碧い月 -Ⅸ- | 想いのかけら

想いのかけら

ユンジェは永遠


キスなんかじゃない、まるで人工呼吸みたいな口づけ。


なのに、息苦しさは増すばかりで。


そのくせ身体は、火を点けられたみたいに熱くなっていく。


前に、


”お前は乱暴な方が感じる”


――と、複雑な、それでいて興奮を隠し切れないような顔でユノに言われた事を、ジェジュンは思い出した。



「・・・ジェジュア・・・」



口内を、聞き分けの無い子供のように暴れ回る舌とは裏腹に、呼ぶ声は甘く切ない。


ジェジュンの唇に残る他の男の痕跡を、自分の色に塗り替えたいとでもいうように繰り返される口づけ。

呑み込まされた唾液は、どちらのものか判らないくらい混ざり合って、互いの口中で卑.猥な音を立てた。


こんな口づけを受けた後は必ず目元にもキスをされて・・・それで、自分が泣いているのだと気付かされる。



「・・・・・ユノ・・・」



涙でぼやけた視界は、熱病に浮かされたようなユノの顔を映し出した。


見下ろしてくる瞳が欲.望を懸命に堪えているように見えて、胸が張り裂けそうになるのはいつもの事だけど―――。



「・・・ユノ・・」



今日はいつもよりもずっと切ないよ・・・。



「寂しがりやのお姫様は二人がかりで愛してやらないとな・・」



そんな意地の悪い言葉を、苦しそうな顔で口にするユノから目が離せなくなる。



「―――ジェジュン・・・」



囚われたようにユノだけを見つめる瞳に、もう一度、今度は甘い唇が落ちてくる。



「いっぱい愛してやるから」



何かを振り切るように頭を振って、ジェジュンの視線から目を逸らしたユノが、

ドアの傍に佇む、もうひとつの影に向かって顎をしゃくった。



それは、何かが始まる合図のように思えた。



「・・・あっ・・・」



その瞬間、背筋を駆け抜けた思いもよらぬほどの嫌悪感が、ジェジュンの身体から温もりを奪った。

血を凍らすような冷たい風が、胸の奥に向かって吹きすさんだような気がする。



「・・・だめ・・・ユ・・・」



冷たくなった全身は瞬く間に震え始めて、ユノの名前を呼ぶことすらままならない。

それでも、怖いものから身を隠すみたいに、懸命にユノの胸に縋り付いた。



「ジェジュン・・?」


「・・・・や・・・やだ・・・ユノ・・・」



―――突然、変わった自分の変化に、一番戸惑っていたのはジェジュン自身だ。



ユノを愛したい。


それは嘘偽りの無い気持ちだった。


たとえ、100人いたってユノだったら愛してあげられる――それも本当だった。


だけど


愛されるのは、一人じゃないと嫌だ。


そんな理屈の合わない、自分でも矛盾してると思う理由で身体は震え続ける。


愛したいのは”ユノ”で。


自分が愛されたいのは、唯一人のユノで。



「ジェジュン、怖いの・・?」



それはきっと、目の前に居るいつも自分が他の誰かと親しくしたら機嫌を損ねるユノ・・・。


ぎゅっ・・と温かい胸に閉じ込められて、ようやく震えが止まる。



「・・・俺を何人も欲しがった、欲張りジェジュンはどこいった?」



そんな意地悪な言い方で人を責めるくせに、抱き締めてくる腕は痛いほど優しくて。


いつもの温もりに包まれて甘えたくなった心は、溢れ出す本音を視線に乗せたらしい。



オレを他の男に抱かせないで・・・



瞳を覗き込んだユノが、どこか困ったようにそっぽ向きながら



「お前ね・・俺はまだ許したワケじゃないの、判ってるだろうな」


「・・・だって・・・ユノだから・・オレ・・・」


「でも抱かれるのは嫌だったんだろ、気持ちよりも身体が正直だったんだ。

――だいたい、お前は考えが浅はかすぎる。そもそも俺が二人いる時点で

大騒ぎするのが普通だろ?それをだな、俺の言う事にも耳を貸さず―――。」



流暢に繰り出される説教を聞き流しながら、ジェジュンはユノの胸元にもぞもぞと身を沈めた。

ユノの説教は長いから、取り合えず居心地のいい場所に身を置きたかったのだ。



「ジェジュン、聞いてるのか?」


「・・・聞いてる・・・」


「―――あいつ、いつからここに居たんだ?」



うーん、と考え込んでみたものの、”ユノ”が現れた時には、自分はかなり酔っていたから記憶は曖昧だ。

正直に《判んない》と返事をしたら、どうしたものかとユノも考え込んでいる。




「・・・・ユノ・・・さっきから・・こんなになってるのに、平気なの・・?」


「バカ、今、その事に触れると責任を取って貰うぞ」



ユノのあまりにも真剣な表情と、昂ぶった身体のギャップがおかしくて、つい触れてしまった。


身体が重なっているのだから、どうしたって判ってしまう。



「・・・・・責任はジェジュンにしか取れないからな」



そう言われてしまうと、頷くより他に、自分に出来る事はない。



ジェジュンの酔いの残る頭が導き出した答えは、今度こそ、ユノの気に入るものになる筈だった。












つづく