マジすか学園3☆#11ー10☆
マジすか女学園─校長室から、二人の男女が足早に飛び出してきた。
パープルの眼鏡の女刑事を追いかけるように若い刑事が、
「待ってくださいよ!」
と発する言葉に
まったく、気にする素振りも見せず、上司である女性─警部補はスタスタと、学園の廊下を進む。
「風邪で欠席か…、“彼女”のことについて、少しだけ、話を聞きたかったんだがな…」
「空振りってとこですかねえ?」
追い越し、バットを振る仕草をみせる若さ溢れる新人刑事。
「いや…、狙い球は間違ってないはずだ…、わたしの目に狂いはない…、それにしても…」
怪しいな…と、聞こえるともなく呟き、歩を少し緩める。
「そうですよね。あの校長の英語の発音、なんだか微妙に怪しかったですもんね」
「それは、ギャグのつもりか?キャリアのギャグセンスはその程度なんだな…」
と、バッサリ切り捨てる。
「はっ!すいません!たしかに、あの校長の言い分は、何だか変でしたよね。生徒からの聞き込みによれば、前田敦子は、今朝早く、学校を訪れ、校長に退学届を提出したまま、行方がわからない…とのことでしたからね」
「そうだな…、しかし、あの校長は、なかなか食えない人物だ…、昨日の校庭での乱闘を姉妹校との恒例行事である体育祭だと平然と言い切るところといい…、どんな生徒も見捨てない校風といい…、いくら粘ってみても、おそらく、何ひとつ情報は引っ張れないだろう…、さすが初代ラッパッパといったところか…」
「ラッパッパ…?」
エリートコースを歩いてきたキャリアである若手刑事には、縁のないヤンキーの世界があった。
「“彼女”の無二の親友─前田敦子…、事件後、母親のはからいで、マジすか女学園に転入。初めは、ふさぎ込んでいたが、次第に仲間も増えていく。その後、最強武闘派集団ー大島優子率いる伝説の吹奏楽部(ラッパッパ)を撃破し、“てっぺん”の称号を継承する。
最近、起きた大きな事件─、アンダーガールズ新宿本部放火炎上事件、Dの字連続暴行事件、関西のチームとの大乱闘。
これらの中心にいるのは、いつも前田…
そして、昨夜、ガンギレ高生に対する一方的な凶行…。これは、半年前の“彼女”の事件に何らかの関係があるのは間違いないところだろう。
そんな状況で、前田が、謎の失踪…」
「怪しいですよね」
「タイミングが良すぎるな…、まるで、すべてが、一本の線で繋がっているような感じだ…」
「ガンギレ高の生徒を襲ったのは誰なんでしょうか?まさか、本当に、“彼女”が生きているとでも…?」
その問いかけには、警部補もまだ、答えが出せずにいた。だが──
「………、もし、半年前の事件の“真実”が、どこか別にあるんだとしたら、それを白日の下にさらさねーと、死んだ人間が浮かばれねーだろ…?すべての事件を解決する、その鍵は…、
きっと、前田が握ってる」
「それは、刑事のカンってやつですか?それとも、女のカンとか?」
警部補の眼鏡の奥の瞳が、獲物を狙う獣のごとき光を放つ。爛々とー。
「野性のカンだ」
校長室──
警察の聴取を終え、ソファに座ったまま、
野島百合子校長が深くため息を吐(つ)く。
前田の安否を気づかうように。
OG会のほうから、前田に関する情報は随時集まってきていた。
「よりにもよって、大阪…ですか。
こうと決めたら、走り始めずにはいられないところなんて…、母親(ハーマザー)そっくり…。
ただ、
ディーヴァの治める【エリア】には、“魔物”が棲むとも言われていますし…。
生徒たち(スチューデント)が傷つきながら、命を懸けて闘っているというのに、我々、教師(ティーチャー)が出来ることといえば…とても限られたもの…、
ですが(バット)…、
Keep something for a rainy day.(キープサムシングフォアラレイニーデイ)」
薄く、限りなく薄く微笑む。打てる手は打った。
「仕掛けられた戦争の火種…、消し方を誤ると…、大爆発(エクスプロージョン)を引き起こしかねません。東京を、いえ、日本中を巻き込むほどに…。
それでも、最高の終わり方(エンディング)を、期待してしまうのは…、マジすか女学園校長(わたし)のエゴでしょうかね…」
