リオ五輪壮行会(2016年)で金子雅紀選手と肩を組んで「磯馴松」を合唱する高橋伍郎先生

 

 出会いがあれば,別れがあるのが世の常だが,筑波大学名誉教授,高橋伍郎先生の訃報にふれて,改めて伍郎先生との出会いが自分にどれほど大きな影響を及ぼしたのか,思い知るに至った.

 

 もし伍郎先生に出会わなかったら,,,

 

 私と伍郎先生の出会いは,1981年に私が筑波大学体育専門学群に入学したときに遡る.初めて会ったときの印象は,,,と思い出そうとするが,びげの印象が強すぎて,その他の事はほとんど覚えていない.それでも水泳の専門授業や水球の部活で、声を掛けて頂いた折には、「一見おっかなそうな風貌だけど、茶目っ気があり、ユニークな先生だな~」と思っていた。

 

 その後大学院へ進学し,少し大人の付き合いをさせて頂くようになり,豪放磊落なお人柄に触れる機会が多くなると,ユニークを通り越してとんでもない先生だと思うようになった.さらに大学院修了後,体育センターに準研究員として就職し,同僚となって以降は,それこそ大学教官の枠にはとうてい収まりきらない,唯一無二の存在だと思っていた..

 

 とにかく体育センター勤務時代,強烈な個性に毎日驚かされる事ばかりで,他の教官だったら,きっと大学にはいられないだろうなと思うようなエピソードは枚挙にいとまがない.それでも誰一人,伍郎先生の悪口を言う同僚がいなかったのは,人徳のなせる技で,それ以外何者でもないだろう.そんな伍郎先生のそばにいて,私は「これは絶対見習ったほうがいいな~」と思うことが多々あり,今も実践していることがある.

 

 それは,,,

 

1)どんな時も笑顔を絶やさず、ユーモアを忘れない

 伍郎先生は,どんな時でも笑顔を絶やさなかった.色黒で立派な顎ひげを貯えた面構えに,初対面の人は面食らう場合もあるだろうが,次の瞬間,人懐っこそうな満面の笑みに触れると,そのギャップもあってか,パッと人の心を開かせる不思議な魅力をお持ちであった.

 そして,いつもユーモアを忘れず,周りにいる人を和ませてくれるのも伍郎先生ならではである.ある時,伍郎先生が霞ヶ浦横断泳イベントを企画された折,裏方として少しお手伝いさせて頂いた私は,「よくあんな汚い霞ヶ浦を泳ごうという人がいますね」と,半ば呆れて言うと,「俺達は汚水ま~(おスイマー).アオコをかき分けて泳ぐのがいいんだ~」との返答.私は二の句を継げなかったが,このお人柄だからこそ,伍郎先生を慕って,多くの人が集まるんだなと思った.

 

2)褒めて伸ばす、そして自分も伸びる

 伍郎先生にお会いすると必ず「おう!高木!!いつも頑張ってるな~」と声を掛けていただく.「あれっ?なんか頑張ったっけ?」と思うのだが,そう言われて嫌な気はしないし,言われると「なら,次も頑張るか~」という気になるから不思議である.ことほど左様に,伍郎先生はいつも人を褒めていた.

 そして,褒めるのはなにも他人だけではなかった.ある時,マスターズ水泳全国大会に出場され,後日私が「どうでした?」と聞くと,「おぅ~準優勝だった!」との返答.そこで「それは凄いですね~」と賛辞をおくると,「どうだ,凄いだろう!200mバタフライに出場し,泳いだのは2人だけだった,,,わっはっは!」.この超ポジティブ思考はどこから出てくるんだろ~と不思議に思ったものだが,こういうご時世だからこそ,伍郎先生のように,人も自分も褒めて,前向きに生きることの大切さを痛感する.

 

3)案ずるより、まずはやってみる

 伍郎先生は,とにかく何でも挑戦された.単にプール内を泳ぐのに飽き足らず,湖や海で行われる遠泳大会にいち早く参加したり,黎明期にあったトライアスロンの大会にも出場,はたまた1万米スイムマラソン大会を主催するなど,面白そうだと思ったら,とにかくやってみるというのが伍郎先生の信条であった.

 そんな伍郎先生のそばにいて,実はヒヤヒヤすることもあった.一般体育の水泳授業で,伍郎先生の補助をしている時,年明け1月最初の授業で,「今日は外プールで寒中水泳をする」とおっしゃった.私でさえ「えっ!まじで?水温は10℃もないと思うんだけど,,」と二の足を踏んでいると,「泳いでみたい奴はいけ~」との号令がかかった.仕方なく,私が一番にプールに入ったのだが,冷たいのなんって,あっという間に息が上がり,体が痺れて痛かった.私はなんとか25mを泳ぎ切り,這々の体でプールを上がり,室内プールに逃げ込んだのだが,40名の半分ぐらいの学生は果敢にも挑戦したと思う.

 学生たちは口々に「死ぬかと思った」と言っていたので,授業後伍郎先生に「学生は死ぬかと思ったと言ってましたけど,大丈夫なんですかねぇ~」と聞くと,「今まで,死にそうだと言って死んだ奴はいない.むしろ,そういう経験をしとくと,死なずに済む」とおっしゃった.なるほど!根拠ある楽観主義というか,伍郎先生の人生哲学に触れた気がして,何事も臆せず,まずはやってみることを以後心掛けている.

 

 その伍郎先生に,もう直接教えを請うことはできない.でも伍郎先生に出会って学ばせて頂いた,生きていく上での軸のようなものは今後も大切にしていこうと思う.よって直接お声がけ頂かなくとも,落ち込んだ時,迷った時,伍郎先生ならきっとこうしただろうと思いを巡らせ,笑顔で,人を和ませ,前向きに生きていこうと思う.そうしていれば,きっと天国から「おう!高木!!いつも頑張ってるな~」と言っていただけるような気がする.

 

 伍郎先生,本当にお世話になりました.天国でもきっと雲海を泳いでいらっしゃることでしょう.合掌.