橋本健二氏による著書『階級都市』(ちくま新書)を読んだのですが、とても面白かったです。
近代以降の東京の下町と山の手の格差について、過去の文士たちがどう描いてきたかを鮮やかにプロットした第三章「異国の風景」を読むだけでも価値があります。
またいくつかの街を実際に歩いてみる第五章「階級都市を歩く」は、常にその町のおすすめ居酒屋を紹介するなど、ややゆるい雰囲気。ちょっと「モヤモヤさま~ず」みたいで面白かったです。
でも一番参考になったのが、サッセンとカステルが主張する都市の「ジェントリフィケーション」が、東京の下町で今まさに起こっているという見解です。
昔町工場だったり、労働者のすみかだったりした場所が、グローバル化で用無しになります。しかし立地的には都市の中心部に近いため、再開発で豪華高層マンションを作れば、エリートたちのすみかに様変わりできます。このような、洗練化したエリアに様変わりすることをジェントリフィケーションといいます。
昔下町だということで金持ちが住みたがらなかったエリアでも、ジェントリフィケーションによって住み出し、山の手っぽい雰囲気になる。そんな状況です。
以前上海の街について勉強していたとき、歴史的背景から蘇州河の北側や旧フランス租界の南側は発展しないと思っていましたが、今やすっかり発展しています。これはジェントリフィケーションという言葉ですっかり説明できるというわけです。
さらにおもしろかったのが、今から140年前の1872年にエンゲルスが同様のことを『住宅問題』という著書で書いていたことでした。以下、孫引き。
現代の大都市の成長は、その若干の地域、とくに都心地域の土地に人為的な価値をあたえ、それはしばしば法外に騰貴していく。この土地の上に建てられている建物は、土地の価値を高めずに、むしろ引き下げる。これらの建物は、変化した状況にもはや適合しなくなったからである。人々はそれを取り壊して、かわりに別の建物を建てる。とりわけ、都心にある労働者住宅について、こういうことが起こる。労働者住宅の家賃は、どんなに人口が過密になっても、けっして一定の最高限をこえて上昇することはできない。あるいは、こえるとしても、ごく緩慢にしかこえることができない。そこで、これらの労働者住宅をとりこわして、そのあとに店舗や商品倉庫や、公共建物を建てるのである。(中略)その結果、労働者階級は都心から郊外におしだされ、労働者住宅や、一般に小住宅は少なくなり、高価になり、しばしばまったくみつからなくなってしまう。なぜなら、こうした事情のもとでは、高価な住宅のほうが投機の場としてずっとうまみがあるので、建築業者が労働者住宅を建てるようなことは、まったくの例外になるのである。
東京のみならず中国の都市でいま起こっていることを、こんな昔にきちんと説明していたとは、まったくの驚きでした。
階級都市: 格差が街を侵食する (ちくま新書)/橋本 健二

¥882
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近代以降の東京の下町と山の手の格差について、過去の文士たちがどう描いてきたかを鮮やかにプロットした第三章「異国の風景」を読むだけでも価値があります。
またいくつかの街を実際に歩いてみる第五章「階級都市を歩く」は、常にその町のおすすめ居酒屋を紹介するなど、ややゆるい雰囲気。ちょっと「モヤモヤさま~ず」みたいで面白かったです。
でも一番参考になったのが、サッセンとカステルが主張する都市の「ジェントリフィケーション」が、東京の下町で今まさに起こっているという見解です。
昔町工場だったり、労働者のすみかだったりした場所が、グローバル化で用無しになります。しかし立地的には都市の中心部に近いため、再開発で豪華高層マンションを作れば、エリートたちのすみかに様変わりできます。このような、洗練化したエリアに様変わりすることをジェントリフィケーションといいます。
昔下町だということで金持ちが住みたがらなかったエリアでも、ジェントリフィケーションによって住み出し、山の手っぽい雰囲気になる。そんな状況です。
以前上海の街について勉強していたとき、歴史的背景から蘇州河の北側や旧フランス租界の南側は発展しないと思っていましたが、今やすっかり発展しています。これはジェントリフィケーションという言葉ですっかり説明できるというわけです。
さらにおもしろかったのが、今から140年前の1872年にエンゲルスが同様のことを『住宅問題』という著書で書いていたことでした。以下、孫引き。
現代の大都市の成長は、その若干の地域、とくに都心地域の土地に人為的な価値をあたえ、それはしばしば法外に騰貴していく。この土地の上に建てられている建物は、土地の価値を高めずに、むしろ引き下げる。これらの建物は、変化した状況にもはや適合しなくなったからである。人々はそれを取り壊して、かわりに別の建物を建てる。とりわけ、都心にある労働者住宅について、こういうことが起こる。労働者住宅の家賃は、どんなに人口が過密になっても、けっして一定の最高限をこえて上昇することはできない。あるいは、こえるとしても、ごく緩慢にしかこえることができない。そこで、これらの労働者住宅をとりこわして、そのあとに店舗や商品倉庫や、公共建物を建てるのである。(中略)その結果、労働者階級は都心から郊外におしだされ、労働者住宅や、一般に小住宅は少なくなり、高価になり、しばしばまったくみつからなくなってしまう。なぜなら、こうした事情のもとでは、高価な住宅のほうが投機の場としてずっとうまみがあるので、建築業者が労働者住宅を建てるようなことは、まったくの例外になるのである。
東京のみならず中国の都市でいま起こっていることを、こんな昔にきちんと説明していたとは、まったくの驚きでした。
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