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佐藤多佳子「黄色い目の魚」


佐藤多佳子さんの作品を読むのは2作目。
前回は2007年度本屋大賞に選ばれた「一瞬の風になれ」を読んだ。
「一瞬の風になれ」は陸上競技のショートスプリントに賭けた高校生達の熱き青春のドラマ。
彼らの鼓動までをヒシヒシと感じることができた素晴らしい作品だった。


さて、今回読んだこの「黄色い目の魚」も小学生から高校生にかけての
主に高校2年生の村田みのりと木島悟の二人の主人公のそれぞれの視線の物語。

やっぱり、佐藤さんは高校生の心理描写が抜群に上手いし、
何かに打ち込んでいる姿を描写するのもとても上手い。

今回は、男女ふたりの目線で交互に描かれていく。

そして今回は「絵」を書いたり書かれたりすることと
もうひとつ「サッカー」に夢中になっている。


文庫本装丁

今回は文庫本を読んだのだが、文庫本の装丁は今どきの男女二人の高校生の後ろ姿。
何だか普通にチャラチャラしている二人のように見えるので、
この作品の主人公の二人とはちょっと違うかな、と感じる。
特にみのりの雰囲気とは違うよね。


ネットで単行本の装丁を見たが、シンプルに鉛筆が2本、
こちらのほうが断然いいですね。


湘南

最初の章では、池袋の近くの「江古田」という地名が出てくるが、
その他は全編を通して「湘南」が舞台になっている。

改めて海が見える風景っていいなあって思う。
坂の上から海を見下ろすのは気持ちいい。

昔、小樽に住んでいた頃は、海を見渡せると気持ちが良かったのを思い出すし、
あまり帰ってはいないが、今の北海道の実家も海まで10分とすごく近い。

と言っても、私は生まれてから高校生までは、ずっと山奥の町だったので、
今でも山を見ると、すごくホッとするんです。

だから海が見える風景はあこがれなのかもしれない。


足掛け20年間の連作短編


あとがきを読むと初めて『黄色い目の魚』というタイトルの話を書いたのが大学2年。
その10年後新米の物書きになって『新潮現代童話館』の原稿として書いたのが2度目。
そしてまた10年が経ち、もう一度『黄色い目の魚』を収録して本を作りたいという、
長年の夢を叶えたそうだ。
この連作短編集は2度目の執筆から10年という歳月をかけたものなので、
文章のリズムやが微妙に違ったりするそうだが、読んでいてそれほど苦にはならない。


『りんごの顔』  木島悟(小学5年) テッセイ 【江古田】
『黄色い目の魚』 村田みのり(中学1年) 木幡通 美和子 【大磯】
『からっぽのバスタブ』 村田みのり(高校2年) 木島悟 写生 木幡通 須貝さん 【極楽寺】
『サブ・キーパー』 木島悟(高校2年) サッカー 本間さん 似鳥ちゃん 【長谷観音】【葉山】
『彼のモチーフ』 村田みのり(高校2年) 木島悟 木幡通 似鳥ちゃん 【極楽寺】【長谷観音】
『ファザー・コンプレックス』 木島悟(高校2年) 玲美 似鳥ちゃん 消えない男 【横須賀】【葉山】【長谷観音】
『オセロ・ゲーム』 村田みのり(高校2年) 文化祭 木幡通個展 【極楽寺】【吉祥寺】
『七里ヶ浜』 木島悟(高校2年)スケッチブック 【七里ヶ浜】


家族の問題、友達との問題、部活、将来のこと、そして恋。
二人がそれぞれの環境の中で、悩みながらも逃げないでぶつかっていく姿。
悩んで、自分を見つめ、決心し、信じていく。


佐藤さんの自然で的確な描写は読者を放さない。
後半は湘南の海風を感じながら、自分も青春の中にいるように感じる。

読後感はとても清々しい。


内容(「BOOK」データベースより)
海辺の高校で、同級生として二人は出会う。周囲と溶け合わずイラストレーターの叔父だけに心を許している村田みのり。絵を描くのが好きな木島悟は、美術の授業でデッサンして以来、気がつくとみのりの表情を追っている。友情でもなく恋愛でもない、名づけようのない強く真直ぐな想いが、二人の間に生まれて―。16歳というもどかしく切ない季節を、波音が浚ってゆく。青春小説の傑作。