マジすか学園3☆#12ー1☆
【エリアF】
降りしきる雨の教会の中庭で、アヤメは小さく言葉をもらした。
「やっぱり…、来てくれたんだね…、みなみ」
「しっかりしろ!アヤメ!」
朦朧とする意識のなか、アヤメの見上げた先に、自身の思い描いた人物は─、いなかった…。
声の主─、揺さぶる手の先には、心配そうに自分を見つめる“前田”の姿があるだけだった。
“風”のように現れ、自分を守るように支えてくれたのは、教会で眠りについていたはずの前田だったのだ。
はは…、と軽く笑うアヤメ。
来るはずないよね、と自分を嘲笑いながら、
「ごめんニャ…、騒がしくして…、“眠り姫”を起こしちゃったかな…」
まったく…と、前田は、傷だらけのアヤメの顔を痛々しそうに見る。
「……、ほんとに、強がりだな…、悪い“魔法使い”のおかげかな…、十分、休めたよ」
「……、よかったニャ…、なんだか、お前を見てたら…、昔のこと…いろいろ思い出しちゃった…よ」
「アヤメ…」
前田は、顔を上げると、アヤメをここまで痛めつけたディーヴァに向き直った。残された数名の隊員に対峙し、睨みをきかせる。
「ここからは、もう止まらない…、何があっても」
前田は左の拳を強く握り締めた。
アヤメも、元気(ちから)を取り戻す。
その時点で、
ここでの戦いは、すでに終局を迎えていた。
──かに思えた。
ジャリ…と、砂を噛む音。
「前田…、あのとき、はっきり言うたよな…」
酷薄な声。
教会の敷地内に、雰囲気をがらりと塗り替えるように、銀灰色(グレイ)の影があらわれた。
「今度、会ったら…、殺す…と」
銀灰色(グレイ)の特攻服に身を包んだ山本サヤカは、険しい表情を露わにしていた。雨は強まる一方で、次から次に、滴が凛とした顔の表面を流れ落ちていく。
「くそっ…!出てきたか…」
忌々しげに呟くアヤメは、サヤカのことをよく知っていた。
アヤメが半年前、大阪の隣県に引っ越してきた矢先、関西最大の組織ディーヴァと、それに対抗している小さなチームの噂を耳にした。
巨大な組織に闘いを挑むドン・キホーテのように、ちっぽけなチーム、NMBーZ(ナンバーズ)のことをー。
悪名高きディーヴァによって、大小様々なチームが、どんどん壊滅させられていくなか、山本サヤカ率いるNMBーZだけは、けっして屈することなく闘い続けることができていた。
それはひとえに、山本サヤカの実力の賜物だった。
その後、ディーヴァは、大阪で、一旦、なりを潜める。それを見て、山本サヤカはある目的を果たすため、チームを腹心の部下に預け、東京へ向かった。
そのころ、西日本制覇に動き始めていたディーヴァは、遠征を行い、勢力拡大を図っていたのだった。そして、西日本を制覇した後、大阪に舞い戻り、山本サヤカのいないNMBーZを叩き潰し、大阪完全制圧。ついに、関東進出に乗り出すこととなる。
チームの悲報に、急遽、大阪に舞い戻った山本サヤカは、何故か、宿敵であったディーヴァに加入する。
その実力から、すぐに将軍格と隊員100名を与えられる。それは異例中の異例のことだった。
大阪だけでなく、関西全域でもその名を広く知られた、“喧嘩の天才”──山本サヤカ。
その“天才”が、いま─、前田たちの前に、そびえる壁のように、立ちふさがっていた。
「何を言っても…無駄みたいだな…」
前田は、サヤカの揺るぎない表情をすぐさま読み取った。
「あれほどディーヴァと争っていたのに…、それに、たしか、ついこの前まで、マジ女の…、仲間、だったんだよね…?それなのに…どうして…」
アヤメにとっては、当然の疑問だった。
アヤメは、あのとき─、エリア内に侵入した前田が、サヤカに殴られた場面を目撃していた。
「仲間なんかじゃないよ…」
前田が、ゆっくりと構えをとる。拳から、滴り落ちる雨。
「……、親友(ダチ)だ…」
サヤカが眉を寄せる。
「……、同じ志をもって、一緒に喧嘩した仲間…、身体を張ってわたしを守ってくれたこともあった…、そんなあいつは…、どんなことがあっても…、わたしの、親友(ダチ)だ…」
前田の言葉は、サヤカの闘志に火をつけただけだった。
「いつまでそんな甘い“考え”しとるんや!うちは、もう、敵(ディーヴァ)や!ディーヴァの『山本サヤカ』なんや!」
ザッ、という石畳を踏む音と同時に、雨を切り裂くサヤカの右拳が、前田の顔面にヒットした。
かわしたつもりが、かわせなかった。
