マジすか学園GX☆1ー5☆
次の瞬間で、すべてが決まる。
前田と、総帥、
二人の考えは、一致していた。
その二人の最後の激突を前に、
救命ボートの脱出準備を整え、その行く末を見守るアヤメ。その間も、船は揺れ、火の勢いは増し、黒煙が、熱風に運ばれてきていた。気が気ではない。
前田は、左手首の形見を、意識する。
「みなみ…、そして、みんな…、ちからを─」
熱い
風が吹いた。
前田の背中を、後押しするように。
その強風に、乗り、前田が動く。
一瞬で、薮下シュウの懐に入り込み、左下方から、斜めの軌道で、再び、“龍神”が、今度こそ、確実に、薮下シュウに噛み付こうとする。
その龍の顎は、
今度こそ、と、顔面ではなく、面積の広い腹部(ボディ)に狙いを定めていた。
しかし、
前田の─文字通り、全身全霊を込めた拳─“龍神”は、再び、天に昇ることはなかった。
なぜなら、
薮下シュウの、腕をクロスしたガードに、完璧に、受け止められてしまったからだった。
読まれていた。
動きの止まる前田。
これほどまで、完全に、受け止められるとは。
そのとき。
総帥の拳が、振り下ろされた。
「終わりや!」
という言葉を言い終わる前に─、
総帥が拳を振るう、まさに直前だった。
前田の“右”の拳が、総帥の顔面を打ち抜いていた。
まさに、突風。
目にも止まらない拳。
そこまで、前田は、この流れを読んでいたのか。それとも、無意識だったのか。それは、まさに、“風の神”の仕業だったのかもしれない。
前田の渾身の一撃は、総帥の身体を、大きく、吹き飛ばした。
激しい水しぶきが、あがる。
前田は、立っているのも、不思議なくらいではあったが、倒れた総帥のほうに、一歩ずつ、一歩ずつ、近づいていった。
「ゴホッ、ゴホッ…、わたしは…、ずっと…、強いやつを…、待っとった…」
誰かに、打ち砕いてもらいたかった。
天を仰いだままの薮下シュウ。
「そやけど…、いつも、わたしの勝ちやった…
わたしを倒せるやつは…、おらんかった…、“高橋みなみ”なら…、わたしを倒してくれるかも…、そうやなくても…、何かが、変わる…そう思った…」
総帥の語調が、突然、変わる。嗚咽するように。
「なんで…、もっと、早く…、来てくれんかったんや…、前田…」
自分自身を、完膚なきまでに、壊してくれる者を待っていた。破壊の神が、破壊されることを望む皮肉。
肉体だけではなく、心情をも、理解し、それを打ち砕くことの出来る者を─。破滅願望(死にたがり)の破壊神。
「過去には、決して、戻れないんだ。亡くなった人間が、生き返ることもない。わたしたちは、未来(あした)に向かって、生きていくしかないんだ!」
甲板上の、水かさが、増してくる。
「前田!急げ!」
救命ボートに、乗り込みながら、アヤメが、叫ぶ。
「前田…、いまからでも…、遅ぅないんかな…」
「そうだ!人生で、遅いなんてことはない。さあ」
前田が、手を伸ばす。
「─わたしの…、負け、や」
総帥の手が、前田の手をつかもうとした。
そのとき。
またしても、
爆発が起こる。
最悪の
連鎖だった。
爆音と爆風が、交互に繰り返される。
海水は、うなりをあげ、暴れ狂う。
巨大な豪華客船にも、限界が来ていた。ついには、不格好に、二つに割れ、ゆっくりと着実に沈んでいく、もはや、客船と呼べないようなもの。
同時に、
甲板には、海水が、大量に流れ込んできていた。前田と薮下の二人が、あっけなく、のみこまれる。その勢いで、アヤメだけの乗った救命ボートが、木の葉のように流されていった。
「前田ぁああああああああああ!」
数瞬の後。
ひとしきり、
爆風が、おさまった頃。
アヤメが、全方位くまなく、海上を見渡す。
しかし、
二人の姿は、その影すらも、
彼女の視界から、完全に消え去ってしまっていた。