本日、麻生太郎・内閣総理大臣が、総理大臣就任後初めての所信表明演説を国会で行いました。総理大臣就任直後の所信表明演説は、本来、自らの国家像を示すなど格調高いものであることが多いのですが、本日行われた麻生総理の所信表明演説は、いろんな面で「らしからぬ所信表明演説」であったように思います。以下、その特徴をご紹介してみたいと思います。

 第一に、演説の始まりが、何か時代がかった演説のようだったことです。「かしこくも、御名御璽をいただき、第92代内閣総理大臣に就任しました」、「118年になんなんとする憲政の大河があります」、「あたかもあざなえる縄の如き、連綿たる集積がある」、「うたた厳粛たらざるを得ません」といった表現は、自らの総理就任に身の引き締まる思いを伝えようとしているのでしょうが、他方で、自ら及び内閣に対する世襲批判を打ち消そうとする意図も感じられます。

 第二に、行政府の長として珍しく国会の運営について注文を出したことです。私が知る限り、所信表明演説では、初めてのことなのではないでしょうか。いつもなら、国会で強行採決があったことに野党が抗議したりしても、「国会の運営については、国会がご判断されること。発言は差し控えたい」等といった答弁しか帰って来ません。与野党それぞれの言い分があるもので、行政府の長たる内閣総理大臣が野党のみを一方的に批判するのは、大いに問題があります。

 第三に、「所信表明演説」でありながら、民主党に対する「代表質問」になっていることです。本来であれば、施政者として自ら実行したいことを主張すれば済むものを、民主党への対抗心をむき出しにしています。「民主党に、その用意があるか」、「民主党に要請します」、「民主党に伺います」、「民主党の見解を問う」といった表現を使って、まるで「代表質問」です。議場からは、「野党になる準備をしているのか」といった野次も飛んでいました。

 第四は、演説で触れられた具体的な政策は、ほとんど、過去の政策の失敗(失政)への対応策でしかなかったことです。前向きな政策については、ほとんど抽象的な掛け声でしかありませんでした。「日本経済の建て直し」、「財政再建」、「消えた年金・消された年金問題」、「医療、介護、保育面での不安」、「若者の厳しい労働環境」、「教育の不安」、「事故米」等々の失政ですが、これらの失政が自民党政権の下で生じたという自覚が足りないのではないかと感じました。

 第五は、個別政策事項で幾つか気になる点があったことです。

 その一は、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直しに関してです。確か、自民党総裁選挙の終盤では、舛添・厚生労働大臣が「後期高齢者医療制度については、抜本的な見直しをする」と提案し、それを麻生氏も受容れたと報道されていたのに、本日の演説では、「必要な見直しを検討します」と後退した表現になりました。具体的に何が「必要」なのか、全く示されていません。総選挙の争点となることを回避しようとするだけの内容に思えました。

 その二は、「日米同盟」についてです。麻生総理は、「外交の第一」として「日米同盟の強化」を挙げました。しかし、「日米同盟」とは一体どんな日米関係なのか明確ではありませんし、麻生流に言えば、「目的と手段をはき違えてはいけない」ということは、ここでも言えそうです。何のために日米同盟を強化するのか「目的」が明確にされていないために、民主党に対して、「日米同盟と、国連と。両者をどう優先劣後させようとしているのか」という質問をしてしまうのです。

 以上のような、民主党に対する対抗心むき出しの所信表明演説は、民主党への「挑戦状」と言っても過言ではないでしょう。この「挑戦状」からして、麻生総理が「各党の代表質問後には解散してしまおう」と考えているような予感がするのは、私だけではないのではないでしょうか。