マジすか学園G5☆#1ー4☆
─2年前 河川敷。
中学卒業を目前に控えた二人の少女。
『はぁ?“マジ女”に風紀委員をつくるだって?』
実年齢(中学3年)より
さらに幼く見える小顔のかわいい少女がプッと吹き出し、長く艶やかな黒髪を振り乱しながら、草の上で笑い転げる。
その姿を冷ややかに見ながら、
『いや、本気なんだけど…』
豪奢に細かくウェーブのかかった茶系に赤混じりの髪の少女が、大人びた表情を崩さずに言った。
『別に、生徒会があるから、それで、いいんじゃないの?』
『ダメだ。いまの生徒会は、腐りきってる。十年くらい前、当時の生徒会長が、突然、ラッパッパに入っちまったことから、生徒会の活動は、ほとんど、有名無実化していったんだ。生徒の悪事を黙認し、生徒会予算を食いつぶす堕落した組織に』
『へぇ、そうだったのか』
『まあ、腐りきってるのは、生徒会だけじゃないがな。自由なお前には、わからないだろう』
含む言い方で、小顔の少女のことをはぐらかすのは、いつもの癖だった。
『というわけで、わたしは、風紀委員会をつくろうと思うんだ。腐敗の進んだマジ女を浄化し、そして、“てっぺん”を目指す。かつての憧れのマジ女を取り戻すために』
『そっか。それじゃあ、わたしは、吹奏楽部(ラッパッパ)に入って、マジ女の“てっぺん”を目指すことにするよ。それが、“あのひと”との「誓い」だから』
『ふっ…、どっちが先に、マジ女の“てっぺん”に辿り着くか。勝負だな』
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
─現在
「動くな!届出のない喧嘩は、許可されていない!速やかに、投降しろ!」
三つ編み黒髪の風紀委員の
その言葉に、与田は、手を頭に組むと、あくび混じりに、背を向ける。
「あーあ。また、眠くなってきたわ。それじゃあ、また遊ぼうぜ。ニャギ」
「えっ?」
脱ぎ散らかしたショートブーツを拾って、与田は、歩き出した。
そのとき。
空気を切り裂く音がした。
太陽の光に煌めく銀色のモノが伸長する音。
その銀色の特殊警棒を、短髪の風紀委員のひとりが次の瞬間、振りかぶっていた。そのまま、与田ユウキの背中目掛けて振り下ろす。
誰もが、虚をつかれた。
そんななか、ひとり、それを察知し、動く者がいた。
左腕で、その特殊警棒を受け止めたのは、ナギだった。鋭い視線を風紀委員に注ぐ。
「貴様…
一年C組、井上ナギだな。抵抗するつもりなら、痛い目を見てもらうことになるぞ」
新入生の情報も既に把握しているのか。
特殊警棒を握る手にちからを込める風紀委員。
その姿に、怒りが込み上げる。
「ふざけるなよ。喧嘩をするのに届出だなんて、いつから、マジ女は、そんな情けない場所になったんだ?