「くっ!」
視界が揺れる。
飛びそうになる意識を、前田は、どうにか保ち、左の拳を伸ばす。
その拳は、軽く左手で弾かれ、サヤカの右拳がまたしても前田の顔面に決まる。
大砲のような右は、前田を大きく吹き飛ばした。雨に濡れる石畳を転がっていく。
サヤカの決死の覚悟がみえる。本気だった。
いつも、おちゃらけていたサヤカだったのに。
前田は、ずぶ濡れになりながら、立ち上がり、向かっていく。歯を食いしばってー。
「うおおおおおおおお!」
サヤカは、たたき伏せるように、右の拳をふるう。ふたたび、倒れる前田。
前田の動きは、サヤカに読まれてしまっていた。
サヤカの天性の喧嘩の才が、前田を圧倒する。
「あの強い前田が…、圧(お)されてる…、」
アヤメが戦慄する。
周りで、成り行きを見ていたディーヴァの隊員たちは勢いづき、立ち尽くすアヤメに凶器で殴りかかってきた。
紙一重でかわすアヤメ。
「そうか…、まだ片付いてなかったニャ…、前田の邪魔は、させないよ…、こっちは、こっちで、やるべきことをやる…、それが、戦場での教訓…」
喰われたいヤツは前に出ろ!と、白き虎が吼えた。
ザーザーと…
前田に激しく振り注ぐ雨、そして、拳。拳。拳。
打たれ続ける。
「そんなもんやったんか!?お前の“マジ”ってやつは!!」
サヤカの大砲のような拳の連打を、両腕でガードしながら、その奥の瞳は、輝きを放つ。
「いまのお前が…、“マジ”って言葉を軽々しく口にすんじゃねぇ…」
奥歯を噛み締める前田。
「…親友(ダチ)が、道を間違えたら…、それを教えるのが…、親友(ダチ)なんだ…」
「何を言われても…、うちには、もう、お前を倒すしか…、それしか…、それしか道は、ないんや!」
拳に気合いがのる。
「くっ!…だったら、わたしの“マジ”を…、止めてみろ!」
前田が、拳の嵐をくぐり抜け、右の拳をサヤカの顔面に打ち込んだ。
しかし─、
前田の拳は、寸前に、サヤカの左手で受け止められていた。
拳を握る左手にちからを込めるサヤカ。
「恨むんなら、うちを恨め…、
前田…、お前の“マジ”を…、ここで打ち砕く!」
睨み合う二人。
降りしきる雨の勢いは、さらに激しさを増していった。
降りしきる雨の教会の中庭で、アヤメは小さく言葉をもらした。
「やっぱり…、来てくれたんだね…、みなみ」
「しっかりしろ!アヤメ!」
朦朧とする意識のなか、アヤメの見上げた先に、自身の思い描いた人物は─、いなかった…。
声の主─、揺さぶる手の先には、心配そうに自分を見つめる“前田”の姿があるだけだった。
“風”のように現れ、自分を守るように支えてくれたのは、教会で眠りについていたはずの前田だったのだ。
はは…、と軽く笑うアヤメ。
来るはずないよね、と自分を嘲笑いながら、
「ごめんニャ…、騒がしくして…、“眠り姫”を起こしちゃったかな…」
まったく…と、前田は、傷だらけのアヤメの顔を痛々しそうに見る。
「……、ほんとに、強がりだな…、悪い“魔法使い”のおかげかな…、十分、休めたよ」
「……、よかったニャ…、なんだか、お前を見てたら…、昔のこと…いろいろ思い出しちゃった…よ」
「アヤメ…」
前田は、顔を上げると、アヤメをここまで痛めつけたディーヴァに向き直った。残された数名の隊員に対峙し、睨みをきかせる。
「ここからは、もう止まらない…、何があっても」
前田は左の拳を強く握り締めた。
アヤメも、元気(ちから)を取り戻す。
その時点で、
ここでの戦いは、すでに終局を迎えていた。
──かに思えた。
ジャリ…と、砂を噛む音。
「前田…、あのとき、はっきり言うたよな…」
酷薄な声。
教会の敷地内に、雰囲気をがらりと塗り替えるように、銀灰色(グレイ)の影があらわれた。
「今度、会ったら…、殺す…と」
銀灰色(グレイ)の特攻服に身を包んだ山本サヤカは、険しい表情を露わにしていた。雨は強まる一方で、次から次に、滴が凛とした顔の表面を流れ落ちていく。
「くそっ…!出てきたか…」
忌々しげに呟くアヤメは、サヤカのことをよく知っていた。
アヤメが半年前、大阪の隣県に引っ越してきた矢先、関西最大の組織ディーヴァと、それに対抗している小さなチームの噂を耳にした。
巨大な組織に闘いを挑むドン・キホーテのように、ちっぽけなチーム、NMBーZ(ナンバーズ)のことをー。
