神戸の夜景が一望できる、天空の城のような家で一人暮らしをされている老婦人がいます。
足があまり良くないこともあり、ほとんど外に出ることなく、宅配などで暮しています。
退屈かなと思いきや、絵を描いたり、本を読んだり、「結構忙しいのよ」と玄人はだしの絵を見せてくれます。
宝石をこよなく愛し、全部の指に指輪をして、キラキラした指を眺めているのが好きだそうです。
誰に見せるわけでもなく・・・
ある日彼女から電話があり、[本を読んでいたら、あなたに頼みたいことをみつけたの」
中国の秦の時代を書いた本だそうです。始皇帝は不老不死を求めて、神仙の術を行う方士を全土に派遣し、薬を探させました。
沢山の方士が色々な霊薬を献上したのですが、その中には水が閉じ込められた水晶がありました。
皇帝は水入り水晶を割って、太古の水に不老不死の効果があると信じて、飲もうとしたのです。
水入り水晶はとても珍しく、また液体の量もとても少ないので、飲めるほどの水を溜めるのは無理に等しいでしょう。当時の人の苦労がしのばれます。
まさかこの苦労が私に降りかかってくるとは!
彼女は水入り水晶を探してほしいというのです。
水入り水晶は宝石のカテゴリーには入らないため、私はパワーストーンを取り扱っているお店に行きました。
何件目かのお店で、以前香港でお見かけしたバイヤーさんに会いました。中国出張から帰ってきたばかりです。
「面白いものを見つけたんだけど見る?」彼がスーツケースから出したのが、正しく水入り水晶でした。
それもアクセサリーになりうる品質です。なんてタイムリー!
傾けると透明な水晶の結晶の中の空洞に入っている液体が一緒に傾いて、存在がはっきりわかります。
小さな気泡が何億年も水の中で動いていたのかと思うと感慨深く、飽きることなく見ていられます。
「これから横浜に持っていくところだ」と言うのを無理にお願いして、分けてもらいました。
もうあと数分遅ければ、彼には会えず、水入り水晶を見ることもなかったでしょう。
「彼女が呼び寄せたんだな」そう感じて、私は急な坂を上って彼女の家へ向かいました。