ひとの喧嘩に勝手に割り込んで、それもこんな大人数で、しまいには、背後から無抵抗の人間を襲うなんて、何が風紀委員だ!」
ざわめくギャラリーたちの中から
ナギの背に、二人の影が、付き従う。
「そうだそうだ!てめーら、横暴すぎるだろ!」
「そうやそうや!届出なんて知らんかったし」
「サツキ…、マオ…」
「なんか、お前の喧嘩見てたら、熱くなっちまったよ。ラッパッパと同じくらい敵対したくない(関わりたくない)組織だけどな」
「ウチら、もう友達(ダチ)やもん。ガヤはもうおしまいや」
風紀委員たちが、一斉に、特殊警棒を取り出す。訓練された動き。
「貴様らのその反抗的な態度。どうやら、痛い目にあいたいようだ」
そのとき。ナギたちの
後ろから、声が飛ぶ。
振り返る
サツキとマオの肩に手を置きながら、与田は、言う。
「まあ、なんでもいいや。風紀委員(こいつら)には、関わるな。“今は”な─」
面倒くさそうに。
「─うちの部長から、言われてるんだ。風紀委員には絶対手を出すなってな」
先頭に立つ三つ編みの風紀委員に視線を向けて。
白い仮面の奥の瞳が笑う。
「いい心がけだ。今日は、このくらいにしておいてやる。執行猶予だと思うんだな。
だが、一斉浄化作戦の日は、近い。それまで、大人しくしておくことだ。井上ナギ。そして、吹奏楽部」
特殊警棒を納め、
「撤収するぞ!」「了解!」
そう言って、風紀委員たちは、
整然と、ふたたび、校舎内の見廻りに戻っていった。
マジ女に、風紀委員会があるなんて、寝耳に水だった。
とある生徒─現・風紀委員長が創設したのが一年前。入会するには、徹底的な個人調査と適性試験があるらしい。カリスマ的存在の風紀委員長をトップに、風紀委員たちは、特別な訓練を受けており、一種洗脳されているようにも見えるとのことで、ヤンキーたちは、戦々恐々という噂だった。
─校舎内
「あれ〜?さくちゃん、どこ行ったのかな〜」
ちょっと目を離した隙に
矢久保は、遠藤さくらとはぐれてしまっていた。
パタパタと変な走り方で、廊下を走る。
「おい!廊下は走るんじゃない」
長身で、豪奢なウェーブのかかった茶系に赤混じりの髪の美形の少女とすれ違う。腕には風紀委員の腕章。
「あっ!」
梅澤ミナミ。
マジすか女学園に、初の風紀委員会をつくった人物だった。
そして、現在の風紀委員長でもある。仮面は基本つけない。
「吹奏楽部(ラッパッパ)の矢久保だな」
「は、はい!」
緊張で身体が強ばる。
「部長は、戻ってきたか?」
「い、いえ、まだ、帰ってきてないみたいです」
「仕方のないやつだな。相変わらず自由だ。それなら、帰ってきたら、こう、伝えてくれ─」
矢久保が、緊張したまま、次の言葉を待った。
「─あのときの『約束』を、果たそう、と」
中学卒業を目前に控えた二人の少女。
『はぁ?“マジ女”に風紀委員をつくるだって?』
実年齢(中学3年)より
さらに幼く見える小顔のかわいい少女がプッと吹き出し、長く艶やかな黒髪を振り乱しながら、草の上で笑い転げる。
その姿を冷ややかに見ながら、
『いや、本気なんだけど…』
豪奢に細かくウェーブのかかった茶系に赤混じりの髪の少女が、大人びた表情を崩さずに言った。
『別に、生徒会があるから、それで、いいんじゃないの?』
『ダメだ。いまの生徒会は、腐りきってる。十年くらい前、当時の生徒会長が、突然、ラッパッパに入っちまったことから、生徒会の活動は、ほとんど、有名無実化していったんだ。生徒の悪事を黙認し、生徒会予算を食いつぶす堕落した組織に』
『へぇ、そうだったのか』
『まあ、腐りきってるのは、生徒会だけじゃないがな。自由なお前には、わからないだろう』
含む言い方で、小顔の少女のことをはぐらかすのは、いつもの癖だった。
『というわけで、わたしは、風紀委員会をつくろうと思うんだ。腐敗の進んだマジ女を浄化し、そして、“てっぺん”を目指す。かつての憧れのマジ女を取り戻すために』
『そっか。それじゃあ、わたしは、吹奏楽部(ラッパッパ)に入って、マジ女の“てっぺん”を目指すことにするよ。それが、“あのひと”との「誓い」だから』
『ふっ…、どっちが先に、マジ女の“てっぺん”に辿り着くか。勝負だな』
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
─現在
「動くな!届出のない喧嘩は、許可されていない!速やかに、投降しろ!」
三つ編み黒髪の風紀委員の
その言葉に、与田は、手を頭に組むと、あくび混じりに、背を向ける。
「あーあ。また、眠くなってきたわ。それじゃあ、また遊ぼうぜ。ニャギ」
「えっ?」
脱ぎ散らかしたショートブーツを拾って、与田は、歩き出した。
そのとき。
空気を切り裂く音がした。
太陽の光に煌めく銀色のモノが伸長する音。
その銀色の特殊警棒を、短髪の風紀委員のひとりが次の瞬間、振りかぶっていた。そのまま、与田ユウキの背中目掛けて振り下ろす。
誰もが、虚をつかれた。
そんななか、ひとり、それを察知し、動く者がいた。
左腕で、その特殊警棒を受け止めたのは、ナギだった。鋭い視線を風紀委員に注ぐ。
「貴様…
一年C組、井上ナギだな。抵抗するつもりなら、痛い目を見てもらうことになるぞ」
新入生の情報も既に把握しているのか。
特殊警棒を握る手にちからを込める風紀委員。
その姿に、怒りが込み上げる。
「ふざけるなよ。喧嘩をするのに届出だなんて、いつから、マジ女は、そんな情けない場所になったんだ?