すべての点と線が交わるとき──
“真実”の物語が紡がれようとしていた。
大阪ー
駅前は、
敷き詰められたピンク色のカーペットのように、桜の花びらたちが、雨に濡れ落ちていた。次々と花びらが切なく散っていく様は枯れ葉を想わせる。
灰色の雨空を見上げ、白いビニール傘を開く少女。
紺色のセーラー服に深い緑のスカジャン。背中には花龍の刺繍。
「…、備えあれば憂いなし…か」
フフフ…、ハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハ───
すでに、戦闘モード全開の少女の独特の哄笑が、雨の街に響き渡っていた。
【エリアC】
世の中には、覗いてはいけない闇があるという。決して、開けてはいけない扉というものも、確実に存在する。
開けたら最期──
すべてが…終わる。
そんな禁断の扉が、いま、不幸にも、鬼塚だるまの目の前にあった。
前田の匂いをもとに、嗅覚をフル稼働させていただるまだったが、【エリア】に充満する腐臭、血の匂い、さらには雨にかき消されるように流され、辿ることができなくなっていた。
そんな折、ほとんど、廃墟同然のビルに、異様なくらい強烈な血の匂いを感じ、だるまは階段を駆け上がり、ひとつの部屋の前にたどり着いたのだった。
“開けるべからず”という白い貼り紙が、だるまの眼前の扉にあった。
「なんや…、“開けるべからず”…やと?“開けるな”言われたら、開けたなるやろが!
はっ!もしかしたら、このなかに、あつ姐がおるかもしれん…」
特注品の分厚い鋼鉄の扉はオートロックだった。しかし、通常のオートロックとは違い、内側から開けるには鍵が必要だが、外側からは難なく開く設計だ。
だるまが、重々しい扉に手をかける。
よく見れば、鋼鉄の扉とそれを覆うコンクリートの壁には、何度となく内側から破壊された跡が見てとれたことだろう。
しかし、前田の安否を気遣うだるまには、そんな余裕は少したりともなかった。
そして
いま─
だるまの手によって──
禁断の扉が開かれた。
#11 『少女たちは傷つきながら未来(あす)を見る』 終
パープルの眼鏡の女刑事を追いかけるように若い刑事が、
「待ってくださいよ!」
と発する言葉に
まったく、気にする素振りも見せず、上司である女性─警部補はスタスタと、学園の廊下を進む。
「風邪で欠席か…、“彼女”のことについて、少しだけ、話を聞きたかったんだがな…」
「空振りってとこですかねえ?」
追い越し、バットを振る仕草をみせる若さ溢れる新人刑事。
「いや…、狙い球は間違ってないはずだ…、わたしの目に狂いはない…、それにしても…」
怪しいな…と、聞こえるともなく呟き、歩を少し緩める。
「そうですよね。あの校長の英語の発音、なんだか微妙に怪しかったですもんね」
「それは、ギャグのつもりか?キャリアのギャグセンスはその程度なんだな…」
と、バッサリ切り捨てる。
「はっ!すいません!たしかに、あの校長の言い分は、何だか変でしたよね。生徒からの聞き込みによれば、前田敦子は、今朝早く、学校を訪れ、校長に退学届を提出したまま、行方がわからない…とのことでしたからね」
「そうだな…、しかし、あの校長は、なかなか食えない人物だ…、昨日の校庭での乱闘を姉妹校との恒例行事である体育祭だと平然と言い切るところといい…、どんな生徒も見捨てない校風といい…、いくら粘ってみても、おそらく、何ひとつ情報は引っ張れないだろう…、さすが初代ラッパッパといったところか…」
「ラッパッパ…?」
エリートコースを歩いてきたキャリアである若手刑事には、縁のないヤンキーの世界があった。
「“彼女”の無二の親友─前田敦子…、事件後、母親のはからいで、マジすか女学園に転入。初めは、ふさぎ込んでいたが、次第に仲間も増えていく。その後、最強武闘派集団ー大島優子率いる伝説の吹奏楽部(ラッパッパ)を撃破し、“てっぺん”の称号を継承する。
最近、起きた大きな事件─、アンダーガールズ新宿本部放火炎上事件、Dの字連続暴行事件、関西のチームとの大乱闘。
これらの中心にいるのは、いつも前田…
