マジすか学園F☆#2ー6
【エリアK】
前田の背中を守るように、学ラン、だるま、歌舞伎シスターズの四人は、背中合わせに、小さな円形をつくり、ディーヴァの隊員たちを迎えうった。
こうすれば、主に、正面の敵を倒すことに集中できる。いくら、八百人もの人数がいるとはいえ、一斉に攻撃出来るのは、精々、十数人。そこに、少人数であることの唯一の利点があった。左右、お互いに、フォローし合いながらの持久戦。それが、この大人数を相手にする場合の最善の作戦だと思われた。
襲いかかる木刀や鉄パイプの雨をかわし、時には受け止め、ひとりひとり、確実に倒していく。その作戦は順調に進んでいくかに思えた。
しかし、それも束の間。
当然のように、時が経つにつれ、五人の体力にも、衰えが見えてくる。無理もない。これまでの死闘のダメージというものが、いま、まさに、五人に、重くのしかかってきていた。
「おい!だるま!もう、へばってきてんじゃねーだろな!」
三十五人目のディーヴァを右の拳で倒しながら、学ランが言う。
「へばってへんわい!こっからが、見せ場や!お前こそ、息あがっとるやないか!」
三十人目のディーヴァを頭突きで倒しながら、だるまが吠える。
「はぁ…、はぁ…、姉貴…、背中合わせの体形は、お互いの死角を減らし、正面の敵だけに集中できるというメリットがあり…、また、下手に移動するよりも、迎えうつという形態は、無駄な体力を温存できるという意味もあります…、ただ…、このままじゃ、最後まで保たないか、と…、何か、別の作戦を…」
二十三人目のディーヴァに水平チョップを決めながら、小歌舞伎が、分析する。ディーヴァの圧力は、想像以上に、彼女らの気力、体力をそぎ落としていった。
「そんな解説(よわね)は、聞きたくないんだよ…と言いたいところだけど、そうだねぇ…、どうするか…」
(そろそろ、“こっち”も…)
大歌舞伎が、“右肩”の痛みに耐え、三十八人目のディーヴァに、掌底を打ち込みながら、前田のほうを見やる。
心強い仲間たちに預けた背中。
もちろんほかの四人以上に疲労はあったが、久しぶりに、前田は、背後を気にすることなく、存分に闘うことができていた。
そんな中、
前田は、感じていた─
(総帥は、必ず、この近くにいる)
─これが、最終局面だということを。だとすれば、近くで、必ず、ディーヴァ総帥が、見ている。いままでのように、監視カメラからではなく─。直接。
その鋭い視線を、前田は、
いままで以上に、痛いほど、感じていた。
前田が、五十人目を左の拳で、打ちぬく。
頭を巡らし、海のほうに目を向けたとき、銀灰色(グレイ)の巨大なクルーザーが、三百メートルほど先に係留されていることに気がついた。豪華客船級の甲板に、ぼんやりと、特攻服を身に付けた人影が見える。
「クルーザーか!」
前田が叫ぶ。
「クルーザー?前田、それが…、一体…」
大歌舞伎が、不思議そうに、前田を見る。
「おそらく…、ディーヴァの総帥は、あの船にいる!」
前田は、一隻の灰色をした巨大なクルーザーを指し示した。
目の前にいたディーヴァの隊員が、前田たちに、得意気に言う。
「そうや、その通りや。お前らを潰すっちゅうこの『ゲーム』が終わった後は、あの船に、うちらが全員乗っていって、東京を制圧する予定やからな。そんで、ディーヴァが、日本を制覇するんや!」
「そんなことさせるかよ!」
学ランが、ペラペラ喋るディーヴァ隊員の胸ぐらを掴む。
「ぐっ…、そんなん…言うても、お前らには、どうしようも…ないやろ…、この人数相手に…、ここで、終わりや…」
「くそっ!」
投げ捨てる。
確かに、
このまま、ここにとどまっていても、時間の問題で、潰されるだけ。それならば─
「あつ姐!こうなったら─」
だるまが、前田の声を待つ。
このままでは、いずれ、結果は見えている。
「行け!敦子!ここを突っ切って、総帥とかいう野郎をブッ飛ばすんだ!フォローは任せろ!おれたちは、負けねーよ!」
学ランも、促すよう叫ぶ。
ここで、潰されてしまう前に、決して、容易ではないが、この包囲網を突破することに、前田は賭けることにした。
「わかった…、行くぞ、ついて来い!」
走る。巨大クルーザー目指し。一直線に。
最初のウサギが。木刀と鉄パイプの森を突き進む。
待つも地獄。進むも地獄。
ならば、前田は、飛び込む。
傷つくことを、恐れはしない。
拳を振るい、敵を倒し、
無理やり、進む道を、こじ開けていく。
その背中を、だるま、学ランが追う。
「捕まるんじゃないよ!」
小歌舞伎に、声をかけ、
大歌舞伎も、それに続こうとしたとき、
