マジすか学園G5☆#1ー3☆
吹奏楽部(ラッパッパ)部室─
「彼女が、噂の…『井上ナギ』だそうだ」
校庭の様子が、全て見渡せる窓際で、参謀的な役割の向井ハヅキの報告を受ける、副部長の山下ミズキは、
事の成り行きに、冷徹な視線を送っていた。
何かの始まりを予感するかのように。
「鏑矢が…放たれたか…」
同時に
本能の奥底で、ラッパッパを守らなければ、という思いにも、とらわれる。
「先程までと比べて、動作に無駄(ロス)がなくなった。ユウキのあの動きについていっている…」
ミズキが、冷ややかに、そう評する。
「確かに、このままだと、マズいかも知れないな。与田は、まだ、全然、遊び感覚だ。『野獣モード』にもなっていない」
「たった一匹の…蝶の微かな羽ばたきが…、地球の裏側に届いたとき、巨大な竜巻を引き起こすという…」
バタフライエフェクト。
「そうだな…。序盤で、悪手を指してしまったら、取り返すのに、相当、苦労を強いられる」
将棋有段者のハズキが、数手先を読み、歯噛みする。
副部長のミズキは、冷めた眼差しで、
ひとりごちる。
「井上ナギ…。それが、お前の答えなのか…」
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校庭─
荒削りな印象は否めないが、与田の動きに、ほぼ対応できるようになり始めたナギ。与田の変則的な攻撃に対しても、無駄な動きを極力減らし、正しく、最善で、それでいて最短の動きで、受け、流し、躱す。さらには、自身の拳も相手に当たるようになっていった。それでも、疲労の色は見え隠れしている。
与田が、ナギの動きの変化に興味を示し始める。
「お前、名前は?」
「井上…ナギ」
そのとき、心配そうに見守るサツキとマオが、
「おい!ナギはな、今朝、遠藤さくらとも派手に闘(や)りあってんだよ!それも、いい勝負だったんだ!途中で、賀喜遥香に止められたけどな!」
「そーや、そーや!って、ウチら、ただのガヤになってへん?」
「ふーん。関係ねーな」
そう言うと、
与田は、
おもむろに、座り込むと、レザーのショートブーツを脱ぎ始めた。白い素足があらわになる。野獣モード突入。本気のラッパッパに─。
与田は立ち上がると、ぴょんぴょんと軽く飛び跳ねる。
「行くぜ!」
与田の動きが、さらに速くなった。
ナギは、一瞬で、見失ってしまう。
いつの間にか、空中にいる。
裸足の与田の跳躍は、いままで以上の高度に達していた。
そして。
全体重の乗った拳が、ナギの顔面に振り下ろされた。
「っ!」
地面に叩きつけられるように、うつ伏せに倒れ込むナギ。口の端から、流れる血。
「そんなもんか?そんなんで、『階段』のぼるつもりか?」
「はぁ…はぁ…、」
地面についた
手に力を込め、
「ふ…ざけるな…。わたしは…、“てっぺん”に…」
起き上がり
立ち上がる。強く。
「“てっぺん”に、なるんだッ!」
(『ナギ…、ごめん…。お前は…、わたしみたいに…なるな、よ…』)
一瞬。救急車で運ばれていく親友(マブダチ)の顔が脳裏をよぎる。
ナギは走り出した。
ラッパッパ四天王─与田ユウキに向かって─。
右の拳を、思い切り握りしめ、力いっぱい、手を伸ばす。
その拳は、
与田の顔面に、見事に、炸裂した。
「──?」
(避けなかった?)
与田は、強烈に吹き飛んで、
仰向けに、すべるように、倒れこんだ。
「やったぜー!ナギ!」
「ナギやん!最高やー!」
サツキとマオ、さらに、周りの生徒たちも盛り上がる。
しかし、与田は、ゆっくりと、両手を肩の上に持っていき、脚を上げたかと思えば、
跳ね起きた。
そして、そのまま、ナギの眼前まで、歩いてくる。
「フッ…、まぁまぁだな─」
微笑み。元々、恨みつらみがあるわけではない。与田は、ナギの瞳の奥に、何かを感じ取っていた。
「─でもな、言っとくけど、“てっぺん”は、もっと、めちゃくちゃ高いぜ」
ナギも笑う。
「ああ…。そう…だろうな」
ラッパッパ四天王の実力を見れば、
推して知るべしか。
そのとき。
ピピーッ!
突然、校庭に、けたたましい警笛が鳴り響いた。
それに続き、バタバタと
白い無表情の仮面をつけ、腰には警棒を携え、左腕には、『風紀』と書かれた腕章をつけた生徒たちが、あらわれた。十数人はいる。
「やばい!風紀委員だ!」
周囲の二、三年生は、その存在を、よく知っていた。
校内の
風紀を乱す者たちを取り締まる集団。強行な手段で行われる取り締まりは、ヤンキーたちにとっては、目の上のタンコブ的な存在であり、マジ女にとっても、異色の集団であった。
仮面をつけているため、個々人が何者なのかということや集団の規模などは、ほぼ謎に包まれている。
それは、闇討ちを防ぐ目的もあった。
三つ編みでお下げ髪の風紀委員のひとりが、前に進み出る。
「動くな!届出のない喧嘩は、許可されていない!速やかに、投降しろ!」