そして、昨夜、ガンギレ高生に対する一方的な凶行…。これは、半年前の“彼女”の事件に何らかの関係があるのは間違いないところだろう。
そんな状況で、前田が、謎の失踪…」
「怪しいですよね」
「タイミングが良すぎるな…、まるで、すべてが、一本の線で繋がっているような感じだ…」
「ガンギレ高の生徒を襲ったのは誰なんでしょうか?まさか、本当に、“彼女”が生きているとでも…?」
その問いかけには、警部補もまだ、答えが出せずにいた。だが──
「………、もし、半年前の事件の“真実”が、どこか別にあるんだとしたら、それを白日の下にさらさねーと、死んだ人間が浮かばれねーだろ…?すべての事件を解決する、その鍵は…、
きっと、前田が握ってる」
「それは、刑事のカンってやつですか?それとも、女のカンとか?」
警部補の眼鏡の奥の瞳が、獲物を狙う獣のごとき光を放つ。爛々とー。
「野性のカンだ」
校長室──
警察の聴取を終え、ソファに座ったまま、
野島百合子校長が深くため息を吐(つ)く。
前田の安否を気づかうように。
OG会のほうから、前田に関する情報は随時集まってきていた。
「よりにもよって、大阪…ですか。
こうと決めたら、走り始めずにはいられないところなんて…、母親(ハーマザー)そっくり…。
ただ、
ディーヴァの治める【エリア】には、“魔物”が棲むとも言われていますし…。
生徒たち(スチューデント)が傷つきながら、命を懸けて闘っているというのに、我々、教師(ティーチャー)が出来ることといえば…とても限られたもの…、
ですが(バット)…、
Keep something for a rainy day.(キープサムシングフォアラレイニーデイ)」
薄く、限りなく薄く微笑む。打てる手は打った。
「仕掛けられた戦争の火種…、消し方を誤ると…、大爆発(エクスプロージョン)を引き起こしかねません。東京を、いえ、日本中を巻き込むほどに…。
それでも、最高の終わり方(エンディング)を、期待してしまうのは…、マジすか女学園校長(わたし)のエゴでしょうかね…」
すべての点と線が交わるとき──
“真実”の物語が紡がれようとしていた。
大阪ー
駅前は、
敷き詰められたピンク色のカーペットのように、桜の花びらたちが、雨に濡れ落ちていた。次々と花びらが切なく散っていく様は枯れ葉を想わせる。
灰色の雨空を見上げ、白いビニール傘を開く少女。
紺色のセーラー服に深い緑のスカジャン。背中には花龍の刺繍。
「…、備えあれば憂いなし…か」
フフフ…、ハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハ───
すでに、戦闘モード全開の少女の独特の哄笑が、雨の街に響き渡っていた。
【エリアC】
世の中には、覗いてはいけない闇があるという。決して、開けてはいけない扉というものも、確実に存在する。
開けたら最期──
すべてが…終わる。
そんな禁断の扉が、いま、不幸にも、鬼塚だるまの目の前にあった。
前田の匂いをもとに、嗅覚をフル稼働させていただるまだったが、【エリア】に充満する腐臭、血の匂い、さらには雨にかき消されるように流され、辿ることができなくなっていた。
そんな折、ほとんど、廃墟同然のビルに、異様なくらい強烈な血の匂いを感じ、だるまは階段を駆け上がり、ひとつの部屋の前にたどり着いたのだった。
“開けるべからず”という白い貼り紙が、だるまの眼前の扉にあった。
「なんや…、“開けるべからず”…やと?“開けるな”言われたら、開けたなるやろが!
はっ!もしかしたら、このなかに、あつ姐がおるかもしれん…」
特注品の分厚い鋼鉄の扉はオートロックだった。しかし、通常のオートロックとは違い、内側から開けるには鍵が必要だが、外側からは難なく開く設計だ。
だるまが、重々しい扉に手をかける。
よく見れば、鋼鉄の扉とそれを覆うコンクリートの壁には、何度となく内側から破壊された跡が見てとれたことだろう。
しかし、前田の安否を気遣うだるまには、そんな余裕は少したりともなかった。
そして
いま─
だるまの手によって──
禁断の扉が開かれた。
#11 『少女たちは傷つきながら未来(あす)を見る』 終