「姉貴!」
体力の限界にきていた者に狙いを定めた、複数のディーヴァ隊員たちが、小歌舞伎を捕まえていた。
「ちっ!言ってるそばから…」
大歌舞伎が、振り返り、小歌舞伎のもとへ向かおうとする。
周りはすべて敵だらけ。油断は禁物だった。
小歌舞伎を掴むディーヴァの手を離そうとする、そのなかで、大歌舞伎の死角となった背後から、木刀が振り下ろされた。
「しまっ…」
激しい痛みと共に、
頭から血を流し、
前に倒れこむ大歌舞伎に、さらに、叩きつけられる木刀や鉄パイプ。
「やめろー!」
複数の隊員たちを強引に振りほどき、必死で、
小歌舞伎が、大歌舞伎に覆いかぶさる。
直後。
次々と、その小歌舞伎の身体に、無数の凶器が勢いよく振り下ろされた。
「ぐああああああッ!」
「バ、バカ野郎!どけ!」
下から、大歌舞伎が叫ぶ。
「す…、すいま…せん、姉貴…」
「謝るんなら、どきやがれ!早く!」
その間、絶え間無く、攻めは続く。
小歌舞伎は、全身で、それらの攻撃を受け続けた。大歌舞伎の身代わりとなって。
ポタポタと落ちるのは、涙か、汗か、それとも、血か。うつ伏せの大歌舞伎には、はっきりとわからなかった。
「姉貴…、いつも…、いつも、足を引っ張って…、すいません…、それと…、最初の『約束』守れなくて…、こんな…ところで…、本当に…、すいません…」
一緒に、東京へ帰ると、皆で、誓いあったのに。ふたりで、“てっぺん”目指し、階段をのぼると、約束したはずなのに。
まだ─
その階段の途中だというのに─
(姉貴…、これが、わたしの…最後の“マジ”です…)
小歌舞伎は、初めて大歌舞伎に出会ったときのことを思いだしながら、最後まで、ディーヴァの攻撃から大歌舞伎を完全に守り、意識を失っていった。
覆いかぶさる小歌舞伎の、ちからが抜けた、その重さを感じとり、大歌舞伎の怒りが、頂点に達する。
「うぅおおおおおおおおおおおッ!!」
ちからの抜けた小歌舞伎を、左手で抱えながら、立ち上がる。と同時に、殴りかかってきたディーヴァに、大歌舞伎は、右の掌底を放つ。まとめて、ディーヴァ三人が、思い切り吹き飛んだ。“連獅子”─。
「テメーら…、どいつもこいつも、奈落の底へ…、つき落とされたいらしいね」
「やれるもんやったら、やってみろや!」
まだまだ、余裕をみせる、総勢数百人と残っているダメージのないディーヴァたちが、続々と大歌舞伎に襲いかかる。前田たちの姿は、もう、多くの人影や土煙で、見えなくなっていた。
一人。
いや、小歌舞伎を脇に抱えたまま、闘い続ける大歌舞伎。
(謝りたいのは…こっちのほうだ…、わたしのせいで、お前まで、周りからは白い目で見られ、ヤンキーのクズとまで言われ続けたあの頃…、それでも、お前は、変わらずに、いつでも、どんなときでも、一緒にいてくれた…、だから─、
わたしたちは…、いつだって…、二人で…ひとつ…、そうだろ?)
迫りくる木刀に、直接、掌底を放ち、弾き飛ばす。
反動で右肩に激痛が走る。しかし、大歌舞伎は、決め技の掌底を打ちまくる。ばたばたと、倒れていくディーヴァの隊員たち。それでも、次から次とあらわれる─
横から、後ろから。四方八方。
終わりなど見えない。
不利だとわかっていても、小歌舞伎を決して、はなさずに、闘い続ける大歌舞伎。無茶は承知の上だった。
身体に食い込む木刀。骨に響く鉄パイプ。
倒れたくなるような気持ちを必死に堪え、大歌舞伎は、掌底を連打し、迫りくるディーヴァを将棋倒しにする。また、後ろからの敵にも注意しつつ、回し蹴りをきめる。
何度も、何度も、鬼気迫るように、これでもか、と掌底を打ちまくる。それは、破滅への片道切符なのか。
大歌舞伎は、我武者羅に、
華麗とは程遠い“舞い”をみせ続けた。
そして─
ついに、恐れていたそのときが、やってきた。
大歌舞伎の右腕が、上がらなくなる。
(やっちまったか…)
観念する。それは、すなわち、体力の限界。
(前田…、すまないね…、わたしたちは…、ここまで…だ…)
ボロボロの歌舞伎の衣装。額から流れ落ちる赤い血。
動きの止まった大歌舞伎を見て、正面に立つディーヴァの隊員が言う。
「ようやく、あきらめたんやな?まったく、往生際のわるいやつらや」
それでも─、犬死だけはゴメンだった。
「ちっ…、くだらねーこと…、言ってんじゃねぇ…、あきらめの悪いのが…、“マジ女”の専売特許だ…
うちら…マジ女の歌舞伎シスターズ…、なめんじゃないよ!」
玉砕覚悟。
大歌舞伎が、群衆に飛び込んでいく。
それが、
歌舞伎シスターズの最後の“舞い”となった。