マジすか学園F☆#3ー5☆
「ああああああああああああッ!」
「終わりだ」
その瞬間。
ネズミが渾身のちからを込めて放った拳は、市川ミオリの顔をすり抜けるように、空を切った。その勢いがそのまま、自分自身の顔面に、返ってくることになるとは、ネズミも、思いもしなかった。悪魔の拳の激しい衝撃が、無防備なネズミの顔面に突き刺さった。
勢いよく、後方に吹き飛ぶネズミ。コンクリートの壁に、全身を強烈に打ち付けられ、反動で、倒れる。
悪魔の拳を持つ矢場久根の総長は、冷ややかな笑みを浮かべ、言う。
「これが、『奥の手』か─、ただの玉砕だったな…、無謀以外の何物でもない。残念だが…、その程度の、ひ弱な拳で、“矢場久根”が、堕ちることは…ない」
意識の混濁した状態のまま、ネズミは、あえいでいた。
(“あいつ”を…、“てっぺん”に…、“あいつ”なら…、必ず、なれる…、“てっぺん”に…、そして、それ以上に…)
「これで、わかっただろう…、いまなら、まだ、許してやっても構わない…、貴様の情報網と資金力は、今後も必要になるからな」
手加減。
それでも、相当のダメージを受けたネズミは、
焦点の合わない視線を漂わせ、壁に背を預け、なおも、立ち上がろうとする。
「最後の…最後まで、諦めない…、あっしは…マジ女の、生徒…、だから…、死ぬまで、“マジ”を貫く…、悪魔に魂は、売らないっスよ…」
「変わった人種だ」
悪魔が、首を狩る鎌をもたげるように、市川ミオリは、血に染まる拳を振りあげた。
ネズミの意識を刈り取る、一撃。
防御する両腕を衝撃が、通り過ぎ、ネズミの頭が、大きく揺れた。
それでも、
両足を踏ん張り、留まる。
さらに、追撃。
何発も。何発も。
しかし、
何度、殴られようと、
倒れない。決して。それが、ネズミの“マジ”だから。
そんななか。
(幻聴…?)
もう、目も見えない。痛みも感じないネズミ。しかし─
(聴こえる…、そんなはず…ありえない…)
思わず、笑ってしまいそうになる。
(近づいてくる…、“あいつ”の鼓動が…、足音が…、息遣いが…)
「気でも、ふれたか…」
異変に気づき、
市川の拳が、止まる。
ネズミの
口元に自嘲の笑み。
(ありえない…、この場所は、知らないはず…)
その様子に、市川も、こころを決めた。
「使えない“道具”は、壊して捨てる。それが、わたしのやり方だ」
そう言うと、市川ミオリは、悪魔の拳を振り上げた。
そのとき─
扉を、叩きつける音と共に、誰かの叫び声が響いた。
「やめろっ!」
ネズミの耳に、その声が、はっきりと聞こえた。
“あいつ”の声が。
「ジュリナ…」
地下室の入り口には、息を切らせ、肩をいからせた松井ジュリナが、いた。
ネズミの視界は、ほとんどつぶれてる。だが、声が、存在感が、ジュリナの到来を物語っていた。
「松井…、そうか、これが、『奥の手』か…」
違う。ネズミは、疑問を口にする。
「どうして、ここが…?」
「お前の声が、聞こえた」
いつの間にか、
市川ミオリと
ネズミの間に割って入って、ジュリナが、ささやくように言う。
「やめろ…、そんな、クサイ台詞…、いつの時代の…」
「ずっと、聞こえてた。お前の…心の悲鳴が…、いつも」
「ジュリナ…(そうだった…、こいつは、こういうやつなんだ…、いつだって、真っ直ぐで…)」
「ネズミ、お前は、過保護すぎるんだよ。わたしは、負けない。一緒に、“てっぺん”獲ろうって、誓っただろ」
ジュリナは、勢いよく
振り返り、市川ミオリを見据える。
「今日こそは、はっきりと、決着をつけようぜ!市川ミオリ!」
「いいだろう。ただし、その決着は、貴様の敗北という結末だがな」
直後。
鋭い動きを見せたのは市川ミオリだった。悪魔の拳が、ジュリナの顔面を襲う。至近距離での先制攻撃。
かわそうとしても、瞬時にその方向を読み取り、確実に当てることのできる悪魔の拳。
その拳を、ジュリナは、さらに、紙一重でかわし、逆に、自分の拳を市川ミオリの頬に、叩き込んだ。
驚く市川が、一定の距離をとる。
ネズミも、その光景を見て、驚きつつも、得心するように頷く。
(ジュリナ…、お前は、どんどん、輝きを増していく…、ただの石ころだと思っていたのに…、まるで原石が磨かれ、眩しい光を放つ…、そう、ダイヤモンドのように)
市川ミオリも認めざるを得ない。
「さすがは、マジ女の次期“てっぺん”候補といったところか…」
「それは、違う!」
すかさず、
ジュリナが、言い放つ。自身を表明するように。
「わたしのいる場所が、いつだって、“てっぺん”なんだ。そして、わたしたちは、“それ”を超えていく!」




