悪名高きディーヴァによって、大小様々なチームが、どんどん壊滅させられていくなか、山本サヤカ率いるNMBーZだけは、けっして屈することなく闘い続けることができていた。
それはひとえに、山本サヤカの実力の賜物だった。
その後、ディーヴァは、大阪で、一旦、なりを潜める。それを見て、山本サヤカはある目的を果たすため、チームを腹心の部下に預け、東京へ向かった。
そのころ、西日本制覇に動き始めていたディーヴァは、遠征を行い、勢力拡大を図っていたのだった。そして、西日本を制覇した後、大阪に舞い戻り、山本サヤカのいないNMBーZを叩き潰し、大阪完全制圧。ついに、関東進出に乗り出すこととなる。
チームの悲報に、急遽、大阪に舞い戻った山本サヤカは、何故か、宿敵であったディーヴァに加入する。
その実力から、すぐに将軍格と隊員100名を与えられる。それは異例中の異例のことだった。
大阪だけでなく、関西全域でもその名を広く知られた、“喧嘩の天才”──山本サヤカ。
その“天才”が、いま─、前田たちの前に、そびえる壁のように、立ちふさがっていた。
「何を言っても…無駄みたいだな…」
前田は、サヤカの揺るぎない表情をすぐさま読み取った。
「あれほどディーヴァと争っていたのに…、それに、たしか、ついこの前まで、マジ女の…、仲間、だったんだよね…?それなのに…どうして…」
アヤメにとっては、当然の疑問だった。
アヤメは、あのとき─、エリア内に侵入した前田が、サヤカに殴られた場面を目撃していた。
「仲間なんかじゃないよ…」
前田が、ゆっくりと構えをとる。拳から、滴り落ちる雨。
「……、親友(ダチ)だ…」
サヤカが眉を寄せる。
「……、同じ志をもって、一緒に喧嘩した仲間…、身体を張ってわたしを守ってくれたこともあった…、そんなあいつは…、どんなことがあっても…、わたしの、親友(ダチ)だ…」
前田の言葉は、サヤカの闘志に火をつけただけだった。
「いつまでそんな甘い“考え”しとるんや!うちは、もう、敵(ディーヴァ)や!ディーヴァの『山本サヤカ』なんや!」
ザッ、という石畳を踏む音と同時に、雨を切り裂くサヤカの右拳が、前田の顔面にヒットした。
かわしたつもりが、かわせなかった。
「くっ!」
視界が揺れる。
飛びそうになる意識を、前田は、どうにか保ち、左の拳を伸ばす。
その拳は、軽く左手で弾かれ、サヤカの右拳がまたしても前田の顔面に決まる。
大砲のような右は、前田を大きく吹き飛ばした。雨に濡れる石畳を転がっていく。
サヤカの決死の覚悟がみえる。本気だった。
いつも、おちゃらけていたサヤカだったのに。
前田は、ずぶ濡れになりながら、立ち上がり、向かっていく。歯を食いしばってー。
「うおおおおおおおお!」
サヤカは、たたき伏せるように、右の拳をふるう。ふたたび、倒れる前田。
前田の動きは、サヤカに読まれてしまっていた。
サヤカの天性の喧嘩の才が、前田を圧倒する。
「あの強い前田が…、圧(お)されてる…、」
アヤメが戦慄する。
周りで、成り行きを見ていたディーヴァの隊員たちは勢いづき、立ち尽くすアヤメに凶器で殴りかかってきた。
紙一重でかわすアヤメ。
「そうか…、まだ片付いてなかったニャ…、前田の邪魔は、させないよ…、こっちは、こっちで、やるべきことをやる…、それが、戦場での教訓…」
喰われたいヤツは前に出ろ!と、白き虎が吼えた。
ザーザーと…
前田に激しく振り注ぐ雨、そして、拳。拳。拳。
打たれ続ける。
「そんなもんやったんか!?お前の“マジ”ってやつは!!」
サヤカの大砲のような拳の連打を、両腕でガードしながら、その奥の瞳は、輝きを放つ。
「いまのお前が…、“マジ”って言葉を軽々しく口にすんじゃねぇ…」
奥歯を噛み締める前田。
「…親友(ダチ)が、道を間違えたら…、それを教えるのが…、親友(ダチ)なんだ…」
「何を言われても…、うちには、もう、お前を倒すしか…、それしか…、それしか道は、ないんや!」
拳に気合いがのる。
「くっ!…だったら、わたしの“マジ”を…、止めてみろ!」
前田が、拳の嵐をくぐり抜け、右の拳をサヤカの顔面に打ち込んだ。
しかし─、
前田の拳は、寸前に、サヤカの左手で受け止められていた。
拳を握る左手にちからを込めるサヤカ。
「恨むんなら、うちを恨め…、
前田…、お前の“マジ”を…、ここで打ち砕く!」
睨み合う二人。
降りしきる雨の勢いは、さらに激しさを増していった。