最終章ー2☆
二階
「ククク…、残念だったな。気合いだけでは、喧嘩には勝てないからな」
殴られ続けて、血まみれになり、何度も倒され、それでも立っているヲタに言いつのる、返り血を浴びたアイリ。
バンジーとの対戦と同じく、ヲタの攻撃は、まともに、一発も受けていなかった。余裕の獅子。
「はぁ…、はぁ…、余裕見せてる…つもりかよ…、お前なんか…、ちっとも…、怖くねー。ゲキカラやサドに比べてな…。そして…、前田のほうが…、ずっと強い…」
対戦したものだけがわかる事実。
「それがどうした?」
「おれは…、てっぺん目指してんだ…。だから…、お前なんかに負けるわけにはいかねーんだよ!」
絶叫をあげ、殴りかかるヲタ。
ヲタの左拳は、アイリが軽く体をひねることにより、かわされてしまった。ヲタの体が、宙を泳ぐ。
(バンジー!)
友の名を叫び
泳ぐ体をおさえつけ
ヲタが、しっかりと右足を地につけ、踏みとどまる。振り向きざま、ヲタの右拳が、アイリの余裕の表情に、ぶち込まれた。
「ちっ!」
思いがけない攻撃に驚くアイリ。しかし、すぐに平静さを取り戻す。表向きはー。
立て続けに、左拳をアイリのボディに打ち込むヲタ。
アイリは、打たれるのも構わず、右の拳を打ち返してきた。
「がはっ!」
ヲタの顔が跳ね、後ろに倒れる。したたかに後頭部を打ちつけられた。
それでも、立ち上がろうとするヲタ。もう、何度目か…。
それを見て、アイリは言う。飽きてきたのかー
「もう、いいだろ?死ぬぞ…」
そのとき、アイリは、初めて気がついた。
ある人物の存在に。
「なぁ、お前も、そう思うよな?サド…」
階段のそばに
腕を組んで、二人の闘いを見つめているサドの姿があった。
「それはどうかな?」
「お前が相手になる、というのか?」
「それでも構わないが…、先約がいるようだ…」
ムクチ、アキチャ、ウナギが、いまにもとびかかりそうな勢いで、アイリを睨みつけている。二番隊隊員は、すでに全滅していた。
(すまねーな…、情けないリーダーで…でも…)
「まだ…、まだ、おれは、終わってねーぞ!」
ヲタが、立ち上がり、ちから強く、右の拳を握りしめた。
「じゃあ、終わらせてやるよ…。いま、すぐに!」
アイリが
獣のごとく、獲物を襲う。驚くべき速さで。右の拳をふるう。
(これを待ってたぜ!)
野生動物が獲物を捕らえる瞬間が、一番無防備だといわれるように、
ヲタが、アイリの本気の速さと攻撃を完全に見切り、
ブラインドからの、カウンターの、右アッパーを真上に打ち上げた。
「ぐはぁ!」
相手の攻撃のパワーを利用した、完璧なカウンターだった。
アイリの顎が砕ける。
体が、数メートル吹き飛ぶ。
そして、そのまま着床したアイリは、そのあと、けっして動きだすことはなかった。
喜びを、全身であらわすムクチ、アキチャ、ウナギ。
「逆転満塁サヨナラホームランってとこか…」
意識を取り戻した
バンジーが、横になったまま、そう評した。
「野球は、わかんねーんだよ」
ヲタとバンジーは、微笑みあった。
(やったぜ…。バンジー)
(やったな…。ヲタ)
無人の野を行くように
ふたたび階段をのぼり始めるサド。
かつてないほどの、群雄割拠の時代の到来を予感しながらー。