スポーツに関わって禄を食む者として、様々な種目の試合を観る機会が多いが、
試合途中から涙しながら、試合の成り行きを見守ったのは、これが初めてだった。
試合終了間際、南アフリカの猛攻を、日本選手が身を挺して必死に防ぐシーンを目の当たりにし、
なぜか涙が止まらなかった。
自分でも、溢れ出る涙の理由がよく分からぬまま、ただただ祈るような気持ちで、
食い入るように画面を見つめていたが、最後の最後に日本が劇的逆転トライを決め、
勝利を決定づけた瞬間、歓喜というよりは、偉いことになったという驚きの念を禁じ得なかった。
まさに日本ラグビー界にとって歴史的勝利の瞬間であった。
同時に、私にとっても、生きている間には有り得ないと思われた一大事であった。
かく言う私、こう見えても、ラグビーファンなのである!
もちろん、コアなラグビーファンにしてみれば、こういう勝った時だけ、ファンを名乗るのはエセで、
知ったかぶりはやめて欲しいと思うのは御尤もと思う。
でも一応、ラグビー大国と言われるニュージーランドとスコットランドで暮らした経験をもち、
オールブラックスやスコットランド代表の試合も現地の競技場に足を運んで観た者として、
ラグビーの面白さは分かっているつもりである。
てことで、なんちゃってラグビーファンの戯れ言として、歴史的勝利について若干のコメントを、、、
日本ラグビーがここ数年で力をつけて来たのは、以下のIRBランキングを見ても明らかである。

その要因について、巷間で言われているのは、まずヘッドコーチのエディー・ジョーンズの手腕。
NHKのプロフェッショナル・仕事の流儀でもジョーンズ氏の名伯楽ぶりが紹介されたが、
その番組を観て一番感心したのが、ジョーンズ氏の自ら「学ぶ」姿勢と人心掌握術であった。
ジョーンズ氏は、南アフリカを世界一に導いた輝かしい経歴を持つが、
決して独善的な思考パターンに陥ることなく、
「JAPAN WAY」を標榜し、日本人の特性を活かした日本らしいラグビーの確立を目指した。
その過程で、日本人チームを率いて世界で結果を残した、WBC監督の原氏や
サッカー女子ワールドカップ監督の佐々木氏にも教えを乞い、
自らも常に学ぶ姿勢を貫いたのは、見習うべき所が多い。
さらに、ドメスティックであった選手の思考パターンをインターナショナルマインドに変貌させるため、
選手との間合いを詰めたり、突き放したりと、人心掌握に常に腐心する様子に、
チームを変革するためには、システムや練習環境だけでなく、やはり人なんだなと思い知った。
ヘッドコーチの手腕以外にも、日本ラグビー躍進の要因となったのは、スポーツ科学の貢献であろう。
ややもすると、朝5時から練習を開始し、他国の3倍練習したというスポ根的な側面が注目されがちだが、
決して量を増やしただけではなく、徹底的に質にこだわったトレーニングが選手を強くしたのだ。
たとえば新たに取り入れられたGPSを用いたトレーニング方法はよく知られているが、
それによって、しんどい練習を何時間もやったという主観的な強度ではなく、
GPSデータから、各選手がどのくらいの速度で、どのくらいの距離を走ったのか、
客観的なデータによって、トレーニングの強度を常に管理したのは、画期的であったと思う。
他には、スポーツコードというゲーム分析ソフトウェアを活用したゲーム内容の客観的評価システムも
大いに戦術向上に貢献したと思われる。
これ以外にも、今回の歴史的勝利を手繰り寄せた要因は数々あるだろうが、
いずれにしても問題は、これからである。
次のスコットランド戦では、相手だって相当日本を研究してくるだろう。
でも、スコットランドだから勝てないという思いは、選手には毛頭ないであろうし、
この勢いをかって、ぜひスコットランドにも勝利し、目標のベスト8入りを目指して欲しいと切に願う。