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村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」


1980年前半に書かれた村上春樹の初期の短編集。

先日読んだ小川洋子さんのエッセイ「博士の本棚」の中で、
小川さんは村上さんのファンで、この短編集がとにかく好きだとしていて、
死ぬ間際に枕元に置いておきたい5冊くらいの中にも入っていたので、
とても気になって今回読んでみた。
小川さんは特に『午後の最後の芝生』がお気に入りだそうだ。


実は私はあまり村上春樹作品を読んではいない。
村上春樹が活躍し出した頃、仕事や遊びに忙しく、
あまり小説は読んでいなかったからだ^^。


今回、読んでみて感じたのは出版されて20年以上も経過しているのだが、
書かれている時代背景が自分の歩いてきた時代背景とかなり一致しているために、
作品の中の情景を思い起こすのには全然違和感なく読めたこと、
ただ、彼の想像力の中で自由奔放に彼方此方へ飛び回るということには、
つまり村上作品に自分は多少慣れていないなとも感じた。
しかし、その文章のうまさ、訴求力は素晴らしいと思う。


「僕達はどこへでも行けるし、どこへも行けない」

そのとおりだ。
オーケー、僕はどこにでも行けるし、どこへも行けない。
だから面白いのだ。


     ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


青いテーブルクロスの上に二つの洋梨が置かれた皿。
シンプルながら印象的なイラストである。
多分、この二つの洋梨からもさまざまな物語が浮かび上がってくるはずだ。


・中国行きのスロウ・ボート
・貧乏な叔母さんの話
・ニューヨーク炭鉱の悲劇
・カンガルー通信
・午後の最後の芝生
・土の中の彼女の小さな犬
・シドニーのグリーン・ストリート

「1973年のピンボール」のあとに書かれた4編と「羊をめぐる冒険」のあとに書かれた3編だそうだ。

表題作はなかなかの味わいがある。
中国人との3つのエピソードがとても心に残り、「あまりにも遠い」という
締めくくりが印象的だ。

ただ、私の好みで行けば、後半の3作品が好きだ。
小川さんがとにかく好きだとしている『午後の最後の芝生』は
確かに何と言うことはない物語なのだが、あの暑い夏の風景と
自分の心境や最後の芝生の持ち主の持つ空気感などが広がってくる。
『土の中の彼女の小さな犬』も主人公と女性のもつ緊張感を感じながら、
つい引き込まれていった。『シドニーのグリーン・ストリート』も楽しい話。

もう少し村上春樹作品を読んでみようかと思っている。


追記:

読んでからしばらく経ったが、何故か『午後の最後の芝生』の情景が頭に残っている。
あの暑い夏の日、もうしばらくは芝生を刈ることがない、最後の日。
自分の納得のいく芝生の刈り方で最後まで芝を刈る。
それを芝生のオーナーが亡き夫とダブらせて自分を見ている。
良き理解者として。同胞のように。
確かにあの夏の日はあったな、とあたかも自分の記憶のように
懐かしく思うのは何故だろう。



内容(「BOOK」データベースより)
青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。著者初の短篇集。