私達はおすすめの音楽はと問われた時に、

まず自分で聴いて自分が感動する、いいなと思う曲を思い浮かべます。

売れているから、友達がいいと言っていたから、その曲を薦める、という場合もたまにはあるかも知れませんが、基本は自分の耳で、自分の耳を信じて、それを人に伝えようとます。ましてや、著名な音楽評論家の誰々が薦めていたから、という理由で勧めたりはしませんね。


そして自分が自信を持って紹介したその曲でさえ、他人にとって合うかどうかわからない。感性の違いというか、趣味の違いと言いますか、もっと大きく、その人の環境の相違、人生経験の相違、で

「あの人に薦めて貰ったけれども、私にはこの音楽は合わない」という事も多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。


ところが塾業界ではどうやらそうではないようなのです。


「おすすめの参考書はありますか?」

と生徒さんに問われて、また問われなくても、自分でその本を1ページも開いたことがないにもかかわらず薦めてしまう。


そのようなことがよくあるそうです。


SNSやYouTubeで、どこかの先生が薦めていたから、そのような浅薄な理由で、その生徒さんの現在の学力、能力、性格、勉強態度、そういったものを無視して、参考書を紹介してしまう。


驚くべきことですよね。


有名な数学の「チャート式」でも、「赤」もあれば「青」もあれば「黄」もあれば「白」もあります。(他にもあるそうですが。)

それでも、学力に応じて、学年に応じて、能力に応じて、使っていかなければ、最初の方に手をつけたまま、その後何年も埃をかぶることになりかねません。


「いい参考書」だと言われているものでさえ、合う合わないがあります。


それほど人に助言をするというのは難しい。


塾の先生は注意を払って然るべきです。


東大のフランス文学の教授だった内田樹氏は

「受験勉強が心底いやだなと思ったら、高校を辞めて働くことをお薦めします。半年も働いたら、『これに比べると、受験勉強ってずいぶん楽だなぁ』と思うようになりますよ」

とおっしゃっています。(『蛍雪時代4月』)


氏は受験勉強が嫌で、高校を中退して中卒で働いたそうです。そして食うや食わずの生活を強いられたとか。その苦しみに比べれば勉強なんか楽だなあ、とわかったそうです。


そういった経験に裏打ちされたアドバイスなら傾聴する価値があるかも知れませんね。


まず自分で問題を解いて、最後までやって、それから人に薦めていますか?


その子の能力、現在の学力、志望校、性格、勉強態度に合わせて助言していますか。