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 25th International Symposium on Biomechanics in Sports (ISBS)が,ブラジルの古都オーロ・プレットで8月23日~27日の会期で開催された.このシンポジウムは,年に1回,世界各地で開催される.先回の2006年はザルツブルグ(オーストリア),2005年は北京,そして2004年は不開催であった.実は2004年は北京での開催予定で,事務局も開催に向けて準備万端を整えていたが,折りしもサーズが中国で猛威を奮い,渡航自粛の措置がとられていたため,2004年の開催は見送られ,2年越しの開催となる曰くつきであった.

 そもそもBiomechanica(バイオメカニクス)とは何かと言うと,Bio(生体)+Mechnics(力学)で「生体力学」とでも訳せるだろう.身体の構造や運動を力学的手法を使って解析し,身体の力学的特性や効率のよい動きとは何かを探る学問である.それにスポーツがくっついているので,特にスポーツ場面で,より速く,より強く,より美しく運動するための機序を物理的法則に照らして説明しようとするものである.よって集まる研究者の顔ぶれも現役あるいは元スポーツ選手が多く,ある種の体育会系の「ノリ」を感じさせる学会でもある.

 今回は初の南米開催で,基調講演1件,記念講演1件,Keynote Lecture7件,一般口頭発表103件,ポスター発表95件と200件近い発表があった.参加者の顔ぶれを見ると,世界各地からエントリーがあったが,やはり南北アメリカ大陸からが多い.通常,日本からの参加者も多いのだが,さすがに地理的に不便とあって今回はたった4名の参加である.

 Dr. Geoffrey Dysonの業績を記念したGeoffrey Dyson Letureの講演者には,友人でもあるエジンバラ大学のDr. Ross Sandarsが選ばれた.Dr. Dysonは,自ら英国の陸上オリンピックコーチを務める傍ら,スポーツパイオメカニクスの研究者として活躍し,多くの業績をあげた.彼の遺徳を偲んで,設けられた記念講演を担当することは大変名誉なことである.今回その名誉に預かったのは,主に水泳の研究をしてきたDr. Sandarsである.彼とは10年来の旧知の仲で,私がニュージーランドのオタゴ大学へ行くきっかけともなったし,日本で開催した学会でもゲストスピーカーとして来日した経験もある."Rock and Roll rhythms in Swimming"と題する今回の講演では,バタフライやフリースタイルにおける身体の波動動作が推進効率を上げるために役立っているか否かについてこれまでの研究成果をまとめた.コンピューターグラフィックスを多用し,大変分かりやすく,研究意欲を喚起する発表内容であったと言える.

 一般講演では,水泳,陸上,サッカー,体操の4分野でオーガナイズドセッションが企画され,それぞの分野を専門とする研究者間で突っ込んだ議論がなされた.私の専門は水泳なので,特に水泳分野の研究に関心を持って聴講したが,正直な感想を言うと,目新しさにかけるという印象である.そう毎年毎年新たな研究成果が出てくるわけではないが,全体的な傾向として,「データを取れる機器が揃っているので,分析をしてみました」と言う印象を与える発表が多かったように思う.これなら日本で開催している水泳の学会の方がレベルが高いのではなかろうか?

 そういう自分はどうかと言われると,ひとの褌で相撲をとっているようなもので,偉そうな事を言える立場ではない.今回は東工大の中島先生が作られた”SWUM"という非定常の流体力も考慮したシミュレーションモデルを使って,推進効率の問題に取り組んだのだ.ほとんどが中島先生の研究成果の上に乗っかっている.しかしこの"SWUM"というシミュレーションモデルは優れもので,私がはじめてお目にかかったときは直感的に「すごい!」と感動した.さらに中島先生はそのソフトウェアをフリーで提供してくれると言うのにはさらに驚いた.これは使わない手はないと,取り組んだのだが,いかんせん”やっつけ”でやったので,底が浅い.

 でもブラジルまで来た甲斐はあった.ポスター発表中はさしたる関心を示してくれる人は少なかったが,先出のDr. SandarsとSWUM"を使って共同研究をしようということになり,今後の発展が期待でそうである.負け惜しみを言うつもりはないが,学会とは自分の業績をひけらかす所でなくて,コネクションを作る場であると思っている.そういう意味では一定の成果が上がった学会だといえる.