マンションを訪れた時から覚悟はしていた筈なのに
『いたっ・・!』
身体中を撫で回す腕に思い切り噛み付いた。
『・・・・ちょっっ!・・・痛いっ・・・・マジで痛いから!!』
シーツの上に横たわった僕に大きな影が覆い被さって来て、それは確かにユンホだったけれど。
『うあっ・・』
苦しそうな声が耳元で吐き出された。
ユンホの重みが全身に掛かって来て、震える僕を抱き締めた。
-----無事なほうの腕だけで。
『・・ってぇ!・・・何これ、マジいてぇ!』
腕の中に僕を捕らえたままユンホは痛がってる。
強張った身体からは、薄っすらとお日様のような体臭が立ち昇った。
どうしてこの腕は僕をぶたないんだろう。
一週間前に会ったばかりの意地悪で高飛車な妹の恋人。
あの時も、妹の家庭教師だった男も噛み付いた僕から無理やり自分の腕を取り戻すと思い切り殴りつけて来た。
自分の意のままにならなかった無力な子供を罰する為に優しかった仮面を脱ぎ捨てて。
『・・・ぃ・・た・・・・・かった・・・』
ハァと大きく息を吐き出したかと思うと、ユンホの身体から力が抜けていくのが判った。
全身が心臓になったように激しい鼓動を打つ僕の身体に長い両腕が巻き付いて来る。
その時になってようやく、噛み付いたユンホの腕を自分が解放していた事に気がついた。
それからどれだけの時間が経ったのか僕を抱き締めたユンホの身体が細かく震えだしたかと思うと、耳元で可
笑しそうに笑い出した。
『・・・プッ・・・俺・・・抱こうとした相手に、こんなに嫌がられたの初めて・・・・』
そう言った途端、自分の言葉に受けたのか笑い声は一層大きくなった。
『・・くっくっ・・あっはっはっ!!・・・あ~、おっかしぃ・・・・・ ・・・・あ、いててっ!』
そろりと僕の身体から引き抜いた腕が紫色に腫れ上がっている。右の手首に近い辺りにくっきりと歯形を付けて。
何か言わなくては、と思っても何をどう言えばいいのか判らない。
『やばい』
自分の腕を見たユンホが困ったように僕を見た。
痛い筈の腕を何もなかったようにヒラヒラさせたかと思うと
《これじゃ続きが出来ない》
-------そう言って僕の顔をゆっくりと撫でた。