マジすか学園F☆#2ー3
とある救急病院の廊下──
カツコツと、
リノリウムの床を、踏みつけるように歩く少女。
パンプスから、黒いエナメル質のブーツに履き変えた少女は、怒りを抑えるのに、必死だった。自分自身の不甲斐なさに、つくづく、呆れる。怒りは身体中の痛みを、忘れさせていた。
(ラッパッパに…、二度目は…ねーぞ)
ラッパッパが、同じ相手に、二度、負けることは許されない。必ず、オトシマエはつける。
そう考える少女を、背後から駆け足とともに、必死に呼ぶ声があった。
「シブヤさんッ!」
切羽詰まった声は、舎弟のダンスのものだった。
「シブヤさん!どこ行くんですか?」
「トイレだよ!ついてくんじゃねぇ!」
視線は、前しか見えていない。
ダンスが、必死になるのにはそれなりに、理由があった。その原因となる、目の前の疑問を、そのまま、ぶつけてみた。
「そ、それなら…、どうして、トイレ行くのに、その『スカジャン』着てるんですか!?」
先程までのスーツ姿から一変。
ラッパッパ四天王の証。
パールピンクの光沢のあるスカジャンに。白い袖には、桜の刺繍。
救急で、運ばれてきたシブヤは、ほどなくして、意識を取り戻すと、
急いで、サークルの使い走りに、着替えとブーツを持ってくるように言い、適当な場所で着替え、医師の許しも得ず、現在、外へと、足を進めていたのだ。
一緒に運ばれてきたダンスは、シブヤより後に、目を覚ますと、すぐに、シブヤのもとを目指した。医師から、シブヤのほうが重傷だと聞かされていたからだ。
そして、シブヤの病室に向かおうとしていた矢先、シブヤらしき人物を見かけたのだった。
ダンスが呼びとめても、シブヤは、歩みを止めることはなかった。シブヤには前しか見えていない。すがりつくように、ダンスは、言う。
「ダメです!まだ、そんな身体じゃ…」
四天王の証のスカジャンにブーツ、濃いピンクのグローブ。どうみても、戦闘体制だった。
「おちおち、寝ちゃ、いられねーんだよ!」
堪えきれず、感情をあらわにするシブヤ。歩く速度は増していく。
「わたしには、わかるんだ…」
苦痛に、顔を歪め、
「わたしが、やられたってことが知れたら、勝手に暴走するやつが出てくる…、あいつらなら、きっと…」
自分なら、間違いなく、そうなるから。いままでも、そうだった。仲間がやられたら、どんなことをしても、その敵を討つ。それが、ラッパッパの絆。
「だから…、それを止めるのも、仲間(わたし)の仕事なんだよ!あの野郎は、わたしの獲物だからな」
「でも…、そんな身体じゃ…」
全身打撲に、肋骨にはヒビが入っていた。
「お前は、もう少し、ここで、休んでろ!」
「シブヤさんのほうが、ケガがひどいじゃ…」
「効いちゃいねーよ、あんなもん」
見えみえの強がり。だが、光宗の実力を肌で感じているからこそ、焦る気持ちは止まらない。
「だったら…、わたしも、一緒に行きます!」
「ばか野郎!十年早いんだよ!」
シブヤに一喝され、
しゅんとなるダンス。
そこで、シブヤは、ようやく、足を止め、振り返った。そこには、見たことのない穏やかな表情があった。
「それでも…、『十年後のお前』ってのを、早く見てみたいもんだけどな」
「シブヤさん…」
「これ、やるよ」
シブヤの手から、放たれた
桜色の小瓶がくるくると、宙を舞う。
まるで、桜の花びらのように。
ダンスは、あたふたしながら、顔面を壁に激突させ、鼻血をだし、ようやく、その小瓶を受け止めることに成功した。
「わたしにとって、たぶん、これが、最後の喧嘩になるだろう…、
ダンス…、お前は、卒業するまでに、それが似合うような女(ヤンキー)になれよ…
じゃあな、
未来で…待ってる」
そんな言葉を残しつつ、最後の扉を開き、
病院の外へ出たシブヤの姿は、あっという間に、見えなくなっていた。
ダンスは、ペディキュアの小瓶を、握りしめ、こんな言葉を思いかえしていた。
『たとえ、1%でも、勝つ“目”があるのなら…、それに賭けるのが、わたしたち…ラッパッパだ!』