マジすか学園F☆(特別コラボ編)
Mar. 25 in New York City
深夜。
街灯もほとんどなく、
分厚い雲に覆われ、月明かりすらない真っ暗な
ニューヨークの貧民街を、
漆黒の特攻服に長い黒髪を、冷たい夜風になびかせた、ひとりの少女が、決意を込めた瞳で、歩みを進めていた。
その少女は、観光客はおろか、自国の人間すらも、ほとんど足を踏みいれないスラム街(こんなところ)に、まったく、似つかわしくないほど、可愛い顔立ちの日本人(ジャパニーズ)だった。
そして、向かう先には、地元警察すらも、二の足を踏む危険極まりない“区画(ブロック)”があった。闇がさらに色濃くあらわれる。暗部。
路上に蹲った褐色の肌に白い髭の老人が、道往く少女に声をかける。
「お嬢ちゃん、そこから、先へは行かんほうが身のためじゃ…、命がいくつあっても足りん…、世の中、まだまだ、捨てたもんじゃないぞ」
「別に…、自殺願望があるわけじゃない。ただ、ひとを探しているだけだ」
少女が、毅然とした態度で応えると、
白い髭の老人は、首を振った。
「人を探しとるなら、なおさら…“そっち”へ行っても無駄じゃ…、そこへ入った者は、とっくの昔にあの世へ行ったか…、もしくは、別人のようになっとるか…、まぁ、どっちにしても似たようなもんじゃが…」
少女は、
訳知り顔の老人に、写真をつきつける。
太陽のような笑顔をした少女の姿がそこにはあった。
その写真を見て、老人は再び、首を振った。
「Thanks…」
少女は、硬貨(コイン)を親指で弾き飛ばすと、何の躊躇もなく、立ち入り禁止区域へと、歩き始める。
「Darkness is my ally.(闇は…味方だから…)」
そう呟くと、
そのまま、黒い特攻服の少女は、闇に溶けるように消えていった。
人気のない裏通りを、
しばらく、歩いていると、いきなり、少女の前に、闇が切りとられたかのように、大きな影が現れた。
ジーンズに革ジャン。青系のバンダナをした金髪碧眼のストリートギャング風の少年が、巨体を揺さぶりながら、近づいてくる。少年は、ガムを噛みつつ、少女に声をかけた。
「こんな時間に、こんなところに、遊びに来ちゃイケナイねー、BABYちゃん」
「…人を探しているんだが」
「こんなところに、運命の男(ひと)なんか、いねぇぜぃ!とっとと家に帰って、あったかいミルクでも飲んでなって!さもなきゃ、どうなっても知らねぇぞ!こんなふうに!」
と、言うやいなや、少女の腕を強く掴んだ。
「そうか…、言葉が理解できない上に、しつけの出来てない猿だったか…、それは失礼した…」
冷静に、
少女が、腕をふりほどく。
「ちっ!言うじゃねーか!おれたちのことを知らないんなら、教えてやろうか!この“ブロック”でも最強の組織(チーム)のことをな!」
少年は、
分厚い刃の、殺傷能力の高そうなナイフを取り出した。峰の部分にはセレーション(鋸刃)がついた、いわゆるサバイバルナイフをお手玉でもするかのように、クルクルと扱う。
「問答無用といったところか…」
「No holding back now.It's all or nothing!
