いま、中東で繰り広げられているのは軍事的な戦いではない。経済的な「我慢比べ」だ。

トランプ米大統領は4月30日、イランの港湾に対する海上封鎖を維持する方針を改めて表明した。一方のイランは新最高指導者の下、核・ミサイル技術を保持する立場を宣言した。表向きは一歩も引かない両者の姿勢だが、実態はどうなっているのか。

各種報道の最新分析を紐解きながら、この膠着状態が日本経済や株式市場にどんな影を落とすのか、深掘りしてみよう。

イラン経済は「耐える」構え、西側の想定より長持ちする可能性

トランプ大統領は「イラン経済は崩壊しつつある。海上封鎖は非常に効果的だ。どれだけ持ちこたえるか見てみよう」と語った。NHKによれば「威力は非常に大きい」とも述べ、経済的締め付けを通じてイランに合意を迫る考えを示したという。

しかしロイターの分析はこれと異なる絵を描く。イラン経済は確かに厳しい状況にある。戦争によるインフラ被害に加え、石油輸出も圧迫されている。チャタムハウスの中東プログラム統括サナム・バキル氏は、今年のイランのGDPが2桁台の減少に見舞われると見込む。通貨リアルはこの数日でさらに15%下落し、一部で深刻なインフレが進行している。

それでも、差し迫った財政難の兆候は乏しい。銀行預金の引き出し制限もなければ、燃料や主食の配給制も行われていない。スーパーマーケットの棚には商品が並び、銀行も通常通り営業している。

この「見かけ上の強さ」の秘密はどこにあるのか。

イランが取り戻したのは「抵抗経済」という手法だ。聖職者と革命防衛隊は、対外的な脅威を国内締め付けの理由として利用し、国民が蓄えを切り崩して生活している状況にも依存しながら、米国から持続可能な取引を引き出すまで踏ん張り続ける戦略を取っている。

言うまでもなく、この持久戦が永遠に続くわけではない。ロイター自身、状況は極めて深刻で、制裁が解除されない限り新たな抗議デモの発生を当局が恐れていると報じている。英王立国際問題研究所の見立てでは、イラン側は西側の想定より長く戦えると読んでいる。トランプ大統領が中間選挙を控えて経済的な度胸比べでイランが先に折れると期待しているなら、「しばらく待つことになるかもしれない」というのがロイターの結論だ。


日本経済を襲う「三重苦」とは何か

ではこの膠着状態が日本に何をもたらすのか。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平氏は、3つの経路を通じて日本経済に悪影響が及ぶリスクがあると分析している。

第1は燃料価格高騰によるコスト増だ。 燃料価格の上昇は消費者物価を押し上げ、家計の実質購買力を低下させる。さらに世界経済の減速を通じて日本の輸出や設備投資も下押しされる。燃料高の長期化と世界経済の減速が同時に進めば、日本の実質GDPは最大で▲0.8%程度押し下げられる可能性がある。

第2は供給制約による生産活動の停滞だ。 ホルムズ海峡の封鎖で原油やナフサの輸入が途絶えれば、それがボトルネックとなって国内生産の一部が停止しかねない。仮に原油とナフサの供給が1割減少した場合、実質GDPは▲0.6%程度減少する可能性がある。

第3は中東地域の物流・輸送網の混乱だ。 港湾荷役や海上輸送の停滞で、中東向け輸出の過半を占める自動車輸出が滞っている。大手自動車メーカーにはすでに減産の動きが出ている。さらに輸送網の混乱は観光分野にも波及し、中東や欧州からの訪日需要にも悪影響が出始めている。

問題の深刻さは、「早期停戦が実現すれば被害は限定的」というシナリオが現実味を失いつつある点だ。むしろホルムズ海峡封鎖の長期化は「テールリスク」ではなく「リスクシナリオ」として認識すべきだとの見方もある。停戦の時期が1四半期遅れるごとにGDP下押し幅は▲0.1〜0.2%ずつ拡大していく。長期化すればするほど、日本経済の減速リスクは高まる一方だ。

日本株が直面する「ねじれ現象」に要注意

注目すべきは、日本経済の実態と株式市場の間に生じている「ねじれ」だ。

野村総合研究所の木内登英氏は、日本株が上昇している背景を3つ挙げる。

第1は米国株高の影響だ。ホルムズ海峡封鎖は日本にとっては大打撃だが、世界最大の原油生産国である米国にとってはむしろ交易条件を改善させる。原油価格上昇に強い米国での株高が、原油高に弱いはずの日本株を押し上げている側面がある。

第2は円安効果だ。原油高がドル買いを進め、結果として生じる円安が輸出企業の収益期待を高めている。これが日本株の下値を支えている。

第3は金融政策だ。イラン情勢を受けて、日銀の早期利上げ観測が急速に萎んだ。金融緩和継続への期待が株価を押し上げる要因の一つになっている。

しかしブルームバーグの分析はここに警鐘を鳴らす。年初に好スタートを切った日本株のパフォーマンスは悪化している。3月以降のTOPIXは5.4%安。為替変動を考慮した円建ての米S&P500(5.2%高)やMSCIアジア太平洋指数(日本除く、▲0.2%安)などに大きく見劣りしている。

木内氏の指摘はさらに鋭い。日経平均株価はもはや「日本経済を映す鏡」ではなくなっているのではないか。日本経済の実態や企業全体の収益・経営環境を、現在の株価は適切に反映していないとの懸念を示している。

「耐久戦」のはざまでどう備えるか

イラン経済は当面持ちこたえ、トランプ政権も海上封鎖を継続する構えだ。双方が「折れる」気配は当面見えない。この膠着状態が長引けば長引くほど、エネルギー価格への上方圧力は持続し、日本の貿易収支は悪化し、実体経済はじわじわと削られていく。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングのシミュレーションが示す通り、早期停戦という「楽観シナリオ」が実現すれば日本経済への打撃は限定的で済む。しかし現実はその方向に進んでいるとは言い難い。停戦の時期が遅れるごとにダメージは積み上がっていく。

株式市場はしばらく「ねじれた」動きを続けるかもしれない。しかし日本経済のファンダメンタルズと株価の間に広がるギャップが、いつ修正されるタイミングを迎えるのか。そこを冷静に見極める目が必要な時期に入っていると言えよう。

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