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私の愛蔵本『建築を語る』安藤忠雄(著)


 まだ自分が若かった頃、建築家で東京大学特別栄誉教授でもある安藤忠雄氏のお話を講演会で聴いたことがありました。関西弁で気取らない話し方はストレートでとてもわかりやすいものでした。どんなテーマだったか忘れましたが、クリエイティブな姿勢で仕事に臨むことの大切さについて普段の会話のようにお話しされていたと思います。私はその頃、建築家(故)黒川紀章氏が設計した「壱岐市立一支国博物館・長崎県立埋蔵文化財センター」のプロジェクトに関わっており、黒川さんの仕事に厳しい気性の荒さを目の当たりにしていたものですから、安藤さんのお話を聴きながらその印象から受ける人柄の違いに驚きました。(その後、黒川さんの優しさに触れる機会もあり印象は変わりました。そのあたたかい黒川さんのお話はまた機会を見つけてしたいと思います。)

 

 本書は安藤忠雄氏が東京大学大学院で講義した際の内容が収められており、自らの若い頃を振り返りながら学生に向けて稀有な履歴を有する建築家だからこそ話すことのできるわかりやすいメッセージがまとめられています。そして[序]の言葉では「――建築という限られた枠のなかに収まることなく、広く他分野に新しい発想の力を求めていく姿勢も、ものをつくる人間として、大切なことではないかと思います。」として、既成概念にとらわれない広い視野を持って自分の理念を貫くことの大切さを説明されています。それゆえ本書の内容を私は「建築概論」を超えたものづくりと真摯な生き方の指南書だと考えています。

 

 感銘を受けた箇所やためになった内容がたくさん収められていますが、ここではその一部を抜書きします。興味をお持ちになった方は本書を手にとってお読みになってください。

 

 この書籍のテーマは「20代を生きる」とされています。が、還暦を過ぎたご同輩にも納得のいく内容だと思います。また歳を重ねたからこそ味わえるものでもある気がします。

 

 前半では若かりし頃の自らの仕事や著名な建築家の仕事を事例にその特徴を解説し、それを通じて若者へメッセージを送り勇気づけています。(引用)「建築が町中で長い間大きな顔をしているのは少々気持ちの悪いことですが、自分の考え方がある一定の時間残っていくという意味では、建築は夢の多い仕事であるといえます。経済的な面でも社会的地位の面でも決して割のいい楽な仕事ではありません―」としながら(引用)「創造的な仕事をしようとするならば、どんなことをしたいのか、どんなものをつくりたいのかという自分のイメージを主体にして考えた方がいいのではないでしょうか。勿論、そんなふうにしてやっていけば、しょっちゅう社会と衝突して排除される。しかし建築家というものはもともと社会から認知されているような存在ではありませんので、それでも十分なのではないかと思っています。」と、このような言葉がこ気味良く出てきます。

 

 後半では「命ある建築をめざして」と題しコルビュジエやミース・ファン・デル・ローエ、グロピウスなどの建築をわかりやすく説明しつつ(引用)「建築家が建築を設計してつくっていくなかで何が最も重要かというと、つくることへの緊張の持続です。緊張を持続していくということは非常に難しい。また同時に、建築をつくるということが好きかどうか、ということも重要になります。好きであるということと、つくり続けることの緊張感の持続が大事で、緊張感をどのように持続させるかは自分で考えておかなければならないと痛感しました。」とつくること自体が闘いであると語っています。

