
宮部みゆき「楽園」
宮部さんの作品を読むのは40作目。
残すは相変わらずファンタジー6作品のみ。
さすがの宮部さん作品!引き込まれます。
残すは相変わらずファンタジー6作品のみ。
さすがの宮部さん作品!引き込まれます。
「楽園」というタイトルはつかみどころがない。
現代事件ものなので、文字どおりの南国の楽しいところという感じでもなく、
何か象徴的な意味で使っているのだろう。
現代事件ものなので、文字どおりの南国の楽しいところという感じでもなく、
何か象徴的な意味で使っているのだろう。
装丁は上巻が蝿取り紙、下巻が使い終わった(もしくは投げられた)タオル。
蝿取り紙はそのまま五月蝿い蝿を退治するもの、
タオルはボクシングの試合で途中棄権を意思表明するセコンドによる投げ入れと
いう印象を受けた。
蝿取り紙はそのまま五月蝿い蝿を退治するもの、
タオルはボクシングの試合で途中棄権を意思表明するセコンドによる投げ入れと
いう印象を受けた。
読み終わって、うーん、よくこういう装丁を考え付くなあと感心する。
この作品は超大作「模倣犯」で重要な役割を演じたルポライター前畑滋子が主人公。
本当は「模倣犯」を再読してから取り掛かるのが理想的だが、
なにせあのボリューム(文庫本5冊)、読んだ後のダメージの大きさ、を考えると
二の足を踏む。私は2年前に読んでまだあの興奮や憎悪は忘れがたいので、
このまま突入しよう。(言い訳^^)
本当は「模倣犯」を再読してから取り掛かるのが理想的だが、
なにせあのボリューム(文庫本5冊)、読んだ後のダメージの大きさ、を考えると
二の足を踏む。私は2年前に読んでまだあの興奮や憎悪は忘れがたいので、
このまま突入しよう。(言い訳^^)
前畑滋子はあの連続殺人事件のあと、事件のことを著書として残してはいない。
あれだけのパワーを使って調べあげ、事件解決の重要な鍵を握っていたのだが、
その後の公判やあの山荘のこと、被害者のことを思い出すと具合が悪くなり、
とても書く気にはなれなかった。
一時はルポライターの仕事もやめて、夫の会社の手伝いなどをしていたが、
あれから9年経過して、今は少しずつフリーペーパーを編纂している会社を
手伝い始めている。
あれだけのパワーを使って調べあげ、事件解決の重要な鍵を握っていたのだが、
その後の公判やあの山荘のこと、被害者のことを思い出すと具合が悪くなり、
とても書く気にはなれなかった。
一時はルポライターの仕事もやめて、夫の会社の手伝いなどをしていたが、
あれから9年経過して、今は少しずつフリーペーパーを編纂している会社を
手伝い始めている。
そんな滋子のところに、知り合いのライターを通じて、萩谷敏子が会いに来た。
先日事故で亡くした小学6年生の息子が書き残した不思議な絵を持って。
先日事故で亡くした小学6年生の息子が書き残した不思議な絵を持って。
萩谷等はサイコメトラーだったのではないかというのだ。
等は一体何を感じてこの絵を描いていたのか。
等は一体何を感じてこの絵を描いていたのか。
その不思議な絵には、少し前に発覚した事件のことが描かれていた。
火事で半焼した家の床下に、実は16年前に殺害して娘が埋められていたものだった。
火事で半焼した家の床下に、実は16年前に殺害して娘が埋められていたものだった。
さらに何枚もの絵が描かれており、その中にはなんと9年前のあの山荘の絵も
あったのだ。しかもどこにも公表されていない筈のものも描かれていた。
あったのだ。しかもどこにも公表されていない筈のものも描かれていた。
前畑滋子は当初この仕事は断るつもりだったが、等が書いた不思議な絵が
サイコメトラー能力によって描かれたものなのか、
実は等が以前に見たことがあって思い出して描いていたのか、
残された母親のせめてもの救いになればと思い、
後者であることを確かめるために調査を行うことにした。
サイコメトラー能力によって描かれたものなのか、
実は等が以前に見たことがあって思い出して描いていたのか、
残された母親のせめてもの救いになればと思い、
後者であることを確かめるために調査を行うことにした。
萩谷等のことを調べていくうちに、前畑滋子は次第に16年前の殺人事件の
本質に関わることになっていくのだ。
本質に関わることになっていくのだ。
かなりの長編だが、宮部さんらしく、あまり長さを感じさせない。
- 身内のなかに、どうにも行状のよろしくない者がいる。世間様に後ろ指を
指されるようなことをしてしまう。挙句に警察にご厄介になった。
そういう者がいるとき、家族はどうすればよろしいのです?
そんな出来損ないなど放っておけ。切り捨ててしまえ。
そうおっしゃるんですか。
誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。
指されるようなことをしてしまう。挙句に警察にご厄介になった。
そういう者がいるとき、家族はどうすればよろしいのです?
