の医療保険は、平等・公平である上に、社会全体の医療費負担も低くなっている。

 「民」の医療保険は、タイタニック号で「一等の船客は救命ボートに乗せるが、二等、三等の船客は救命ボートに乗せない」というのと同じような差別をする制度である。「公」を減らして「民」を増やそうとする医療保険制度への移行は、日本が誇る「皆保険丸」を氷山にぶつけようとする行為と同じである。』