RNA製剤注射薬といえば新型コロナワクチンで有名になったが、その類似薬、SiRNA製剤が医療業界では密かに脚光を浴びつつある。

遺伝性アミロイドーシスや肝性ポルフィリン症といった特殊な疾患では既に広く使われ、大きなインパクトを与えている。

コレステロールの高い患者さんは日本にもたくさんいるが、ここでもこの薬剤が普及しつつある。一般的に高コレステロール血症といえば内服治療になるが、心筋梗塞を起こした人の再発予防などにはかなり厳しく悪玉(LDL)コレステロールを下げることが求められる。通常の内服薬を目一杯使っても下がらない場合には注射薬の出番となる。

 

PCSK9阻害薬という2週または4週に一度の注射が数年前から使用されるようになり、全ての患者と言ってよいほど例外なく劇的に下がるようになった。さらに最近では半年に1回(最初のみ3カ月後)の注射が使用されるようになり、患者も医療者もかなり負担が減った。この半年に一度の薬剤がSiRNA製剤である。

 

 

さらに今後は高血圧やアルツハイマー型認知症などにも同種の薬剤の臨床試験が進行中である。

 

 

この薬剤、現在は非常に高価な薬となっている。その理由として①開発費が巨額であり、製薬会社がそれを回収する必要があること、②単一製薬会社の独占状態となっていること、が挙げられる。なので、「ただコレステロールが高いだけ」の患者さんが医者にかかって「半年に一回の注射にしてもらえませんか?」と言っても、いまは断られる(保険が通らない)。

ただ長期的にみると、①開発費を回収できた段階で政府から薬価が下げられる、②他社が同種の薬剤を開発して競争原理が働くと薬価が下がる、というのは過去のケースから明らか。治療効果や安全性が担保されるようになり、薬剤のバリエーションが増え、ガイドラインが変わり保険適応がつくと、手軽に処方されるようになるのは間違いない。「毎日薬を飲むのと半年に1回の皮下注射(一瞬で終わる)とどちらがいいですか?」と聞かれると後者を選ぶ患者が増えるのではないだろうか。

 

高血圧やアルツハイマー型認知症に対する薬剤の効果や安全性が証明され、一般的に使われるようになり、他の病気にもどんどんこのような薬が開発されると・・・医療は大きく変わる。

 

患者を診て血圧や血液データをみて内服薬を調整する、という医者の仕事はなくなる。

 

「またいつもの薬を出しておきますね!」で商売をしているクリニックの仕事も激減する。

 

まあ医療は常に「イタチごっこ」なので、新たな問題が出てくることは間違いないが。