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「人間力」の育て方
集英社新書
堀田 力 (著)
¥714

 2002年に文部科学省から「人間力戦略ビジョン」が示されて以降、厚生労働省による「若者の人間力を高めるための国民宣言」や経済財政諮問会議による「人間力強化の戦略」が相次いで提案されるなど、政策として『人間力』を向上させようとする動きが見られます。

 一方、実業界においても産業構造の変化に伴って、工場の海外移転が進むなど、産業の空洞化が懸念される今日、日本が今後も持続可能な繁栄を続けるためには、人的資源のさらなる掘り起こしと活用が急務とされています。

 そのような状況下、キーワードとして「人間力」がクローズアップされ、その向上に向けた様々な提言や取組みが目下進行中なのです。

 しかし『人間力』という言葉自体の定義は、多分にあいまいで、広く定着した概念は存在しません。堀田力の言葉を借りれば、『人間力』は、
 自分の存在を肯定してよりよく生きようとする自助の意欲、他者を尊重して助け合おうとする共助の意欲、自己をとりまくさまざまな事象(人、社会、自然など)を知覚するための知性と感性(情操)を含む、総合的な力。p.68-69
だと述べています。

  これらの定義をもってしても依然あいまいさは残りますが、底流にある思いは、「現代に生きる人間は、細分化され専門化した知識は備えているが、それらを統合し、他者と関わりあいながら、共に生きていくための知恵として活用する力に欠けている」という危機感なのでしょう。

 この危機感に後押しされ、「学校」、「家庭」、「地域」におけるあらゆる教育の場面を捉えて、「人間力」向上の必要性が声高に叫ばれつつあります。

 特に学校現場では、文部科学省が2002年に学習指導要領を改訂し、いわゆる「ゆとり教育」を導入し、その中核課題に「生きる力」をすえました。

 文科省の提唱する「生きる力」は、「人間力」に通じますが、堀田氏は、「生きる力」について次のようにコメントしています。

 「生きる力」というと、それは「自助」の意欲と能力だけををいっており、「共助」の意欲と能力が含まれていないのではないかという疑問が出てきます。「生きる」だけを強調すると、自分のために歯を食いしばってがんばるというイメージが浮かぶのです。
 それでは教育の目的としては、十分とはいえず、自助と共助の両方の意欲と能力をのばしてはじめて人間社会のなかでそのひとらしく生きる力を育てたということになります。p.68

 いま、マスコミを巻き込んでいわゆる「ゆとり教育」の揺り戻しが起こっています。

 学力低下の元凶は、すべて学習時間を3割削った「ゆとり教育」のせいであるとの論調がはびこっています。

 堀田氏は、そのような「ゆとり教育」をスケープゴートにすることで、子供達の「人間力」に歯止めを掛けることはできないと警鐘を鳴らしているのです。

 最後に堀田氏は、「人間力」を育むための教育のあり方について次のように締め括っています。
 教育や子育てが成功するための基本中の基本の条件は、子どもの自尊感情です。(中略)子どもが自尊感情をもつには、その子どもの存在を親やまわりの者が愛情をもって肯定することが必要です。彼らを好ましい存在と受け入れ、個性を認め、良いところをほめるのです。p.184-185