 また、イタリア、ヴェネツィア生まれの建築家・カルロ・スカルパ(1906-1978)のヴェネツィアという場所に根差した特有の建築を例に、(引用)「近代がひたすら合理性を求める過程で置き去りにしてきた『部分から発想する』ことを、私たちに思い起こさせてくれます」と解説し、(引用)「建築は今、非常に概念的になって、どこまでいってもフィジカルな存在であるはずの建築を、物質性をもたないヴァーチャルな存在として捉えるような傾向が進んでいます。その一方でこうした工芸的な建築家もいるということは知っておく必要があると思います。」と話しています。私は安藤氏がスカルパの建築について技巧的で精緻なディテールによる工芸技術を手立てに作られていると評価したことが、自分も関わってきた工藝の仕事に照らして大変うれしく、またこの講義が1998年当時のものであるにもかかわらず、2026年の現在にも通用する先見性に驚くばかりです。(なお私自身は工芸家ではありません、念のため。)

 

 最後に講義に出席した学生からの質疑でスランプの脱出法を問われ、次のように答えています。(引用)「私も半年に一度くらいは止めたいなと思うことがあります。そういう時に最も効果的なのは前のことを忘れることです。建築の設計家には内にこもって、よく考える人が多いのですが、建築は他の人びととの共同作業も多い仕事なので、内にこもるタイプは本当は建築の設計には向いていない。しかし冷静に理詰めで考える仕事でもあるので両面をもち合わせているのが最も望ましい。」そして旅をする、本を読む、歩くことなどを勧めながら、歩きながら社会や権力の理不尽について考え(引用)「スランプに陥っても怒りの気持ちが失われないうちは、もうちょっとやっていきたいなと思ったりする。それがスランプ脱出方法なのかもしれません。」としめくくっています。安藤さんらしさが心に染みますし、私たちにとっても納得のいく回答だと思いました。ぜひご一読を。



◯書籍購入時に安藤忠雄さんから本書に書いていただいたサイン―「光の教会」を題材にしたと思われる

 Amazon-本「安藤忠雄 建築を語る」


●目次

[序]発想するちから

[第1講]インターナショナリズムとリージョナリズム

[第2講]建築に夢をみた

[第3講]抽象化と場所性のあいだで

[第4講]命ある建築をめざして

[第5講]プロセスのなかで思考する

あとがき

 

●著者略歴

(購入時)

安藤忠雄(あんどう・ただお)

1941年    大阪に生まれる。独学で建築を学ぶ。

1969年    安藤忠雄建築研究所を設立。

1987年    イェール大学客員教授。

1988年    コロンビア大学客員教授。

1990年    ハーヴァード大学客員教授。

1997年    東京大学教授。

現在        東京大学名誉教授。

作品 「住吉の長屋」(日本建築学会賞)「六甲の集合住宅」(日本文化

デザイン賞),「城戸崎邸」(吉田五十八賞),「TIME'S」「光の教会」「大阪府立近つ飛鳥博物館」(日本芸術大賞)、「大山崎山荘美術館」「直島コンテポラリーアートミュージアム/アネックス」「FABRICA(ベネトン・アートスクール)」ほか多数。

受賞 アルヴァ・アアルト賞(フィンランド,1985),フランス建築アカデミー大賞ゴールドメダル(1989),アメリカ建築家協会名誉会(1991),アーノルド・ブルンナー記念賞(1991),イギリス王立建築家協会名誉会員(1993),日本芸術院賞(1993),朝日賞(1995),プリツカー賞(1995),世界文化賞(1996),フランス文学芸術勲章勲(シュヴァリエ 1995,オフィシェ 1997),国際教会建築賞「フラテソーレ」(1996)、イギリス王立英国建築家協会ゴールドメダル(1997),フランス建築アカデミー名誉会員(1998)ほか多数。

 

●建築を語る

(購入時)

1999年6月3日    初版

2007年6月27日    第22刷

 

著者 安藤忠雄

発行所 財団法人 東京大学出版会

代表者 岡本和夫

113-8654 東京都文京区本郷7-3-1東大構内

電話 03-3811-8814 Fax 03-3812-6958

振替 00160-6-59964

印刷所 株式会社平文社

製本所 矢嶋製本株式会社

©️1999 Tadao Ando

ISBN 978-4-13-063800-5

Printed in Japan


(おしまい)