(生きるか死ぬかってやつだ。いまさら遅いぜ!)」
この“ブロック”に巣喰う人間は、皆、野蛮で好戦的だった。青のトレードカラーは全米屈指の巨大なギャング組織、ブリックスのものだ。
サバイバルナイフを右手から左手、また右手にと、持ち替え、出処を悟らせないようにしている。
少女は、サッと距離をとり、両腕を高く掲げ、注意深く観察する。
思い切りのいい踏み込みから、
少年の右腕が素早く伸びた。
間一髪、少女が躱す。
パラパラと髪が、風に舞った。
「今度は、髪だけじゃすまないぜ!」
さらに、サバイバルナイフを扱うスピードが上がる。
何度か、交錯した、そのあと─
少年が、右腕を、突き出す。
少女が、体を開いてかわしたその手の中に、ナイフはなかった。
「ッ!」
瞬間。
痛みを覚える少女。反対側(サイド)からのナイフ攻撃が、少女の左腕を特攻服の上から深く切り裂いていた。
「切って切って切って、切りまくってやるよ!」
「そんな趣味は、ないんだがな…」
痛みに眉をひそめながら、
少女は、いままで、おさえていたものを、一気に解放する。
スイッチが一瞬で切り替わるかのように、闇夜に煌めく鋭い瞳は、まるで、野生の狼のような輝きを放った。
はじめは、
小動物をいたぶるくらいの感覚だった少年。それがいまでは、少女の発する強烈なオーラに、焦りを感じ始めていた。
修羅場を経験した者だけがわかる感覚。本能的な恐怖。全身から冷や汗が噴き出す。
少年は、その思いを振り払うように、
叫声をあげ、サバイバルナイフを突き出した。
「Carving time!(切り刻んでやる!)」
焦りは、隙を生む。
少女は、右の拳を強く握りしめた。
「Sleep in the darkness!(暗闇の中で眠りな!)」
少女の右拳が、顔に迫るサバイバルナイフをギリギリで、すり抜け、少年の顔面に、クロスカウンターとなって激しくめりこんだ。勢いのまま、少年の身体が、宙を舞い、冷たいアスファルトの地面に激しく背中を打ちつけ、何度も転がっていった。
仰向けに倒れたまま、動かなくなった少年は、
うめくように、声をもらした。
「………、Dark wolf…」
少年には、少女が、まるで、血に飢えた狼のように見えたのかもしれない。
少女は、倒れている少年に、近づき、意識があることを確かめると、
「合理主義なんでね…、できれは、手荒なことはしたくなかったんだが…、そのほうが手間も省けるし─、
世の中、LOVE&PEACE…って言うだろ?」
「ハッ!よく言うぜ、クソったれが!ったく、たいしたタマだ…、ひとは見かけによらねぇって言うけど…、最近の“狼”は、可愛い子ちゃんの皮を被ってんのかよ…」
寝転がったまま、少年は、驚嘆の表情で見上げる。年下の少女に一発で倒されてしまったこと、また、身体が、まったく、動かせないことを恥じつつも。
それに追い打ちをかけるように、少女は小さく笑って、辛辣な言葉を投げかけた。
「今日はアンラッキーだったな。三下が弱いくせに、いきがるからだ…、こんなことなら、いつものように、とっとと、家に帰って、『ママの』ミルクでも飲んでいればよかったのに…」
ところで─、と
少女は、言葉をつなぎ、最優先事項である、写真の人物について、尋ねてみた。
結果として、この少年も、なにも知らないとのことだった。
少女は─
アンダーガールズ親衛隊の、木崎ユリアは、ひとり呟く。
「“ここ”にいると聞いてきたんだが…、もう少し、奥のほうをあたってみるか…、なかなか、骨の折れそうな依頼(しごと)だな…」
Illustration by パック
深夜。
街灯もほとんどなく、
分厚い雲に覆われ、月明かりすらない真っ暗な
ニューヨークの貧民街を、
漆黒の特攻服に長い黒髪を、冷たい夜風になびかせた、ひとりの少女が、決意を込めた瞳で、歩みを進めていた。
その少女は、観光客はおろか、自国の人間すらも、ほとんど足を踏みいれないスラム街(こんなところ)に、まったく、似つかわしくないほど、可愛い顔立ちの日本人(ジャパニーズ)だった。
そして、向かう先には、地元警察すらも、二の足を踏む危険極まりない“区画(ブロック)”があった。闇がさらに色濃くあらわれる。暗部。
路上に蹲った褐色の肌に白い髭の老人が、道往く少女に声をかける。
「お嬢ちゃん、そこから、先へは行かんほうが身のためじゃ…、命がいくつあっても足りん…、世の中、まだまだ、捨てたもんじゃないぞ」
「別に…、自殺願望があるわけじゃない。ただ、ひとを探しているだけだ」
少女が、毅然とした態度で応えると、
白い髭の老人は、首を振った。
「人を探しとるなら、なおさら…“そっち”へ行っても無駄じゃ…、そこへ入った者は、とっくの昔にあの世へ行ったか…、もしくは、別人のようになっとるか…、まぁ、どっちにしても似たようなもんじゃが…」
少女は、
訳知り顔の老人に、写真をつきつける。
太陽のような笑顔をした少女の姿がそこにはあった。
その写真を見て、老人は再び、首を振った。
「Thanks…」
少女は、硬貨(コイン)を親指で弾き飛ばすと、何の躊躇もなく、立ち入り禁止区域へと、歩き始める。
「Darkness is my ally.(闇は…味方だから…)」
そう呟くと、
そのまま、黒い特攻服の少女は、闇に溶けるように消えていった。
人気のない裏通りを、
しばらく、歩いていると、いきなり、少女の前に、闇が切りとられたかのように、大きな影が現れた。
ジーンズに革ジャン。青系のバンダナをした金髪碧眼のストリートギャング風の少年が、巨体を揺さぶりながら、近づいてくる。少年は、ガムを噛みつつ、少女に声をかけた。
「こんな時間に、こんなところに、遊びに来ちゃイケナイねー、BABYちゃん」
「…人を探しているんだが」
「こんなところに、運命の男(ひと)なんか、いねぇぜぃ!とっとと家に帰って、あったかいミルクでも飲んでなって!さもなきゃ、どうなっても知らねぇぞ!こんなふうに!」
と、言うやいなや、少女の腕を強く掴んだ。
「そうか…、言葉が理解できない上に、しつけの出来てない猿だったか…、それは失礼した…」
冷静に、
少女が、腕をふりほどく。
「ちっ!言うじゃねーか!おれたちのことを知らないんなら、教えてやろうか!この“ブロック”でも最強の組織(チーム)のことをな!」
少年は、
分厚い刃の、殺傷能力の高そうなナイフを取り出した。峰の部分にはセレーション(鋸刃)がついた、いわゆるサバイバルナイフをお手玉でもするかのように、クルクルと扱う。
「問答無用といったところか…」
「No holding back now.It's all or nothing!