ひとの喧嘩に勝手に割り込んで、それもこんな大人数で、しまいには、背後から無抵抗の人間を襲うなんて、何が風紀委員だ!」
ざわめくギャラリーたちの中から
ナギの背に、二人の影が、付き従う。
「そうだそうだ!てめーら、横暴すぎるだろ!」
「そうやそうや!届出なんて知らんかったし」
「サツキ…、マオ…」
「なんか、お前の喧嘩見てたら、熱くなっちまったよ。ラッパッパと同じくらい敵対したくない(関わりたくない)組織だけどな」
「ウチら、もう友達(ダチ)やもん。ガヤはもうおしまいや」
風紀委員たちが、一斉に、特殊警棒を取り出す。訓練された動き。
「貴様らのその反抗的な態度。どうやら、痛い目にあいたいようだ」
そのとき。ナギたちの
後ろから、声が飛ぶ。
「おい!ニャギ!それから、えーっと…、ゴンゾウに、ブンゾウ」
「誰が、ゴンゾウだ!」
「誰が、ブンゾウやねん!」
振り返る
サツキとマオの肩に手を置きながら、与田は、言う。
「まあ、なんでもいいや。風紀委員(こいつら)には、関わるな。“今は”な─」
面倒くさそうに。
「─うちの部長から、言われてるんだ。風紀委員には絶対手を出すなってな」
先頭に立つ三つ編みの風紀委員に視線を向けて。
白い仮面の奥の瞳が笑う。
「いい心がけだ。今日は、このくらいにしておいてやる。執行猶予だと思うんだな。
だが、一斉浄化作戦の日は、近い。それまで、大人しくしておくことだ。井上ナギ。そして、吹奏楽部」
特殊警棒を納め、
「撤収するぞ!」「了解!」
そう言って、風紀委員たちは、
整然と、ふたたび、校舎内の見廻りに戻っていった。
マジ女に、風紀委員会があるなんて、寝耳に水だった。
とある生徒─現・風紀委員長が創設したのが一年前。入会するには、徹底的な個人調査と適性試験があるらしい。カリスマ的存在の風紀委員長をトップに、風紀委員たちは、特別な訓練を受けており、一種洗脳されているようにも見えるとのことで、ヤンキーたちは、戦々恐々という噂だった。
─校舎内
「あれ〜?さくちゃん、どこ行ったのかな〜」
ちょっと目を離した隙に
矢久保は、遠藤さくらとはぐれてしまっていた。
パタパタと変な走り方で、廊下を走る。
「おい!廊下は走るんじゃない」
長身で、豪奢なウェーブのかかった茶系に赤混じりの髪の美形の少女とすれ違う。腕には風紀委員の腕章。
「あっ!」
梅澤ミナミ。
マジすか女学園に、初の風紀委員会をつくった人物だった。
そして、現在の風紀委員長でもある。仮面は基本つけない。
「吹奏楽部(ラッパッパ)の矢久保だな」
「は、はい!」
緊張で身体が強ばる。
「部長は、戻ってきたか?」
「い、いえ、まだ、帰ってきてないみたいです」
「仕方のないやつだな。相変わらず自由だ。それなら、帰ってきたら、こう、伝えてくれ─」
矢久保が、緊張したまま、次の言葉を待った。
「─あのときの『約束』を、果たそう、と」