そんな出来損ないなど放っておけ。切り捨ててしまえ。
そうおっしゃるんですか。
誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。
今回もやはり土井垣茜やシゲなど毒の強い人たちが登場してくる。
そしてそういう毒の強い人を身内にもった場合の、身内の苦悩がクローズアップされる。
そこで家族愛や家族の絆がひとつのキーワードとなってくる。
そしてそういう毒の強い人を身内にもった場合の、身内の苦悩がクローズアップされる。
そこで家族愛や家族の絆がひとつのキーワードとなってくる。
一方では、
今回は最初の依頼者である萩谷敏子の存在が重要な位置づけとなっている。
普通のおばさんではあるが、人に対する気遣いや優しさがあふれてくる。
荒んだ心を癒してくれるそんなキャラクターに、廻りの人たちは時折敏子に
会ってほっとしたくなるのだ。
(実は敏子もたいへん素晴らしい役者なのだが)
今回は最初の依頼者である萩谷敏子の存在が重要な位置づけとなっている。
普通のおばさんではあるが、人に対する気遣いや優しさがあふれてくる。
荒んだ心を癒してくれるそんなキャラクターに、廻りの人たちは時折敏子に
会ってほっとしたくなるのだ。
(実は敏子もたいへん素晴らしい役者なのだが)
きっとそういうオアシスのような人が必要なんだよね。
敏子みたいな人が身近にいれば、もしかしたら茜のようにはならなかったのかも。
敏子みたいな人が身近にいれば、もしかしたら茜のようにはならなかったのかも。
「楽園」については、最後のほうで記述があるが、
聖書にある禁断のリンゴを食べてしまい、「アダムとイヴ」が追放された楽園。
人間はもともと原罪を抱えているという。
それならば人々が求める楽園は常にあらかじめ失われているのだ。
人間はもともと原罪を抱えているという。
それならば人々が求める楽園は常にあらかじめ失われているのだ。
それでも人々は己の楽園を求めようとするのだ。
代償を払ってでも。
代償を払ってでも。
宮部さんは「模倣犯」を書くことによって、ある種の十字架を背負ってしまった
ように思える。作者の頭の中だけで創りだしたフィクションではあるものの、
まるで現実に起こしてしまったかのように読者の心に残っているから、
そして宮部さん自身にも残っているからなのではないだろうか。
前畑滋子と宮部さんは少なからず重なるものを感じる。
ように思える。作者の頭の中だけで創りだしたフィクションではあるものの、
まるで現実に起こしてしまったかのように読者の心に残っているから、
そして宮部さん自身にも残っているからなのではないだろうか。
前畑滋子と宮部さんは少なからず重なるものを感じる。
あとがきを読むと今回の作品はちょうど模倣犯を書いていた頃に
宮部さん自身が見た夢をもとに書いたそうだ。
しかし書こうとした頃に現実で同じような事件が起こってしまい、
宮部さんは書くのはやめようかどうか迷ったそうだ。
でも最終的には書きたかったのだそうだ。
宮部さん自身が見た夢をもとに書いたそうだ。
しかし書こうとした頃に現実で同じような事件が起こってしまい、
宮部さんは書くのはやめようかどうか迷ったそうだ。
でも最終的には書きたかったのだそうだ。
この作品の中では、9年前の連続殺人事件によって受けた前畑滋子の心の痛手が
思いのほか深かったこと、しかし、長い時の流れと夫の優しい支えがあってこそ、
なんとか回復してきたこと、それによって夫婦の絆が強くなったこと、
が描かれている。ここでも家族愛の大事さがうたわれている。
思いのほか深かったこと、しかし、長い時の流れと夫の優しい支えがあってこそ、
なんとか回復してきたこと、それによって夫婦の絆が強くなったこと、
が描かれている。ここでも家族愛の大事さがうたわれている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しかし、前畑滋子は9年前のあの事件ことをまだ著書にはしていないのだ。
今までは書けなかったのだが、今回のことで滋子はひとつまた強くなった。
今までは書けなかったのだが、今回のことで滋子はひとつまた強くなった。
滋子もいつかは9年前のことを正面から書くことになるだろう。
網川が公判でどのようになっていくのか。関わった人たちがその後
どのようになっているのか、そして自分自身がどうなっているのか、
どう納得するのかを。
網川が公判でどのようになっていくのか。関わった人たちがその後
どのようになっているのか、そして自分自身がどうなっているのか、
どう納得するのかを。
その時には今回書き残した萩谷等のあの山荘の絵がどのようにして書かれたのかが
ひとつのエピソードとして明かされるのではないだろうか。
ひとつのエピソードとして明かされるのではないだろうか。
そこで「模倣犯」も「楽園」も完結するような、そんな続編を宮部さん
書いてくれないだろうか。
書いてくれないだろうか。
【内容情報】(「BOOK」データベースより) 「模倣犯」事件から9年が経った。事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、荻谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子に関する、不思議な依頼だった。少年は16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、それを絵に描いていたという―。