(生きるか死ぬかってやつだ。いまさら遅いぜ!)」
この“ブロック”に巣喰う人間は、皆、野蛮で好戦的だった。青のトレードカラーは全米屈指の巨大なギャング組織、ブリックスのものだ。
サバイバルナイフを右手から左手、また右手にと、持ち替え、出処を悟らせないようにしている。
少女は、サッと距離をとり、両腕を高く掲げ、注意深く観察する。
思い切りのいい踏み込みから、
少年の右腕が素早く伸びた。
間一髪、少女が躱す。
パラパラと髪が、風に舞った。
「今度は、髪だけじゃすまないぜ!」
さらに、サバイバルナイフを扱うスピードが上がる。
何度か、交錯した、そのあと─
少年が、右腕を、突き出す。
少女が、体を開いてかわしたその手の中に、ナイフはなかった。
「ッ!」
瞬間。
痛みを覚える少女。反対側(サイド)からのナイフ攻撃が、少女の左腕を特攻服の上から深く切り裂いていた。
「切って切って切って、切りまくってやるよ!」
「そんな趣味は、ないんだがな…」
痛みに眉をひそめながら、
少女は、いままで、おさえていたものを、一気に解放する。
スイッチが一瞬で切り替わるかのように、闇夜に煌めく鋭い瞳は、まるで、野生の狼のような輝きを放った。
はじめは、
小動物をいたぶるくらいの感覚だった少年。それがいまでは、少女の発する強烈なオーラに、焦りを感じ始めていた。
修羅場を経験した者だけがわかる感覚。本能的な恐怖。全身から冷や汗が噴き出す。
少年は、その思いを振り払うように、
叫声をあげ、サバイバルナイフを突き出した。
「Carving time!(切り刻んでやる!)」
焦りは、隙を生む。
少女は、右の拳を強く握りしめた。
「Sleep in the darkness!(暗闇の中で眠りな!)」
少女の右拳が、顔に迫るサバイバルナイフをギリギリで、すり抜け、少年の顔面に、クロスカウンターとなって激しくめりこんだ。勢いのまま、少年の身体が、宙を舞い、冷たいアスファルトの地面に激しく背中を打ちつけ、何度も転がっていった。
仰向けに倒れたまま、動かなくなった少年は、
うめくように、声をもらした。
「………、Dark wolf…」
少年には、少女が、まるで、血に飢えた狼のように見えたのかもしれない。
少女は、倒れている少年に、近づき、意識があることを確かめると、
「合理主義なんでね…、できれは、手荒なことはしたくなかったんだが…、そのほうが手間も省けるし─、
世の中、LOVE&PEACE…って言うだろ?」
「ハッ!よく言うぜ、クソったれが!ったく、たいしたタマだ…、ひとは見かけによらねぇって言うけど…、最近の“狼”は、可愛い子ちゃんの皮を被ってんのかよ…」
寝転がったまま、少年は、驚嘆の表情で見上げる。年下の少女に一発で倒されてしまったこと、また、身体が、まったく、動かせないことを恥じつつも。
それに追い打ちをかけるように、少女は小さく笑って、辛辣な言葉を投げかけた。
「今日はアンラッキーだったな。三下が弱いくせに、いきがるからだ…、こんなことなら、いつものように、とっとと、家に帰って、『ママの』ミルクでも飲んでいればよかったのに…」
ところで─、と
少女は、言葉をつなぎ、最優先事項である、写真の人物について、尋ねてみた。
結果として、この少年も、なにも知らないとのことだった。
少女は─
アンダーガールズ親衛隊の、木崎ユリアは、ひとり呟く。
「“ここ”にいると聞いてきたんだが…、もう少し、奥のほうをあたってみるか…、なかなか、骨の折れそうな依頼(しごと)だな…」
Illustration by パック

